64 / 164
第五章 彼岸花
想うはあなた一人
しおりを挟む
その後、黄虎と朱翔は黄水室で体を流しながら、幼い頃の話をした。「一緒の風呂はお前が十一で私が十六以来だな、お前がこんなに立派に成長するとわなハハハ」朱翔は黄虎の下半身を覗く。「朱翔っ、何処見てるのだっ」黄虎は慌てて隠す。「ハハハハ、お前蒼万の見たことあるか?」そう言う朱翔の顔は、目を大きく見開いてにんまり笑っていた。「…ふっ、お前やることが昔と変わらないなハハハ」黄虎は呆れながらも懐かしく、今回朱翔を連れて来て正解だと思った。
ただし、ある一点だけを除いて。
夕餉の時、朱翔の膳を見て不満げに黄虎は言う。
「お前の肉、何でそんなに多いのだ?」
「私がお前と違って、女に優しい男だからだよ」
磨虎とは違う意味で誑しだと思い、黄虎は少し懲らしめることにした。
「次に私の殿の侍女に色目使ったら、玄葉に報告するからな」
ガシャン!
朱翔がご飯茶碗を落として黄虎の袖を掴む。
「こっ黄虎っ、ごめんよっ…二度しないからっ、なっ?」
朱翔は何故か玄葉に関して極度に動揺する。
「ふっわかった、言わないよ」
そう言って、黄虎は朱翔の膳から肉を取って食べる。
「良かったぁ、驚かすなよっ」
「お前は玄葉の何処に惹かれたのだ?」
「興味持たれたくないから教えない」
言いながら、朱翔は何食わぬ顔で黄虎の膳から肉を取って食べる。
……。
黄虎は呆れ果て顔を横に振った。
─ 五年前 ─
玄葉と朱翔は生まれが同じ年で、互いの祖母が友だったことから、玄葉はよく南宮に訪れていた。朱翔は何事にも興味津々で見て聞いて触る、それを記憶するのが得意だ。玄葉は朱翔とは正反対で、手はいつも袖に隠れて見ているのか聞いているのか、覚えているのか分からない。常に大人しく存在感も感じさせない。反応の少ない玄葉に朱翔は面白味がなく、その内会っても声をかけなくなった。
この日も玄葉は祖母朱音に同行し、南宮に訪れていた。朱翔はいつもように裏山で新しい動物や植物、妖怪を探しながら散策していた。茂みの中から一つの鼓動が聞こえ、新たな発見かと耳を澄ませながら目を凝らす。忍足で近付くと、玄葉が神獣の甲羅に凭れ昼寝をしているではないか、神獣玄武は滅多にお目にかかる機会などない。朱翔は起こさないようゆっくり近付き、玄葉の横にしゃがんで神獣をまじまじと観察した。片手で甲羅に触れると、ごつごつした甲羅はとても凭れて寝れるような感触ではなかった。
寝ている玄葉を驚かすと何か面白い変化が見れるのでは? 朱翔の悪戯心が湧き上がりにんまり微笑む。玄葉の鼓動に耳を澄ませながら隣に座り、甲羅に凭れ、玄葉の上半身をそっと甲羅からずらし、太腿に寝かせた。起きた時にどう反応するか、期待に胸を膨らませながら待った。
しかし、待てども玄葉はなかなか起きず、寝にくいと思っていた甲羅は意外にも心地よく、朱翔はいつの間にか寝てしまったのだ。少しずつ意識が戻ると頭に柔らかい感触が伝わり、朱翔は気持ち良さに頭を左右に動かす。だが、意識がはっきりしてくると、自分は座っていたはずでは? しかも、体が横になっていることに気付き、朱翔はぱちっと瞼を開けた。
玄葉が見下ろし頭をなでる。
「よく眠れた? お寝坊さん」
小さな口でぽそっと喋り、ほんの一瞬、微笑んだ。玄葉の鼓動の乱れが全く聞こえず、よもや動かされても気付かないなど、朱翔にとっては初めてのこと。状況が呑み込めず、驚きのあまり固まってしまう。
「まだ目が覚めないの?」
次の瞬間!
…へ?
