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過去と今
ep72 あれから
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*
あれからミアへの誹謗中傷はおさまっていった。
エマの汚名と引き換えに。
「エマさん、学校どうするんだろうね」
放課後、俺の部屋に遊びに来たフェエルが腰をおろすなり心配そうに言った。
「まさか、エマさんがあんなふうにミアちゃんを庇うなんて」
「小僧。お主はエマ女子の行動を予測しておったのか?」
イナバが机にぴょーんと飛び乗った。
「まあ、あやつも性根までは腐っとらんかったということか」
「腐っているもなにも、スゴイよ。昔の俺にはきっとあんなことできなかった。正直、ちょっとカッコイイと思ってしまった」
本音だ。
エマがもともとジェットレディに憧れて国家魔術師を目指していたというのも頷ける。
今後のことはわからないけど、少なくともあいつは...自分のやれることをやったんだ。
「やり方が正しかったのかはわからない。けど、あいつは行動した。いつまでも考えるだけで何もしない奴は何も考えていないのと一緒。そうだろ?」
「ちゃんとオイラの話を覚えておるようだな」
「でもさ。エマさんの行動を促したのはヤソみんの行動だよ」
「そう...かな」
「......ヤソみんはさ。ミアちゃんだけじゃなく、エマさんとミアちゃんの二人をなんとかしてあげたかったの?」
俺は一瞬考えこむ。
正直、どうなんだろうか。
たしかに、ミアのみならずエマのことも放っておけなかったのは事実だ。
でも、そこまで俺は正義感の強い人間ってわけじゃない。
俺はただ......自分の過去を昇華したかったんじゃないだろうか。
だとすれば、俺のエゴなのかもしれない。
「自己満足なのかもな、俺の」
「そ、そんなことないよ!」
「実際、エマには辛い現実が待っているわけだし」
「まっ、これからわかるじゃろう」
イナバが俺の頭上にぴょーんと飛び移った。
「行動は結果を生み、結果は行動を生む。そうやって世界は移りゆくもの。その中で人はどう生きてゆくか、それが大事なのじゃ」
「なんだか哲学的で難しいね。でも」
フェエルが微笑を浮かべる。
「ぼくは思うよ。少なくとも、ぼくはヤソみんのことを信じて行動ができて良かったって」
友達の優しい顔を見つめながら、なんとなく胸を撫で下ろした。
何もしなかったなら、きっとフェエルのこんな顔は見られなかったんじゃないだろうか。
それだけでも、価値があったと思いたい。
「ヤソガミ氏!!」
突然、部屋の外からドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。
「見てくれ!!」
ドアがばーん!と開いたと思ったら、ルームメイトのライマスがスケッチブックを持って立っていた。
俺たちは、ぽかーんとする。
「ライマス?どうしたんだ?」
「これだ!会心の出来だろう!?」
ライマスはスケッチブックをばっと開き、自慢の絵を見せつけてきた。
よく見ると......とんでもないイラストが目に飛びこんできた。
「それ、まさか......ミアとエマか??」
「そうだ!ケモミミ娘と生意気ギャルだ!」
鼻息を荒くしたライマスの自慢の作品とは何か?
「淫らな格好をしたミアとエマが絡み合っている......て、お前はなにを描いてんだー!!」
「ふたりがビッチという興味深い話を小耳に挟んでな。もっともミア・キャットレー(隠れ巨乳)のほうはデマだったようだが。しかし面倒なので二人ともビッチ設定で描いてやったぞ!」
一同が唖然とする中、俺は御神札を取りだしてライマスの正面にスッと立った。
そして大きく振り上げる。
「ん?ヤソガミ氏?」
きょとんとするライマスへ、勢いよく振り下ろした。
「天誅ッ!!」
スパーン!という音とともに、ライマスが床へバターンと沈んだ。
この時、俺は生まれて初めて御神札で人を殴った。
後悔はない。
「ライマスくんは相変わらずだねぇ」
あはは...と苦笑するフェエル。
「悪い意味でな」
バッサリと言い放った俺に、なぜかフェエルが不思議そうな顔を向けてきた。
「ところでさ」
「ん?」
「ヤソみんに魔力がないかもしれないって、びっくりだよね。あんなにスゴイ魔法を使えるのに」
それには俺も驚いた。
魔法病院とやらで診断してみないことには確実なことは言えない。
ただ少なくとも、ハウ先生がいい加減にそんなことを言っているようには思えない。
「じゃあ俺の力ってなんなんだ?魔法ではないのか?」
御神札をじっと凝視する。
「イナバはなにか知っているのか?」
「お主のそれは確かに魔法じゃ。少なくともこの世界においてのな」
「でも魔力はないのかもしれないんだろ?」
「小僧の場合、動力源が異なる、ということかもしれんな」
「動力源?」
「折を見て魔法病院とやらに行ってみるとよいじゃろう。まあ今現在とりたてて何かに困っておるわけでもないんじゃし、あまり気にせんでもよい」
「そう言われればそうだけど」
「それよりも、お主にはやることがあるんじゃろ?」
「そうだな」
「オイラは大人しくここで待っててやるから、せいぜい頑張るがよい」
そうだ。
俺にはやることがある。
魔力のことも気にかかるけど、それはとりあえず置いといて......まずは明日だ。
あれからミアへの誹謗中傷はおさまっていった。
エマの汚名と引き換えに。
「エマさん、学校どうするんだろうね」
放課後、俺の部屋に遊びに来たフェエルが腰をおろすなり心配そうに言った。
「まさか、エマさんがあんなふうにミアちゃんを庇うなんて」
「小僧。お主はエマ女子の行動を予測しておったのか?」
イナバが机にぴょーんと飛び乗った。
「まあ、あやつも性根までは腐っとらんかったということか」
「腐っているもなにも、スゴイよ。昔の俺にはきっとあんなことできなかった。正直、ちょっとカッコイイと思ってしまった」
本音だ。
エマがもともとジェットレディに憧れて国家魔術師を目指していたというのも頷ける。
今後のことはわからないけど、少なくともあいつは...自分のやれることをやったんだ。
「やり方が正しかったのかはわからない。けど、あいつは行動した。いつまでも考えるだけで何もしない奴は何も考えていないのと一緒。そうだろ?」
「ちゃんとオイラの話を覚えておるようだな」
「でもさ。エマさんの行動を促したのはヤソみんの行動だよ」
「そう...かな」
「......ヤソみんはさ。ミアちゃんだけじゃなく、エマさんとミアちゃんの二人をなんとかしてあげたかったの?」
俺は一瞬考えこむ。
正直、どうなんだろうか。
たしかに、ミアのみならずエマのことも放っておけなかったのは事実だ。
でも、そこまで俺は正義感の強い人間ってわけじゃない。
俺はただ......自分の過去を昇華したかったんじゃないだろうか。
だとすれば、俺のエゴなのかもしれない。
「自己満足なのかもな、俺の」
「そ、そんなことないよ!」
「実際、エマには辛い現実が待っているわけだし」
「まっ、これからわかるじゃろう」
イナバが俺の頭上にぴょーんと飛び移った。
「行動は結果を生み、結果は行動を生む。そうやって世界は移りゆくもの。その中で人はどう生きてゆくか、それが大事なのじゃ」
「なんだか哲学的で難しいね。でも」
フェエルが微笑を浮かべる。
「ぼくは思うよ。少なくとも、ぼくはヤソみんのことを信じて行動ができて良かったって」
友達の優しい顔を見つめながら、なんとなく胸を撫で下ろした。
何もしなかったなら、きっとフェエルのこんな顔は見られなかったんじゃないだろうか。
それだけでも、価値があったと思いたい。
「ヤソガミ氏!!」
突然、部屋の外からドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。
「見てくれ!!」
ドアがばーん!と開いたと思ったら、ルームメイトのライマスがスケッチブックを持って立っていた。
俺たちは、ぽかーんとする。
「ライマス?どうしたんだ?」
「これだ!会心の出来だろう!?」
ライマスはスケッチブックをばっと開き、自慢の絵を見せつけてきた。
よく見ると......とんでもないイラストが目に飛びこんできた。
「それ、まさか......ミアとエマか??」
「そうだ!ケモミミ娘と生意気ギャルだ!」
鼻息を荒くしたライマスの自慢の作品とは何か?
「淫らな格好をしたミアとエマが絡み合っている......て、お前はなにを描いてんだー!!」
「ふたりがビッチという興味深い話を小耳に挟んでな。もっともミア・キャットレー(隠れ巨乳)のほうはデマだったようだが。しかし面倒なので二人ともビッチ設定で描いてやったぞ!」
一同が唖然とする中、俺は御神札を取りだしてライマスの正面にスッと立った。
そして大きく振り上げる。
「ん?ヤソガミ氏?」
きょとんとするライマスへ、勢いよく振り下ろした。
「天誅ッ!!」
スパーン!という音とともに、ライマスが床へバターンと沈んだ。
この時、俺は生まれて初めて御神札で人を殴った。
後悔はない。
「ライマスくんは相変わらずだねぇ」
あはは...と苦笑するフェエル。
「悪い意味でな」
バッサリと言い放った俺に、なぜかフェエルが不思議そうな顔を向けてきた。
「ところでさ」
「ん?」
「ヤソみんに魔力がないかもしれないって、びっくりだよね。あんなにスゴイ魔法を使えるのに」
それには俺も驚いた。
魔法病院とやらで診断してみないことには確実なことは言えない。
ただ少なくとも、ハウ先生がいい加減にそんなことを言っているようには思えない。
「じゃあ俺の力ってなんなんだ?魔法ではないのか?」
御神札をじっと凝視する。
「イナバはなにか知っているのか?」
「お主のそれは確かに魔法じゃ。少なくともこの世界においてのな」
「でも魔力はないのかもしれないんだろ?」
「小僧の場合、動力源が異なる、ということかもしれんな」
「動力源?」
「折を見て魔法病院とやらに行ってみるとよいじゃろう。まあ今現在とりたてて何かに困っておるわけでもないんじゃし、あまり気にせんでもよい」
「そう言われればそうだけど」
「それよりも、お主にはやることがあるんじゃろ?」
「そうだな」
「オイラは大人しくここで待っててやるから、せいぜい頑張るがよい」
そうだ。
俺にはやることがある。
魔力のことも気にかかるけど、それはとりあえず置いといて......まずは明日だ。
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