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第五章 彼岸花
夜会のお誘い
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黄虎と朱翔は夕餉を済まし、宮内陰域奥の方へと歩いた。
「なぁ黄虎、玄華様って…凄いな」
「あぁ」
「お前の二人目の母上みたいだな」
「あぁ私はずっと伯母上に救われてきた。黄怜のことで私を責めたことは一度もないよ、今日だってそうだ、私が慰められてしまったよ…」
黄虎は敵わないと微笑む。
「私から文を玄華様に渡させたのは、お前の考えがあってのことか?」
「いいや、お会いしたら直ぐに話ができるようにだ、何でだ?」
「いいや、お前らしいと思ってなハハハ」
それが黄虎の策だったとしたら、朱翔は少し驚きだった。
「お前は蒼万の本当の神力を、知っていたんだな」
「あぁ」
「あいつ、何も言わないからなぁ」
「蒼万にも言えない事があるのだよ、私達みたいに…」
黄虎のその言葉は、朱翔にも何かあると言いたげに聞こえる。
「朱翔、お前伯母上に何処まで話した?」
「ふっ、さぁな」
「……お前は本当、食えない奴だな」
「…お前もだろ?」
二人は薄暗い中で密かに微笑みながら、互いの言葉に顔を横に振る。
黄虎はひょっとしてと尋ねる。
「お前、何故伯母上に柊虎のことを話した?」
「何故って…面白そうだったから」
やはり、黄虎の予想は当たっていた。
「お前っ、伯母上や柊虎の気持ちも考えろよっ」
「だからだよ。お前も柊虎も玄華様も、何も言わないからこうなるんだ」
「それは…」
朱翔の意外な言葉に黄虎は何も言えなくなる。
「一番は、黄怜だ…」
「……」
「全ての繋がりを持つ本人が、何も言わず…いなくなった…」
「……」
「だから残された者が苦しむんだよ…」
朱翔に何の思惑があるのか、黄虎には分からない。ただ、そう言った朱翔の声が、心なしか寂しげに聞こえた。朱翔もその繋がりの内の一人なのだと黄虎は言う。
「お前も私に言いたいことは言えよ」
「…私はまだ死なないよ」
「当たり前だっ、死ぬ前に話せっ」
「ハハハわかった」
話をしている内に、二人は陰域の端っこに辿り着いた。
朱翔は目を凝らして辺りを見渡す。
「こんな所までは、来たことないな…」
「私もだ… ここは墓石も無いから、誰も来ないよ」
朱翔は雲雀を出し文を託す。
「雲雀、頼んだぞ」
「クピッ!」
雲雀は真っ暗な夜空を静かに飛び立った。
「相変わらず大きいな」
「祖父上の雀都の方が大きいよ」
「雲雀は柊虎の所には、どれぐらいで着くのだ?」
「私達と同じ日に出たから、柊虎は今頃中央宮に近い、西宮領域の觜宿の村に泊まっているはずだ、雲雀なら一刻〔約ニ時間〕もあれば着くよ」
「一刻で? 早いな…」
雲雀の姿は既に暗闇に紛れ見えなくなっていた。
ガサッ…
「そこにいるのは誰です?」
突然、背後からの声に二人はばっと振り返る。
ここへは誰も来るはずがないと思っていた二人は、息を殺し声のした方向に目を凝らした。
声の主がゆっくり近付く。
「…黄…虎?」
暗闇の中から薄らと金の羽織が見え、聞き覚えのある声に黄虎は眉をひそめる。
「しっ玄枝様⁉︎」
「あなた達っ、ここで何をしているのですか⁉︎」
黄虎が知っている柔らかい表情とは違い、険しい顔付きの玄枝が二人を凝視する。
突然の事に対応できない黄虎は、やはり固まってしまう。だからこそ自分の出番だと、朱翔は胸に手をあて微笑んで会釈し、何食わぬ顔で玄枝に問いかける。
「これはこれは玄枝様ではないですか、私は朱雀家の朱翔です。覚えてらっしゃいますか?」
「朱翔? 玄葉の婚約者の?」
