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第五章 彼岸花
悲しい思い出
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黄虎と朱翔は玄枝の後を付いて行く。銀龍殿に向かうと思いきや、先程の場所からそう離れていない、黄虎が良く知っている所に辿り着く。「ギーバタン…」玄枝が門を開け中に入る。二人はその門表に書かれた文字に、見合わせて同じことを思う。
……黄怜殿?
二人は玄枝の後を追い殿の中に入った。
三人は、静寂した殿の庭園を奥へと歩く。黄虎は黄怜が亡くなって以来、ここに足を踏み入れることができなかった。芝生の荒れ果てた様子から、何とも言えない気持ちが込み上げてくる。ここは黄怜と共に過ごした思い出だらけ、薄暗い中で辺りを見渡しても、今尚黄怜の残像がはっきりと見えてくる。
〝アハハハ〟
黄怜が笑いながら黄虎の横を通る。〝黄虎!〟はしゃぎながら駆け回る黄怜を黄虎は目で追う。〝黄虎、何変な顔してるんだ? こっちだよ〟黄怜は駆け足で自室の中へすっと消えた。今にでも戸が開き〝黄虎おいで〟黄怜が笑顔で呼び、何事もなくきっと出てくる、出てきてほしい…。「会いたかったよ黄怜っ、こんなに長い間何処行っていたのだ!」そう言えたら、どんなに幸せか。黄虎は叶わぬ望みを思い、涙を堪えた。
……?
突然、黄虎が目を見開き叫ぶ。
「黄怜っ!」
「しっ! 黄虎っ、お前っ何大声出してるんだっ」
「ちっ違うのだっ、今黄怜がっ、黄怜がっ!」
場所が場所なだけに、黄虎は幻覚に惑わされているのだ、朱翔は黄虎の胸ぐらを掴む。
「しっかりしろっ黄虎っ!」
玄枝は黙って見ていた。
「ほっ本当なのだっ! 黄怜の自室の戸が、いっ、今開いてっ」
朱翔は黄虎が向く方向に目を凝らすと、黄怜の自室から、本当に一人の人影が向かって来るではないか。
「……っ! まっまさかっ… ?…」
「うっ嘘じゃなかっただろ? 黄怜は生きていたのだ朱翔っ」
黄虎は瞳を輝かせ喜ぶ。
「黄虎… あの人は、黄怜じゃない…」
「なっ……何言ってるのだ朱翔っ、よく見ろよっ、ほらっ!」
しきりに指を差す黄虎に、朱翔は胸の痛みに堪えながら言う。
「私はお前より良く見えている… いいか、あの人は、黄怜じゃない…」
黄虎は朱翔の腕を掴み顔を激しく横に振る。
「…うっ嘘だっ、嘘だーっ!」
朱翔は黄虎の胸ぐらを引き寄せ怒鳴る。
「黄虎っ私を見ろっ! 嘘じゃないっ、私は目に神力を使えるんだっ、あれは黄怜じゃないっ! 黄怜はっ……黄怜は死んだんだっ!」
誰が望んでこんな台詞言うものか、口に出せば考えるよりも耳に残ってしまう。朱翔は目の縁を赤く染め「これ以上私に言わせるのかっ」と黄虎を睨みつける。
その時、二人に歩いてきた者が言う。
「驚かせて申し訳ありません。玄枝様付き侍女の、玄一と申します」
朱翔の手の力が抜け、黄虎は「ドサッ」と地面に崩れ落ちる。現実を直視できなかった黄虎は、淡い期待を抱き、それに縋ろうとまでしていた。一番向き合わなければならない場所から、黄虎は逃げていたのだ。会いたいのに会えない、思い出すのが怖い、指先を土にめり込ませ、伸びた草ごと握りしめた。
「ゔっ…ゔあああぁぁぁぁぁぁ──っ」
その声が朱翔の耳には苦痛だと鳴り響く、黄怜を失った心の苦しみが、ここまでとは知らなかった。朱翔の胸も同様に痛み、手で目を覆い震えながら涙を呑んだ。
玄枝が黄虎に近寄りそっと背中を摩る。
「しっ玄枝様…こっこれは一体…どういううっ…」
黄虎は玄枝の太腿に縋りつく。
「黄虎、あなたは事実を知る覚悟がありますか? あなたが苦しんでいるのは、よく分かっています… あなたの話は、私も覚悟を持って聞かねばなりません。私の話に覚悟ができないのであれば、このままお帰りなさい」
玄枝の言葉には、黄虎への配慮が見えた。朱翔は友のためにと足を踏み入れたつもりだったが、能力を活かせられると過信していた。悪く言えば、秘密を解き明かす高揚感さえもあった。全てを明るみにし罪を償わせれば、皆が救われると事を急ってしまっていたのだ。
だが、それに関わる者が囚われている呪縛は、簡単に解放される訳ではない事に気付けなかった。朱翔は玄華に対し配慮に欠け、半ば強引な策を講じてしまったことを思い知らされる。話し合いとは相互の関係でなければならない、一方的なのは強制と同じだ。玄枝は二人に現実を叩きつけ、結果を心で受け止めている。それは叩きつけた者の責任だからだ。初めて見る黄虎の悲痛な姿に、朱翔は何もすることができなかった。
黄虎は玄枝の腕の中で、幼子の様に泣いていた。
「黄虎、私の言っている意味が、わかりますか?」
「わかります…玄枝様、ただ… もう少しこのまま… いさせて下さい……」
玄枝は微笑んで頷き、黄虎の心を癒すように、背中から霊力を送った。もしや黄虎は、誰かにずっとこうしてもらいたかったのかもしれない。玄枝はそれを知っていて、その時を待っていたのかも知れない、朱翔はそう思えてならなかった。
……黄怜殿?
