聖女として召喚されたのは双子の兄妹でしたー聖女である妹のオマケとされた片割れは国王の小姓となって王都復興を目指しますー

高井繭来

文字の大きさ
上 下
94 / 161
御使い様が誑しに進化しました

【御使い様接近禁止事情】

しおりを挟む
「きゃぁっ!」

 水の入った花瓶をメイドの少女が躓いた拍子に落としそうになった。

 トン
 トプン

 その身体を深海の右腕が支えていた。
 お陰でメイドは廊下に転げずにすんだ。
 器用に花瓶の水を床に落ちる前に花瓶に回収するなんて技を見している。
 その一滴も水が落ちなかった花瓶が深海の左手にある。

「大丈夫でしたか?」

「ひゃ、ひゃひゃひゃひゃひゃいっ!!」

 密着した状態で言葉をかけられてメイドは変な声で返事する。

「それは良かった。重いものを運ぶときは無理せず男の人を頼ったら良い。貴女の細腕でこの花瓶は重いでしょう?もし花瓶が割れてその上に転びでもしたら、せっかくの可愛い顔が傷ついてしまう。それは俺にとっては悲しい事ですからね。
力仕事をする時に俺がそばに居るならいつでも声をかけて下さいよ?
可愛らしい女の子に頼られるのは男として嬉しいモノなんですから、遠慮せずに、ね?」

 ニコリと蕩けそうな笑顔を深海は浮かべる。
 その笑顔にメイドはキャパオーバー状態だ。

 美形の笑顔…凄い………。

 そして声が物凄く甘いのだ。
 言葉の端々に甘い台詞が含まれていて、もしかしたら好意を抱いてくれてるんじゃないかと勘違いしそうになる。
 甘い声に甘い笑顔。
 すっかり深海は誑しになっていた。
 主に男として。

 おかしい、深海の性別は生まれた時から女である。
 染色体は勿論XXだ。
 男の要素などは無いはずなのに、何故か男前前回である。

 近くで事のあらましを見ていた使用人たちも顔を赤くしている。
 それ程深海の色気が凄まじい。

 男として………。

 あまりにも男前で、男の使用人にまで「抱かれても良い」なんて思わせている。
 本人に自覚は全くないのだが。
 最近の深海は飛ぶ鳥を落とす勢いで、使用人たちのハートを落としていく。

 15歳にしてこの色気。
 顔の造りは絶世の美貌ではないが、十分に整った顔立ちをしている。
 それに最近の深海の男前ぶりに、最近加わった声の甘さ。
 正直、深海が誑しに変化してから1か月で”御使い様接近禁止”を本人のあずかり知らぬところで王宮内で命が下っていたりする。
 誑し、怖い………。

 そして深海をそんな誑しにした人物が1人。
 プカプカと浮かびながら廊下を移動していた。
 その人物を発見したとたん、深海の目が色の籠ったものになる。

 それを見て腰を抜かしそうな使用人多数。

「フィルド様、何処に行かれるんですか?」

「あ、フカミちゃん…て、また女の子誑し込んでる―――――っ!!」

「じゃ、俺はこれで失礼しますね。そこの男性の方、この華奢な少女の荷物を持ってあげて下さい」

「は、はいっ!!」

 深海は密着していたメイドから体を離すとフィルドの方へ駆け寄った。
 メイドが内心「ちょっと残念」と思っていたことも知らないまま。

「誑している、て何ですか?俺は単にレディファーストなだけですよ?」

「だからってあんな笑顔向けちゃダメ!」

「そんな変な顔してましたかね?」

「物凄く反応に困る笑顔してるのフカミちゃんは!だからそう言う顔は俺以外に見せたらダメなんですぅ!!」

「フィルド様、焼き餅焼いてたりします?」

「うぅ~~~~~…」

 黙り込んだフィルドに深海がクスリ、と笑みを浮かべる。
 正直先ほどより蕩けた笑顔だ。
 色気が半端ない。
 ………男として。

「俺の心はフィルド様の綺麗な瞳のものですよ、だから、ね?焼き餅焼くくらいなら俺に存分に素顔見せて下さいよ、他に気持ちが微塵も向かないぐらいに…堪能させて?」

 スリ、と深海が浮いているフィルドの顔に手を伸ばして、指先でその頬を撫で上げた。

 ぼふんっ、と煙が出そうなくらいフィルドの顔が真っ赤になった。

「フカミちゃんのエッチ!破廉恥!乙女心誑しぃっ!!」

 叫びながらもフィルドはその指を避けはしない。
 好きな異性のと身体的接触。
 嫌な訳がない。
 だが、立場が逆なのだ。
 フィルドが深海をメロメロにしたいのに、ずっと深海にメロメロにされている。
 ちなみにやはり本人無自覚。

「誑してる自覚無いんですけど…俺何かが魅力的な人たちを手玉に取ることが出来る訳じゃないですか」

「頼むから自覚して、フカミちゃん…んでそう言う顔と声するのは俺と2人だけの時にして………」

「可愛ですねフィルド様、食べちゃいたいくらい」

 クスクスと悪戯気に深海が笑みを零す。
 そのやり取りを見ていた使用人たちは「魔術師長が陥落するのは時間の問題だな」と思っていたとかいないとか。
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...