「はい、お久し振りです。私達は友に文を出していただけですよ」
「そっ、そうですか…でも何故ここで?」
朱翔は辺りを見渡してあたかも偶然を装う。
「久々にこちらに遊びに来たので、黄虎と昔話でもしながら学舎の黄龍殿を散策していたら、いつの間にかこんな所まで来てしまいました。黄虎もあまり来たことがないと言うので、見て廻っていたのですが…玄枝様はこんな遅くに、それに手燭も持たずに、お一人ですか?」
玄枝の目が泳ぐ。
「…えぇ、少し夜風に当たりたくて」
朱翔が一瞬の内に機転を利かせ、立場を逆転させた。黄虎は朱翔の頭の回転の速さに驚いたが、朱翔は黄虎よりも先に玄枝の姿が見えていたのだ。驚いたのは、自分達よりも玄枝の方に違いない。明らかに取り繕うことができない状況に、黄虎が尋ねる。
「玄枝様、何方かの墓石にいらしたのですか?」
「……」
何も言わない玄枝を見て、朱翔が黄虎に耳打ちする。
「黄虎それなら祭壇のある、黒龍殿で済むんじゃないのか? こんな夜中にわざわざ一人でここに来るのは、明らかにおかしいっ」
いくら黄虎でも、そこまで考え無しではない。
「朱翔、すまないが黙っていてくれ」
「……」
朱翔は少し驚くも、黄虎の策を見守ることにした。
「玄枝様、ここへは何をしにいらしたのですか?」
「……」
「私達は黄怜のことで、柊虎に文を出しに来ました」
「えっ? 黄怜のことで?」
……。
予想を裏切らない黄虎の馬鹿正直さに、朱翔は思わず膝の力が抜け体が傾く。
「玄枝様もし宜しければ、今から私達とお話していただけませんか?」
玄枝は九虎の手前、黄虎にはあまり接触しないようにしていた。あえて黄怜のことと言うからには、何かを調べていると言ったも同然。しかも南宮から朱翔を連れて戻り、柊虎に二人で文を出したとならば、志瑞也と会った可能性があると考えた。
「わかりました、二人共ついてきなさい」
黄虎と朱翔は見合わせて頷く。
朱翔は真っ直ぐな性分の黄虎に危ういと感じながらも、玄枝相手には、黄虎のように策を練らない方が、時には良いかもしれないと思った。
「なぁ黄虎、玄華様って…凄いな」
「あぁ」
「お前の二人目の母上みたいだな」
「あぁ私はずっと伯母上に救われてきた。黄怜のことで私を責めたことは一度もないよ、今日だってそうだ、私が慰められてしまったよ…」
黄虎は敵わないと微笑む。
「私から文を玄華様に渡させたのは、お前の考えがあってのことか?」
「いいや、お会いしたら直ぐに話ができるようにだ、何でだ?」
「いいや、お前らしいと思ってなハハハ」
それが黄虎の策だったとしたら、朱翔は少し驚きだった。
「お前は蒼万の本当の神力を、知っていたんだな」
「あぁ」
「あいつ、何も言わないからなぁ」
「蒼万にも言えない事があるのだよ、私達みたいに…」
黄虎のその言葉は、朱翔にも何かあると言いたげに聞こえる。
「朱翔、お前伯母上に何処まで話した?」
「ふっ、さぁな」
「……お前は本当、食えない奴だな」
「…お前もだろ?」
二人は薄暗い中で密かに微笑みながら、互いの言葉に顔を横に振る。
黄虎はひょっとしてと尋ねる。
「お前、何故伯母上に柊虎のことを話した?」
「何故って…面白そうだったから」
やはり、黄虎の予想は当たっていた。
「お前っ、伯母上や柊虎の気持ちも考えろよっ」
「だからだよ。お前も柊虎も玄華様も、何も言わないからこうなるんだ」
「それは…」
朱翔の意外な言葉に黄虎は何も言えなくなる。
「一番は、黄怜だ…」
「……」
「全ての繋がりを持つ本人が、何も言わず…いなくなった…」
「……」
「だから残された者が苦しむんだよ…」
朱翔に何の思惑があるのか、黄虎には分からない。ただ、そう言った朱翔の声が、心なしか寂しげに聞こえた。朱翔もその繋がりの内の一人なのだと黄虎は言う。