二人は玄枝の後を追い殿の中に入った。
三人は、静寂した殿の庭園を奥へと歩く。黄虎は黄怜が亡くなって以来、ここに足を踏み入れることができなかった。芝生の荒れ果てた様子から、何とも言えない気持ちが込み上げてくる。ここは黄怜と共に過ごした思い出だらけ、薄暗い中で辺りを見渡しても、今尚黄怜の残像がはっきりと見えてくる。
〝アハハハ〟
黄怜が笑いながら黄虎の横を通る。〝黄虎!〟はしゃぎながら駆け回る黄怜を黄虎は目で追う。〝黄虎、何変な顔してるんだ? こっちだよ〟黄怜は駆け足で自室の中へすっと消えた。今にでも戸が開き〝黄虎おいで〟黄怜が笑顔で呼び、何事もなくきっと出てくる、出てきてほしい…。「会いたかったよ黄怜っ、こんなに長い間何処行っていたのだ!」そう言えたら、どんなに幸せか。黄虎は叶わぬ望みを思い、涙を堪えた。
……?
突然、黄虎が目を見開き叫ぶ。
「黄怜っ!」
「しっ! 黄虎っ、お前っ何大声出してるんだっ」
「ちっ違うのだっ、今黄怜がっ、黄怜がっ!」
場所が場所なだけに、黄虎は幻覚に惑わされているのだ、朱翔は黄虎の胸ぐらを掴む。
「しっかりしろっ黄虎っ!」
玄枝は黙って見ていた。
「ほっ本当なのだっ! 黄怜の自室の戸が、いっ、今開いてっ」
朱翔は黄虎が向く方向に目を凝らすと、黄怜の自室から、本当に一人の人影が向かって来るではないか。
「……っ! まっまさかっ… ?…」
「うっ嘘じゃなかっただろ? 黄怜は生きていたのだ朱翔っ」
黄虎は瞳を輝かせ喜ぶ。
「黄虎… あの人は、黄怜じゃない…」
「なっ……何言ってるのだ朱翔っ、よく見ろよっ、ほらっ!」
しきりに指を差す黄虎に、朱翔は胸の痛みに堪えながら言う。
「私はお前より良く見えている… いいか、あの人は、黄怜じゃない…」
黄虎は朱翔の腕を掴み顔を激しく横に振る。
「…うっ嘘だっ、嘘だーっ!」
朱翔は黄虎の胸ぐらを引き寄せ怒鳴る。
「黄虎っ私を見ろっ! 嘘じゃないっ、私は目に神力を使えるんだっ、あれは黄怜じゃないっ! 黄怜はっ……黄怜は死んだんだっ!」
誰が望んでこんな台詞言うものか、口に出せば考えるよりも耳に残ってしまう。朱翔は目の縁を赤く染め「これ以上私に言わせるのかっ」と黄虎を睨みつける。
その時、二人に歩いてきた者が言う。
「驚かせて申し訳ありません。玄枝様付き侍女の、玄一と申します」
朱翔の手の力が抜け、黄虎は「ドサッ」と地面に崩れ落ちる。現実を直視できなかった黄虎は、淡い期待を抱き、それに縋ろうとまでしていた。一番向き合わなければならない場所から、黄虎は逃げていたのだ。会いたいのに会えない、思い出すのが怖い、指先を土にめり込ませ、伸びた草ごと握りしめた。
「ゔっ…ゔあああぁぁぁぁぁぁ──っ」
その声が朱翔の耳には苦痛だと鳴り響く、黄怜を失った心の苦しみが、ここまでとは知らなかった。朱翔の胸も同様に痛み、手で目を覆い震えながら涙を呑んだ。
玄枝が黄虎に近寄りそっと背中を摩る。
「しっ玄枝様…こっこれは一体…どういううっ…」
黄虎は玄枝の太腿に縋りつく。
「黄虎、あなたは事実を知る覚悟がありますか? あなたが苦しんでいるのは、よく分かっています… あなたの話は、私も覚悟を持って聞かねばなりません。私の話に覚悟ができないのであれば、このままお帰りなさい」
玄枝の言葉には、黄虎への配慮が見えた。朱翔は友のためにと足を踏み入れたつもりだったが、能力を活かせられると過信していた。悪く言えば、秘密を解き明かす高揚感さえもあった。全てを明るみにし罪を償わせれば、皆が救われると事を急ってしまっていたのだ。
だが、それに関わる者が囚われている呪縛は、簡単に解放される訳ではない事に気付けなかった。朱翔は玄華に対し配慮に欠け、半ば強引な策を講じてしまったことを思い知らされる。話し合いとは相互の関係でなければならない、一方的なのは強制と同じだ。玄枝は二人に現実を叩きつけ、結果を心で受け止めている。それは叩きつけた者の責任だからだ。初めて見る黄虎の悲痛な姿に、朱翔は何もすることができなかった。
黄虎は玄枝の腕の中で、幼子の様に泣いていた。
「黄虎、私の言っている意味が、わかりますか?」
「わかります…玄枝様、ただ… もう少しこのまま… いさせて下さい……」
玄枝は微笑んで頷き、黄虎の心を癒すように、背中から霊力を送った。もしや黄虎は、誰かにずっとこうしてもらいたかったのかもしれない。玄枝はそれを知っていて、その時を待っていたのかも知れない、朱翔はそう思えてならなかった。
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