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第2章

第14話 廃墟地域の侵入者

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「急でごめんね! ノア君とサレアを見たくて」
「見るところなんてある? 中心部以外は荒廃してて、今も交易をしているなんて思えないんだけど」

 周囲には倒れている大人や、身体を布で包んで地面に座っている子供が見える。
 これほどになるまで国が関与しないということは情報が届いていないのか、この政策を認めているということになる。
 どちらにせよ、都市サレアはいつ崩壊してもおかしくない。

「交易なんてしていないと思うわ。国に治めるお金が足りなくなったからお父様に呼ばれたのよ。今頃怒られているんじゃないかしら」
「お金を治めなくて怒られるっておかしいよな。普通なら、こんな政策をしていることを怒るべきなのに」
「全てがおかしいのよ。周辺国の侵略に対抗出来ているのが不思議なくらいだわ」

 ステラの言う通り。
 ノアのいる村のように侵略を受けている場所は多いはずだ。それなのに奪われたという情報を聞かない。追い返していると思いたいが、既に奪われている地域もあるのではとノアは考えていた。

「もう奪われているけど、情報が出回らないってことはない?」
「そんなことは思いたくないけど、ありえる話ね。この都市サレアも今攻めたらすぐに落とせそうだし」

 自国の都市をすぐに落とせると考えるのもおかしいが、その通りだ。

「夜になったら、早くメアちゃんのお母様とルナちゃんを解放しましょう。そのためにここに来たのですから」
「そうだな。サレアを救うよりも二人を助けに来たんだから、必要以上に踏み込む必要はない。ある意味巻き込まれている状態になってるよな」
「メアちゃんの都合に巻き込まれてるわよね。だけど、目的は国を変えることなの。そのためにしなければならないことがまだ見えなくて……」

 目標を決めたが、そのための道筋が分からないようだ。
 その日を生きるだけのノアにとっては考えたことがないが、一つだけ言えることがあった。

「この国で幸せな人はいないが、不幸な国民は多くいる。腐っている都市や町、村を救い、一人でも多くの国民を幸せにすることが進む道じゃないのか?」
「でも全部は救いきれないよ! どうすればいいの!」

 目元に涙を浮かべて辛そうだ。
 ステラが言うことも理解できる。一つ一つを救っていたらどれだけ時間があっても足りない。何か起爆剤となる出来事が必要になる。

「いつかステラが、国を救うために動いていると言わないと駄目かもな」
「そんなこと言ったら暗殺者に殺されちゃうよ!」
「それでもだ。暗殺者からは俺が守る! 俺はステラの騎士なんだろ?」
「そうだったわ。ノア君は私の騎士なんだもんね」
「うん。俺がステラを守るから、ステラは国民を守ってくれ」
「そうする! ちゃんと守ってね!」

 綺麗な笑顔だ。
 ステラのこの笑顔を守るために尽力しなければならない。まずは夜に行う作戦を成功に導くために戦うことが第一だ。

「さて、そろそろ戻るか。意外と時間が経っているからな」
「そうしましょうか。リルさん発ちを待たせるのも悪いし」
「そうだ――逃げろ!」

 リル達のもとに戻ろうとすると、空から誰かが降りてくる影が見えた。
 危険を感じたノアはステラの背中を力強く押し、この場から遠ざけることにした。

「ノア君!」

 地面に降りた謎の影は、砂埃を巻き上げながらノアの目の前に降り立つ。
 その姿は砂埃で見えないので、どのような人物かは想像がつかない。背後から自身の名を呼ぶステラの声が聞こえるが、振り向けない。目の前から目を離せば殺される恐怖を感じるからだ。

「逃げろステラ! 早くリル達のところに行け!」

 叫びつつ抜刀すると、砂埃が晴れて目の前にいる人物の姿が見えてきた。
 体格がよく、ノアの二倍以上はある。髪は白と黒のツートンカラーと右頬にある切り傷が目立つ。だが、それよりも一番は王国騎士と似た制服を着ていることだ。

「あれがステラ・オーレリアか。直ちに抹殺する」
「なっ!? そんなことさせない!」

 目の前にいる男性がステラを抹殺すると言い放つ。
 リルが暗殺に時間がかかったからか、別の理由からか分からない。だが、ステラが抹殺をされるのを黙って見ているわけにはいかない。

「逃げてノア君! その人はお父様直轄の近衛騎士よ!」
「近衛騎士!? そんなの聞いたことない!」

 目の前にいる男性が、王国騎士と違う制服を着ているのがその証拠だろう。
 金色でいかにも特別だといわんばかりだ。しかしそれは見た目だけではない。態度や自身に満ち溢れている佇まいからも読み取れる。

「ステラ王女。あなたは陛下を裏切るのですか?」

 身体の芯に響くような、低く威圧感のある声色をしている。
 怖い。ただそれだけしか感情が出てこない。どれだけの修羅場を潜って来たのか分からないが、王国騎士とは格が違うと本能が告げている。

「私はお父様の政策が間違っていると思うわ! この都市サレアの惨状を見てもまだ正しいと言えるの!?」
「オーレリア王国の行く末を決めるのは陛下だ。我々はその道を切り開く剣で、正しいか悪いかではない。陛下のすることこそが正しいのだ!」
「狂ってるわ……近衛騎士が国王の間違いを指摘しないでどうするのよ! 何のための騎士なの!」
「あなたには関係ない。近衛騎士は陛下の剣、ただそれだけのこと。裏切りの王女、ステラ様。近衛騎士副団長、マグナ・ゼフィラスがお命を頂戴する!」

 近衛部隊の男性は、帯刀している剣を引き抜き切先をステラに向けた。
 それは明確な敵対するという意思表示であり、オーレリア王国がステラ・オーレリアを敵として認定した瞬間だ。
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