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111 断罪の仮面(上)

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 シトとの特別な時間を過ごした俺は、アルカナ達の元へ戻った。

「タクマとしてしまったのですか?」
「はい、パパと結婚します」

 シトの返事で察したらしい。
 アルカナやカイリが引いた感じで俺を見てる。
 ライラは娘のアイラを抱いて隠した。

「タクマ……。いつかやると思ってましたけど、まさかシトにまで手を出すなんて」
「えーと、愛娘だったんじゃないの? いや、私は別にいいんだけどさ」

 二人の反応を努めて無視する。

「皆、言いたいことはあるだろうが、今は皇帝との謁見に集中しよう! カイリ、案内してくれるか?」
「はいはい、分かったよ」

 本来であれば皇帝を護衛する役であるカイリの先導で謁見の間へ向かうことにした。
 王宮内は意外と人が少なく、あまり人とすれ違うこともなかった。

「意外と人が少ないな」
「……ま、色々と末期なんだよ。私以外の新勇者の引き留めにも失敗してるし、近衛騎士6000の消滅事件もあったでしょ? そのあとで『ゲヘナ』が発動して、召喚された魔将軍に王都を蹂躙されたんだ。特に、レトラっていう魔人が大暴れしてさ。その戦いで力のある冒険者や名のある騎士も大勢やられて、英雄クラスがバタバタ死んだからね。王宮からも敗色濃厚で逃げ出す人も大勢いたってことだよ」
「お前は戦わなかったのか?」

 ジュリの配下で魔将軍に就任したレトラは一度抱いたことがある。
 手合わせもしてその強さは知ってるつもりだが、確か俺の眷属になる前の戦力値は250程だった。カイリの相手にはならないはずだ。

「レトラは女子供は襲わなかったし、私はタクマと再会する為に雇われただけだもん。正史の方の私はタクマを殺す為に雇われてたみたいだけどね」
「物騒なことだ」

 謁見の間へ通じる扉に到着した。

「ここが謁見の間だよ」
「謁見の間って無駄ですよね。タクマくらい立派な王には必要でしょうけど、帝国の皇帝ごときには勿体ないと思いませんか?」

 そういうアルカナはレイナの姿に擬態してる。
 無関係な仲間をゾロゾロ連れていくわけにもいかないので、こういう形を取らせてもらった。

「レイナは俺を様づけで呼ぶから、間違えないようにな」
「ふふ、今交代したので大丈夫です」

 統合しているアルカナは自由に意識を交代できるようだ。
 クルリと優雅に回転したレイナを抱きしめる。

「それじゃあ、行こうか」
「はいっ、タクマ様」

 カイリが引き続き先導して扉を開いた。
 切れ者と評判のラクシャール二世は、玉座に腰かけて俺達を出迎えた。

「これはこれは……。遠いところをよくこられた。我が妻と娘、それに護衛の勇者もご一緒とは……」
「ラクシャール二世、この度は拝謁の許可を頂きありがとうございます。私はラムネアで勇者兼、侯爵をしているタクマ・レオ・クライ・フォン・アルバトロムです」
「名は伺っているとも。盗賊王の討伐、聖剣の入手、奴隷売買の禁止、国王暗殺の阻止、そして魔王との講和……。この短期間に多くの偉業を成し遂げたとか。羨ましい限りだ」

 老王が不敵に笑う。
 新しく転生してきた勇者には逃げられてる癖に、状況が分かっていないのだろうか。
 賢王と聞いて少し会ってみるのが楽しみだったが、幻滅する。

「……ありがとうございます。そしてこの度、私はレイナ姫と婚姻することになりました」

 レイナが優雅に一礼する。
 隣にいる俺が見惚れる程の所作だった。

 ラクシャール二世は呑気にレイナに見惚れている。
 『真紅の姫君』の異名で知られるレイナは、その美しさでどうしたって目を引きつける。
 下劣なことに、皇帝は妻や娘の前だというのに、少し高い位置からレイナの谷間を覗き込もうとしていた。
 距離があるので見えるはずもないのだが、恥知らずな皇帝だな。今、底の浅さが露呈したぞ。

「……婚約はめでたいことだ。レイナ姫は今宵、王宮に泊まられるのかな?」
「そのつもりでしたが、ラムネアの姫である私が泊まることを良しとしない者もいるでしょう。タクマ様の謁見にも多少、時間をいただいたようですし」

 皇帝が外遊を理由に謁見を断ろうとしたことを揶揄しているのだ。
 ラクシャール二世はクツクツと楽しそうに喉を鳴らした。

「ふっふっふ。そのような者は首を刎ねてしまえばいい。無論、冗談だが。今宵は二人の門出を祝う為に祝宴を開こう。上等な酒も振る舞わせてもらう。二人とも、今夜くらいは泊っていかれるのはどうだろうか。余を味方につけておけば、世界の半分を味方につけたも同じこと。レイナ姫、どうかな? 余の王宮で一晩、甘美な一時を過ごす気はないかね?」

(分かりやすいエロ親父だな)

「タクマ様と部屋を同じにしていただけるのであれば」
「余の寝室にもベッドは余っておる。どちらを選んだ方が得か、分からぬ姫でもなかろう」
「それではタクマ様を選ばせていただきます」
「……ほう。胆力はあるようだが、あまり感心できる態度ではないな。弱小のラムネアが生き残るには帝国の庇護は必須。余の盾を得られなければ、遠からず国が亡ぶことになるぞ」

 やれやれ……。王都を蹂躙されておきながら、未だ帝国の安寧を信じ切っているとは。

「この分だと、先に滅びるのは帝国の方だろ。魔神にいいように蹂躙され、城に踏み止まっている者も少数と聞く。魔神タトナスと並ぶ俺の盾を得られなければ、あんたの方こそ国を亡ぼすことになるぞ」
「その心配はない。余にはまだ武器があるのだ」
「武器だと?」
「見せてやろう」

 パチン、と皇帝が格好つけて指を弾く。
 かっこいい指パッチンだな。
 少し皇帝のことを認めてもいいかもしれない。

 彼が召喚したのは謁見の間を埋め尽くす程の戦姫と、かつての聖剣の勇者クオンだった。
 黒いマスクをつけて顔を隠しているが、すぐにクオンだと分かった。

「レイナ……」
「私の中のトワが言っています。彼は実の兄だと」
「そうか」

 タイミングが悪かったな。
 妹と対面させてやりたかったが。

「ブルームに居ると思ったが、帝国に渡っていたとは」
「僕が何処にいようが僕の勝手だろう」

 鑑定する……。が、文字化けして戦力値が見えなくなっていた。

「お前……何をしたらそんな風になるんだ?」
「お喋りはこの後でもよかろう。見ての通り、余にはまだ武器が残っておる。ところで、ライラ、それにアイラ、お前達はいつまでその男の隣にいるのだ。こちらに来て座るのだ。客人の案内はもう不要であろう」

 ライラが俺の腕を抱いた。
 破裂しそうな巨乳に腕を抱かれ、勃起しそうになる。

「陛下、私はタクマと結婚させていただきます」
「何……?」
「私の夫はタクマです」
「馬鹿な……」

 初めてラクシャール二世の声に動揺が混じった。

「ライラは余の妻だ。タクマ殿は親善大使として謁見に臨んでいながら、余の妻を横取りする気か?」
「先にレイナを奪おうとしたあんたに言えたことではないだろう」
「ぐぬ……」
「お父様、怒らないでください。タクマ様が素敵すぎる殿方なのです。お母様がタクマ様に惚れてしまうのも無理はありません」

 予定にないことだが、アイラが俺の腕を取ってきた。

「お母様がここまで心酔されるなんて、タクマ様は特別な殿方に違いありません。アイラのことも妻に加えてください」

 これは予定外だな。まさか、娘の方まで俺に惚れるとは。

「ライラ……」
「分かっています。本人の自由意志ですから……」
「分かった。では娘のアイラのことも受け入れよう。その上で、俺はラクシャール二世に問う。貴様は他者の命を踏みにじり、マグマシードという禁断の果実を手に入れた。そして、罪なき少女や赤子を使い、戦姫という人間兵器を造り出した。このことに罪の意識は感じているのか?」
「そのようなことはどうでもいい! カイリよ、いつまでその者の案内人をしておる! その者から余の妻と娘を取り戻せ!」

 指名されたカイリが鼻で笑う。

「悪いんだけどさ。私もタクマにつくことにしたんだよ。そっちにいる戦姫に頼んだ方がいいんじゃない?」
「戦姫共よ! この者から――」
「我々は同志、ローネシアと共に魔帝国へ移住します。このクソったれな国で孤児として石を投げられ、身体を改造され、戦争の為の人間兵器にされました。私達は、お前の国に住み続けたいとは思いません」
「待遇なら改善する。それに、戦姫計画は余が凍結してやったのだ。余に感謝したらどうなのだ」
「採算が合わなくて凍結しただけでしょう。タクマ様は我々に衣食住、そして愛情を与えてくれました。それに、もう戦う必要もないと……。彼だけが、私達を娘として見てくれました。この方だけが……」
「ええい! この裏切者共が……ッ! 余はブルームと並ぶ大国の皇帝だ! その気になれば貴様らなど踏み潰すこともできる! その余が、こうして時間を割いてやったというのに、タクマよ! 貴様は無礼すぎるぞ……!」
「無礼……か。そんな低レベルの次元の話しかできない無能だから、お前は妻にも娘にも逃げられ、護衛にすら見限られることになるんだよ」
「小国の勇者ごときが……!」
「現実が見えていないな。どうした。護衛はクオン一人か。だったら、俺は貴様に罰を与えてやるぞ?」

 『ペルソナ』を使いタトナスの仮面を被る。

「その面は……。馬鹿な……」
「そうだ。俺が魔神タトナスだよ。この国を解放しに来たんだ」
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