「お前も私に言いたいことは言えよ」
「…私はまだ死なないよ」
「当たり前だっ、死ぬ前に話せっ」
「ハハハわかった」
話をしている内に、二人は陰域の端っこに辿り着いた。
朱翔は目を凝らして辺りを見渡す。
「こんな所までは、来たことないな…」
「私もだ… ここは墓石も無いから、誰も来ないよ」
朱翔は雲雀を出し文を託す。
「雲雀、頼んだぞ」
「クピッ!」
雲雀は真っ暗な夜空を静かに飛び立った。
「相変わらず大きいな」
「祖父上の雀都の方が大きいよ」
「雲雀は柊虎の所には、どれぐらいで着くのだ?」
「私達と同じ日に出たから、柊虎は今頃中央宮に近い、西宮領域の觜宿の村に泊まっているはずだ、雲雀なら一刻〔約ニ時間〕もあれば着くよ」
「一刻で? 早いな…」
雲雀の姿は既に暗闇に紛れ見えなくなっていた。
ガサッ…
「そこにいるのは誰です?」
突然、背後からの声に二人はばっと振り返る。
ここへは誰も来るはずがないと思っていた二人は、息を殺し声のした方向に目を凝らした。
声の主がゆっくり近付く。
「…黄…虎?」
暗闇の中から薄らと金の羽織が見え、聞き覚えのある声に黄虎は眉をひそめる。
「しっ玄枝様⁉︎」
「あなた達っ、ここで何をしているのですか⁉︎」
黄虎が知っている柔らかい表情とは違い、険しい顔付きの玄枝が二人を凝視する。
突然の事に対応できない黄虎は、やはり固まってしまう。だからこそ自分の出番だと、朱翔は胸に手をあて微笑んで会釈し、何食わぬ顔で玄枝に問いかける。
「これはこれは玄枝様ではないですか、私は朱雀家の朱翔です。覚えてらっしゃいますか?」
「朱翔? 玄葉の婚約者の?」
「はい、お久し振りです。私達は友に文を出していただけですよ」
「そっ、そうですか…でも何故ここで?」
朱翔は辺りを見渡してあたかも偶然を装う。
「久々にこちらに遊びに来たので、黄虎と昔話でもしながら学舎の黄龍殿を散策していたら、いつの間にかこんな所まで来てしまいました。黄虎もあまり来たことがないと言うので、見て廻っていたのですが…玄枝様はこんな遅くに、それに手燭も持たずに、お一人ですか?」
玄枝の目が泳ぐ。
「…えぇ、少し夜風に当たりたくて」
朱翔が一瞬の内に機転を利かせ、立場を逆転させた。黄虎は朱翔の頭の回転の速さに驚いたが、朱翔は黄虎よりも先に玄枝の姿が見えていたのだ。驚いたのは、自分達よりも玄枝の方に違いない。明らかに取り繕うことができない状況に、黄虎が尋ねる。
「玄枝様、何方かの墓石にいらしたのですか?」
「……」
何も言わない玄枝を見て、朱翔が黄虎に耳打ちする。
「黄虎それなら祭壇のある、黒龍殿で済むんじゃないのか? こんな夜中にわざわざ一人でここに来るのは、明らかにおかしいっ」
いくら黄虎でも、そこまで考え無しではない。
「朱翔、すまないが黙っていてくれ」
「……」
朱翔は少し驚くも、黄虎の策を見守ることにした。
「玄枝様、ここへは何をしにいらしたのですか?」
「……」
「私達は黄怜のことで、柊虎に文を出しに来ました」
「えっ? 黄怜のことで?」
……。
予想を裏切らない黄虎の馬鹿正直さに、朱翔は思わず膝の力が抜け体が傾く。
「玄枝様もし宜しければ、今から私達とお話していただけませんか?」
玄枝は九虎の手前、黄虎にはあまり接触しないようにしていた。あえて黄怜のことと言うからには、何かを調べていると言ったも同然。しかも南宮から朱翔を連れて戻り、柊虎に二人で文を出したとならば、志瑞也と会った可能性があると考えた。
「わかりました、二人共ついてきなさい」
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