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水の都ルーセント編

白き水の都②

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 翌日。
 夜明け前、曇り空の下、俺はルーセントの東にある展望台へと来ていた。
 ここはルーセントを端から端まで見渡せる絶景ポイントで、お気に入りの場所だ。
 特に夜明け。
 太陽が水平線から顔を覗かせ始めたときの光景はとても美しい。
 光に照らされた海がゆらゆらと煌めき、テラコッタが用いられた外壁が赤みを帯びるその光景を、初めて目にしたときの感動は今も覚えている。

 そろそろ日が上る時間だ。
 だが、望んでいた光景は見ることができない。
 明るみ出した灰色の空。
 凍りついたルーセント近海。
 溶ける気配がない雪道。

 ゲームの時では見ることができなかった白銀のルーセント。
 どこか温かさのあった水の都の姿はなく、冷たさを帯びた氷の都がそこにあった。
 美しくもある氷の都。
 だが、その光景はどこか寂しさすら感じる。
 そんな静かな街並みを俺はスクショした。
 この光景は今しか見れないだろうしな。

「・・・戻るか」

 宿や食事処の仕込みの音が静かに聴こえる中、俺は宿へと戻った。



 完全に日が登った時間帯。
 雪は降ってはいないが、変わらない寒さの下、俺は情報収集のために街へと繰り出した。
 カプリス達も誘ったのだが、寒いから嫌。と断られてしまったので、仕方がなく一人で行動することにした。

 とりあえず、消耗品の買い足しがてら道具屋に入る。

 「いらっしゃーい」と、店番の声を聞き流し、必要なものを手に取っていく。
 揃えたところで店員のところへ向かい会計を済ませる。

「聞きたいことがあるのだが」

 品物を紙袋に仕舞う店員に声をかける。

「なんでしょう?」
「一体この街に何が起きているんだ?」
「あぁ、実はですね。原因と言う原因はわかってないんですよね」
「わかってない?」
「ええ。2ヶ月くらい前から寒さに襲われ始めたと思ったら、雪は降るわ、水路は凍るわで落ち着くまで大変でしたよ」
「なるほど。因みに寒さに襲われた当時、風はどの方角から吹いてた?」
「面白いことを聞きますね。うーん・・・西だったかな? すみません。余り記憶になくて」
「いや、ありがとう。少しでも情報が欲しかっただけだ」
「原因解明してくれるのですか?」
「ああ、今のルーセントも割りと好きだが、やはり水の都としてのルーセントが一番だからな」
「ありがとうございます。街の一員として嬉しい言葉です。あ、でしたらローウェルさんの所に行ってみたらいいと思いますよ!」
「ローウェル?」
「ええ、この環境の変化について調査している人です。海岸を西に行ったところに小屋があるので訪ねてみてはどうでしょう」
「なるほど。情報ありがとう。これも貰おうか」
「ありがとうございます!」

 いい情報を得たので、情報料代わりにカウンターに並べられていた火点けの魔道具を買って道具屋を後にした。
 因みに火点けの魔道具はまんまライターだ。
 タバコを取り出してライターで火を点ける。
 地球であれば歩きタバコはご法度。やったら総スカンをくらうだろうなぁ。
 こっちに来てからは禁煙ぎみだったため、ことあるごとに吸いたくなっちまうのは仕方がない。
 地球ではちゃんと喫煙規律守ってるから許してヒヤシンス。

 西に向かって歩いて行き、途中途中でお気に入りポイントのスクショを撮った。
 タバコも吸い終わり、吸い殻を火の魔術で消し去る。
 そんなこんなで一時間くらいが経った。
 遠回りしすぎた感はあるが、スクショポイントが多いのだから致し方がない。
  港から離れ、砂浜を進んでいくと、崖沿いに一軒の小屋が見えてきた。
 ゲームの時、この辺りは何もないただの砂浜で、結構な広さがあるため、決闘とか対人戦の練習の場として使われていた。
 今視界にあるような小屋はなかったので、現実化してから小屋の主が建てたのだろう。

 小屋へ近付いていき、扉をノックする。
 少し待つと扉が開いた。
 
「だれ?」

 中から現れたのは青い髪の小柄な少女だった。

「俺はノ──ノワールと言うのだが、ここにルーセントの異常を調べている人がいると聞いて来た。もしかして君?」

 ノアと名乗ろうかと思ったが、ここはノワールとして名乗っといた。

「そう」
「なるほど。名前を聞いても?」
「ウェル」
「ウェルか。ん? ウェル?」
「そう」

 ウェル。彼女の名前だが何処かで・・・。
 NPC──いや、確かプレイヤーにそんな名前の奴がいたな。

「もしかして【学者】の愛称で呼ばれてたウェルか?」
「そう。久しぶり」
「やっぱりか! てっきり引退したもんだと思ってたわ」
「戦い嫌いだから」
「生産職だもんな。お前」

 【学者】の愛称で有名なウェル。
 彼女はユグドラシル内で得られる知識を全て解放した初めてのプレイヤー。
 他にも【博士】や【知恵の天使】と呼ばれていた。
 わからないことがあればウェルに聞け。はユグドラシルでは有名な言葉だ。

「なんでノワール?」
「名前が有名すぎてな。騒がれないためだ」
「なる」

 頷いた彼女は扉を開け放ち、中に入れとちょちょいと子招きをする。

「おじゃまします」

 招きに応じて中へ入る。
 扉を閉め、奥へ行くと、ウェルはお茶を用意してくれるようで、キッチンに立っていた。
 中は整理整頓がきっちりされていて、失礼だが、女の子の部屋とは思えないほど質素で、落ち着いた雰囲気のある内装だった。
 真ん中にある角テーブルの上には、綺麗に纏められている書類が数枚置いてあった。

「座って」
「ああ」

 言われたとおり椅子に座ると、前に紅茶が出された。

「ありがとう」
「うん」

 一口口に含む。

「美味いな」
「うい」

 俺の言葉にちいさくVサインで答えるウェル。

「これ」
「ん?」

 テーブルの上の紙束を俺に渡して来たので、受け取り中身を確認する。


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お読みいただきありがとうございます。
遅くなってしまい申し訳ないです。

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