柔らかくて小さな唇が、朱翔の唇に軽く触れる。
ドクン、ドクン、ドクン、
耳が痛い程自分の鼓動が鳴り響く。
朱翔はがばっと起き上がり、訳の分からないまま玄葉に指を差す。
「おぉっお前っ! おおっ女から男にこんなことしてっ、いぃいのかっ!」
「ではあなたからしてくれるの?」
「そっそうだよっ! こっこういうのはっ、おお男からすっするんだっ!」
「そう…ではどうぞ」
玄葉が瞼を閉じる。
朱翔は売り言葉に買い言葉で、自ら口づけしてしまう。その時から、朱翔は玄葉から目が離せなくなった。それから三年後に正式に婚約したが、朱翔はこの事が恥ずかしくて、誰にも言えなかっただけだったのだ。
ただし、ある一点だけを除いて。
夕餉の時、朱翔の膳を見て不満げに黄虎は言う。
「お前の肉、何でそんなに多いのだ?」
「私がお前と違って、女に優しい男だからだよ」
磨虎とは違う意味で誑しだと思い、黄虎は少し懲らしめることにした。
「次に私の殿の侍女に色目使ったら、玄葉に報告するからな」
ガシャン!
朱翔がご飯茶碗を落として黄虎の袖を掴む。
「こっ黄虎っ、ごめんよっ…二度しないからっ、なっ?」
朱翔は何故か玄葉に関して極度に動揺する。
「ふっわかった、言わないよ」
そう言って、黄虎は朱翔の膳から肉を取って食べる。
「良かったぁ、驚かすなよっ」
「お前は玄葉の何処に惹かれたのだ?」
「興味持たれたくないから教えない」
言いながら、朱翔は何食わぬ顔で黄虎の膳から肉を取って食べる。
……。
黄虎は呆れ果て顔を横に振った。
─ 五年前 ─
玄葉と朱翔は生まれが同じ年で、互いの祖母が友だったことから、玄葉はよく南宮に訪れていた。朱翔は何事にも興味津々で見て聞いて触る、それを記憶するのが得意だ。玄葉は朱翔とは正反対で、手はいつも袖に隠れて見ているのか聞いているのか、覚えているのか分からない。常に大人しく存在感も感じさせない。反応の少ない玄葉に朱翔は面白味がなく、その内会っても声をかけなくなった。
この日も玄葉は祖母朱音に同行し、南宮に訪れていた。朱翔はいつもように裏山で新しい動物や植物、妖怪を探しながら散策していた。茂みの中から一つの鼓動が聞こえ、新たな発見かと耳を澄ませながら目を凝らす。忍足で近付くと、玄葉が神獣の甲羅に凭れ昼寝をしているではないか、神獣玄武は滅多にお目にかかる機会などない。朱翔は起こさないようゆっくり近付き、玄葉の横にしゃがんで神獣をまじまじと観察した。片手で甲羅に触れると、ごつごつした甲羅はとても凭れて寝れるような感触ではなかった。
寝ている玄葉を驚かすと何か面白い変化が見れるのでは? 朱翔の悪戯心が湧き上がりにんまり微笑む。玄葉の鼓動に耳を澄ませながら隣に座り、甲羅に凭れ、玄葉の上半身をそっと甲羅からずらし、太腿に寝かせた。起きた時にどう反応するか、期待に胸を膨らませながら待った。
しかし、待てども玄葉はなかなか起きず、寝にくいと思っていた甲羅は意外にも心地よく、朱翔はいつの間にか寝てしまったのだ。少しずつ意識が戻ると頭に柔らかい感触が伝わり、朱翔は気持ち良さに頭を左右に動かす。だが、意識がはっきりしてくると、自分は座っていたはずでは? しかも、体が横になっていることに気付き、朱翔はぱちっと瞼を開けた。
玄葉が見下ろし頭をなでる。
「よく眠れた? お寝坊さん」
小さな口でぽそっと喋り、ほんの一瞬、微笑んだ。玄葉の鼓動の乱れが全く聞こえず、よもや動かされても気付かないなど、朱翔にとっては初めてのこと。状況が呑み込めず、驚きのあまり固まってしまう。
「まだ目が覚めないの?」
次の瞬間!
…へ?
柔らかくて小さな唇が、朱翔の唇に軽く触れる。
ドクン、ドクン、ドクン、
耳が痛い程自分の鼓動が鳴り響く。
朱翔はがばっと起き上がり、訳の分からないまま玄葉に指を差す。
「おぉっお前っ! おおっ女から男にこんなことしてっ、いぃいのかっ!」
「ではあなたからしてくれるの?」
「そっそうだよっ! こっこういうのはっ、おお男からすっするんだっ!」
「そう…ではどうぞ」
玄葉が瞼を閉じる。
朱翔は売り言葉に買い言葉で、自ら口づけしてしまう。その時から、朱翔は玄葉から目が離せなくなった。それから三年後に正式に婚約したが、朱翔はこの事が恥ずかしくて、誰にも言えなかっただけだったのだ。
1
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる