聖女として召喚されたのは双子の兄妹でしたー聖女である妹のオマケとされた片割れは国王の小姓となって王都復興を目指しますー

高井繭来

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御使い様が誑しに進化しました

【御使い様は宮廷魔術士長がお気に入り】

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「んぁ~まだ眠い………」

「早く起きないと朝食に遅れますよフィルド様」

「後5分…て、何でフカミちゃんが!?」

「フィルド様、今日も可愛い寝顔でしたよ。ふふ、寝てると幼くなりますね印象が、そして今日も本当に綺麗な瞳て…何時間見ても見飽きないです♡」

「そ、そんな見ないで、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ」

 フィルドの寝室から絹を裂く悲鳴が聞こえた。
 使用人たちは「あぁまたか…」と思った。
 さすがに10日間も続けば慣れると言うものだ。

「ふぃ~る~ど~さ~ま、可愛いお顔見せて下さいよ。ミノムシも可愛いですけど、俺はフィルド様の綺麗なお目目が見たいんですけど?」

 シーツを頭からすっぽりと被ったフィルドの背を深海がゆらゆら揺らす。

「うわ~ん、フカミちゃんがどんどん誑しになっていく~っ!!」

「また泣いてるんですか?本当に可愛いですね、でもあんまりなくと俺の大好きな綺麗なお目目が溶けるので泣き止みましょうね」

 深海は知らない。
 現在フィルドが顔を通り越して体中真っ赤にしている事を。
 何せ初恋。
 経験は多々あれどフィルドは初恋童貞なのだ。
 その初恋の相手にこう甘い言葉をかけられて、平静を保てるほど今のフィルドには余裕がない。

 そして深海も深海で、初めて人に執着した。
 それ程にフィルドの瞳に魅せられたのだ。

 光を反射する海の水面のような青銀の瞳に深海は魅入られた。
 その目を自分のものにしたいと思った。
 初めて欲しいものが出来た深海は、見事誑しに進化した。
 何故そこで乙女ではなく誑しに進化したのか、分かるものはここに居ない。
 多分世界中探しても居ない。
 そういう性質であったのだろうとしか言えない。

 それでこうしてフィルドは毎日深海から夜這いならぬ、早朝這いをかけられているのだ。

「何で結界張ってるのに入って来れるの!?」

「え、結界張ってたんですか?普通に入れましたけど?」

「何で?何で!何で!?」

 それはフィルドが心の奥で深海に焦がれているからだ。
 フィルドの結界は害あるものの侵入を防ぐ結界。
 悪意のある者にはこの結界は破れない。
 悪意がなくともフィルドが容認したもの以外は入れない。
 それはカグウをはじめ親衛隊でもそうだ。
 フィルドの結界は他者を拒む。
 
 なので結界が機能していないのはフィルドが深海を拒むどころか招き入れたい心があるからだ。
 現在のフィルドはその事実に気付いていない。
 初めての初恋でキャパオーオーバーなので。

「フィルド様、ご飯覚めちゃいますよ?ね、ミノムシはそろそろ卒業しましょ?」

「フカミちゃん、俺の方見ないでくれる…?」

「あ、ソレは無理です。俺フィルド様の顔と目が大好きなんでガン見します」

「フカミちゃんのエッチ―――――ッ!!!」

 この攻防は鳴海が深海に雷を落としに来るまで続くのだった。
 流石の深海も半身怒られるのは嫌なので結界からちゃんと出てくるのである。
 そして鳴海が深海を懇々と叱っている間にフィルドは身支度を整える。
 特に前髪は風に吹かれても浮かないよう魔力で固定して。
 なのでフィルドの目が見えるのは、前髪を魔力で固定していない寝ている時と起きて術をかける前の短い時間だけなのだ。

 こうして今日も深海はフィルドの目を見そびれた。
 そして明日もフィルドの元に突入して行くのである。

 深海とフィルド、どちらが先に根負けするか王宮中でトトカルチョされているのを知らないのは、当事者の2人だけなのであった。
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