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水の都ルーセント編

白き水の都

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 フィール湖を出て早三日と半日。
 俺たちはルーセントの近くまでやって来た。

「ねぇマスター」

 隣を歩くカプリスが話しかけてくる。
 その口からでる息は白く染まっていた。

「ああ」

 カプリスの言いたいことがわかる。
 今の俺たちは寒帯や冷帯気候で着るような服装を身に纏っている。

「寒すぎない?」
「ああ、寒い」

 服装からわかる通り、寒さに襲われている俺たち。
 安定した気候である第二大陸でこの寒さは異常だ。
 フィール湖を出て二日歩いた辺りからこの異常現象に見舞われ始めた。
 最初は少しの肌寒さから始まり、辺りに霜が降り始める。
 今となっては辺り一面銀景色。
 空から舞い降りる雪は視界を狭くし、俺たちの歩みを遅くした。

『私はこの大陸に来たことはないが、この寒さは異常なのか?』

 もふもふで暖かそうな毛皮を身に纏うギルターが聞いてくる。

「第二大陸は、四つある大陸の中でも一番気候が安定しててな。常に生き物が生きやすい環境になっているんだ」

 美しい景色も多く、脅威の少ないこの大陸は多くのプレイヤーが好んで拠点にしていた。

『となると、この状況は異常なのだな』
「そうなる」
『神生物とやらの仕業ですかね?』
「可能性はあるな」

 環境に影響を及ぼすほどの力を持つ存在なんてそうそういるもんじゃないしな。
 まあ、ゲームの世界ではないから気象が荒れてるだけの可能性もあるけど。

「とりあえずはルーセントに向かおう。もう少しだ。日が沈む前には着きたい」

 極寒の地での野宿なんて地獄以外の何ものでもないからな。
 俺たちは急ぎ足でルーセントに向かった。




 日が落ちかけ、辺りが薄暗くなり始めたころ、遠くに明かりが見えた。
 ルーセントまでもうすぐだな。

「にしても凄い吹雪だな」
「待って本当に寒いんだけど! モコモコ装備が意味ない!」

 両腕で身体を抱えながら震えるカプリス。
 俺はアイテムボックスからコートを取り出してカプリスにかける。

「もっと厚着しろよな」
「ありがとマスター」

 男物のコートだが、問題なくカプリスが着れたので、ゲームのシステムは所々失われているようだ。

「やはり異常ですね。異常気象にしてもここまで吹雪くなんて」

 リーリスがニット帽の上に乗った雪を払いながら言う。

「ああ。やっぱ何かしらの原因がありそうだな」

 状況的に見て、ルーセントに近づくにつれ天候が悪くなっていくので、おそらくはルーセントに何か原因があるとみていいだろうな。

 更に一時間くらい歩きルーセントにたどり着いた。
 門番達も厚着をしてはいるが、やはり慣れない気候なのかとても寒そうだ。

「よ、ようこそルーセントへ! 身分証の提示をお願いします」
「寒いなかご苦労様です。どうぞ」

 俺とカプリス、リーリスはギルドカードを提示する。
 リーリスのギルドカードはゲームのときのがまんま残っていたので、それを提示させた。
 俺のは冒険者ノワールの偽造カードだがな。

「テイマーなのですね。テイムされた魔物の責任は契約者に課されるのでご注意下さい」
「わかりました」
「改めて、ようこそルーセントへ! いつもとは少し違うルーセントをお楽しみください!」

 現状を悲観することなく、いい方向に考えるとは凄いなこの門番。
 俺達は門を潜り抜けてルーセントへと入った。

 水の都ルーセント。
 ヴェネチアを模して作られた港街だ。
 街の中を水路が通っており、馬車の乗り入れは出来ず、基本的に徒歩かゴンドラでの移動が主になる。
 第三大陸にはこのルーセントからしか船が出ていないので、船を持っていない冒険者達の出入りが激しかった。

 そんな美しかったルーセントの姿はなく、白銀に呑み込まれていた。
 街の中を通る水路は凍り付き、美しい石畳の道は雪で隠され、街灯には雪の帽子と氷柱が出来ていた。
 家々の灯りで照らされ、いつもとは別の美しさを醸し出すルーセント。
 これはこれで良いものだ。スクショ。
 明日は情報収集も含めて、お気に入りの場所を巡ろうか。
 ひとまずは宿だな。

「確かこっちにあったはず」
「早くいこっ! 寒いっ!!」
「ああ」

 さすがの俺もここまで来ると寒い。
 竜山脈より寒いのは確実だな。

 ゲームのときに見かけた宿に向かい、部屋をとった。
 ギル達も一緒でいいとの事で、ギルと俺、女子三人で部屋割りした。

『おやすみ主よ』
「ああ。おやすみギルター」

 旅の疲れを癒すべく、早めの就寝。
 明日には雪が止んでいるといいのだがな。


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