天地天命【本編完結・外伝作成中】

アマリリス

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第五章 彼岸花

想うはあなた一人

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 その後、黄虎と朱翔は黄水室で体を流しながら、幼い頃の話をした。「一緒の風呂はお前が十一で私が十六以来だな、お前がこんなに立派に成長するとわなハハハ」朱翔は黄虎の下半身を覗く。「朱翔っ、何処見てるのだっ」黄虎は慌てて隠す。「ハハハハ、お前蒼万の見たことあるか?」そう言う朱翔の顔は、目を大きく見開いてにんまり笑っていた。「…ふっ、お前やることが昔と変わらないなハハハ」黄虎は呆れながらも懐かしく、今回朱翔を連れて来て正解だと思った。
 ただし、ある一点だけを除いて。
 夕餉の時、朱翔の膳を見て不満げに黄虎は言う。
「お前の肉、何でそんなに多いのだ?」
「私がお前と違って、女に優しい男だからだよ」
 磨虎まなととは違う意味で誑しだと思い、黄虎は少し懲らしめることにした。
「次に私の殿の侍女に色目使ったら、玄葉に報告するからな」
 ガシャン!
 朱翔がご飯茶碗を落として黄虎の袖を掴む。
「こっ黄虎っ、ごめんよっ…二度しないからっ、なっ?」
 朱翔は何故か玄葉に関して極度に動揺する。
「ふっわかった、言わないよ」
 そう言って、黄虎は朱翔の膳から肉を取って食べる。
「良かったぁ、驚かすなよっ」
「お前は玄葉の何処に惹かれたのだ?」
「興味持たれたくないから教えない」
 言いながら、朱翔は何食わぬ顔で黄虎の膳から肉を取って食べる。
 ……。
 黄虎は呆れ果て顔を横に振った。

─ 五年前 ─
 玄葉と朱翔は生まれが同じ年で、互いの祖母が友だったことから、玄葉はよく南宮に訪れていた。朱翔は何事にも興味津々で見て聞いて触る、それを記憶するのが得意だ。玄葉は朱翔とは正反対で、手はいつも袖に隠れて見ているのか聞いているのか、覚えているのか分からない。常に大人しく存在感も感じさせない。反応の少ない玄葉に朱翔は面白味がなく、その内会っても声をかけなくなった。
 この日も玄葉は祖母朱音しゅおんに同行し、南宮に訪れていた。朱翔はいつもように裏山で新しい動物や植物、妖怪を探しながら散策していた。茂みの中から一つの鼓動が聞こえ、新たな発見かと耳を澄ませながら目を凝らす。忍足で近付くと、玄葉が神獣の甲羅に凭れ昼寝をしているではないか、神獣玄武は滅多にお目にかかる機会などない。朱翔は起こさないようゆっくり近付き、玄葉の横にしゃがんで神獣をまじまじと観察した。片手で甲羅に触れると、ごつごつした甲羅はとても凭れて寝れるような感触ではなかった。
 寝ている玄葉を驚かすと何か面白い変化が見れるのでは? 朱翔の悪戯心が湧き上がりにんまり微笑む。玄葉の鼓動に耳を澄ませながら隣に座り、甲羅に凭れ、玄葉の上半身をそっと甲羅からずらし、太腿に寝かせた。起きた時にどう反応するか、期待に胸を膨らませながら待った。
 しかし、待てども玄葉はなかなか起きず、寝にくいと思っていた甲羅は意外にも心地よく、朱翔はいつの間にか寝てしまったのだ。少しずつ意識が戻ると頭に柔らかい感触が伝わり、朱翔は気持ち良さに頭を左右に動かす。だが、意識がはっきりしてくると、自分は座っていたはずでは? しかも、体が横になっていることに気付き、朱翔はぱちっと瞼を開けた。
 玄葉が見下ろし頭をなでる。
「よく眠れた? お寝坊さん」
 小さな口でぽそっと喋り、ほんの一瞬、微笑んだ。玄葉の鼓動の乱れが全く聞こえず、よもや動かされても気付かないなど、朱翔にとっては初めてのこと。状況が呑み込めず、驚きのあまり固まってしまう。
「まだ目が覚めないの?」
 次の瞬間!
 …へ?
 柔らかくて小さな唇が、朱翔の唇に軽く触れる。
 ドクン、ドクン、ドクン、
 耳が痛い程自分の鼓動が鳴り響く。
 朱翔はがばっと起き上がり、訳の分からないまま玄葉に指を差す。
「おぉっお前っ! おおっ女から男にこんなことしてっ、いぃいのかっ!」
「ではあなたからしてくれるの?」
「そっそうだよっ! こっこういうのはっ、おお男からすっするんだっ!」
「そう…ではどうぞ」
 玄葉が瞼を閉じる。
 朱翔は売り言葉に買い言葉で、自ら口づけしてしまう。その時から、朱翔は玄葉から目が離せなくなった。それから三年後に正式に婚約したが、朱翔はこの事が恥ずかしくて、誰にも言えなかっただけだったのだ。
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