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過去と今

ep73 狂乱の破壊姫

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 翌朝。
 とある場所で、俺はフェエルと待ち合わせていた。

「ヤソみんおはよう~。て、えええ??」

 俺と顔を合わすなりフェエルが驚いたのには理由がある。

「な、なななんでヤソミちゃんなの!?」

「ヤソミの正体を知っているのは先生以外、フェエルとエマとミアだけだろ?」

「そうだけど」

「ま、細かいことは気にするな」

「ぜんぜん細かくないけど!?」

 さて、朝から俺たちは一体なにをしているのか?
 
「マジでなんなんだよ」
「しかもなんでヤソミ......」

 今、俺たちは四人で登校している。
 メンバーは俺(ヤソミ)、フェエル、ミア、エマの四人。
 今朝、俺はフェエルを連れてエマとミアを家まで迎えにいった。
 エマとミアのふたりはわけがわからないといった様子。

「つーか、昨日あーしは学校辞めるっつったばっかだぞ?」

「それは先生が保留するって言ってただろ」

「そうだけど!」

「こうでもしないとエマは学校に来なそうだったからな」

「ならミャーミャーもいるのはなんでだよ?」

「こうでもしないと二人とも顔合わせづらそうだったからな」

 途端にエマは押し黙った。
 するとミアがおもむろにエマの前に躍り出る。

「エマちゃん!」

「な、なんだよ」

「わたしのこと、守ろうとしてくれて、ありがとう!」

「昨日のことか。べつにいいよ」

「でも!ちゃんと言いたくて!」

「だからもういいよ。これでチャラになったとも思ってねーし」

 ふたりはしばらく見つめ合い、どちらともなく顔をほころばせた。
 これも行動が生んだ結果だろうか。
 
「ちょっと急ごうか。このままじゃ遅刻になるかも」

 足を早めた。
 学校に着くと、まわりの生徒たちから、まるで奇異なものでも見るような視線が俺たちへ集まる。

「おい、なんかスッゲー見られてんぞ」

「そ、そうだね」

「ねえヤソミん...じゃなくヤソミちゃん。大丈夫なの?」

 不安をあらわにするエマとミアとフェエルをよそに、ヤソミとなった俺はズイッと一歩前に出た。

「あたしは特異クラスの破壊姫、ヤソミだ!」

 最高に鋭い声で吠えた。
 破壊姫の...オンステージ開幕だ!

「そして後ろにいるのは、あたしの子分どもだ!」

 今、後ろの三人はどんな顔をしているだろう。
 呆れて物も言えないか?
 しかし俺は止まらない。

「最近、あたしの子分のふたりのが、ろくにオトコも知らないくせに妙な騒ぎを起こしていたみたいだが、真のビッチ女王はあたしだからな!」

 決まった。
 と思いこんで続ける。

「あたしは女王だからな!あたしを差し置いて子分が噂されているのは気に入らない!だから今後、そんな噂を口にしているヤツがいたら......」

 俺はヤソミの脚力を最大限活かし、天高く飛び上がった。
 そこらの生徒全員が、ぽかーんと俺を見上げている。
 
「よし!」

 そのまま俺は彗星のように、敷地内に建てられた立派なモニュメントめがけてぎゅーんと急降下する。

 ドガァァァン!!

 破壊姫ヤソミの彗星落下キック。
 まるでミサイルでも撃ち込んだかの如く、物の見事にモニュメントを破壊した。
 
「こうなるからな!覚悟するんだな!」

 決まった。
 我ながら最高の傍若無人ぼうじゃくぶじんぶりを演出。
 シンプルに危なさを見せつけられたと思う。
 こういうのは、単純な肉体による暴力が説得力を生むんだ。

「おい!今の音はなんだ!」

 数人の先生たちがあわてて校舎から飛び出してきた。

「なっ!モニュメントが!?」

 驚く先生たちを尻目に、俺は三人に向かってドヤ顔を決める。

「どう?」

 ところが、フェエルもエマもミアも、期待とは異なるリアクションを見せた。

「な、な、ななななにをやってんだぁぁぁ!!」

 この後。
 俺は職員室に呼び出され、先生たちにこっぴどく叱られた。
 特に、ガブリエル先生には完全に目をつけられたようだ。

「お前の素行は目に余る!」

 何らかの厳罰処分が下される!
 と思った。が、俺に下されたのは......
「一週間、モニュメントを綺麗に掃除すること」
 魔法科の先生による魔術で元通りになったモニュメントを、一週間の間、毎日ピカピカにしろってことだ。


「結構、ダルい......」

 放課後。
 ひとりでモニュメントを掃除していたら、フェエルがやってきた。

「ヤソミちゃん」

 フェエルは掃除道具を持っていた。

「ぼくも手伝うよ」

「あ、ありがとう。......あれ?」

  俺はフェエルの後ろにふたりの女子生徒が立っているのに気づく。

「エマとミア?」

「あーしも手伝うよ」

「わたしも手伝う」

 ふたりはニコッと笑った。
 四人で始めると......あっという間に終わった。

「終わった~」

 フーッと息を吐いて、磨き上げたモニュメントを見上げる。
 斜めに当たる太陽の光が反射して、俺たちの顔を照らした。
 その時、みんなが自然に浮かべた笑顔に、俺は一瞬なにもかもを忘れた。
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