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【40話】

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 はぁ、とソレイユが溜息をついた。
 小さな溜息だったが、人の少ない静かな書庫では大きく響いた。

「どうしたのソレイユ?」

「あ、姉さん…………」

 ソレイユに声をかけたのは姉のレミゼルである。
 今日はライトニングと一緒でないようだ。

 天界に来てからライトニングは己の能力の低さを認識し、母であるルーシュに剣術と魔術を学んでいる。

 ルーシュはガフティラベル帝国では淑やかな皇妃であった。
 特殊なスキルの【木】の属性の魔術を使い、死んだ植物に生命を吹き込む。
 それゆえルーシュはガフティラベル帝国では『豊穣の女神』と言われていたのだ。

 美しく逞しい、神に加護を授けられた『雷帝』。
 そして『雷帝』に寄り添う淑やかな『豊穣の女神』。

 ライトニングの自慢の両親。
 それ故にコンプレックスも感じていた。
 己は何時か、父に追い付くことが可能だろうか?

 レミゼルは母のような淑やかな皇妃になってくれるだろう。
 魔術や法術は仕えないが、政治的なセンスは高い。
 きっと政でライトニングを支えてくれるだろう。
 だからこそライトニングは己は強くあらねばならないプレッシャーを感じていた。

 だが天界に来て、生まれて来て1番の驚愕の事実を見せられた。

 全能神に愛玩動物のように可愛がられている純真無垢で無邪気な父。
 全能神と軽口をたたき合う心友なのだと言う母。
 しかも母はバトルジャンキーであった。
 全能神に毎日手合わせを強請っている。
 流石に全能神も相手する暇がないのか、己の式神に相手させているが、母も式神も能力が半端ない。

 あれ程の剣の使い手が大陸に何人いるであろうか?

 確実に5本の指に入るであろう実力なのは肌で理解した。
 ライトニングだって剣術を学んでいる。
 見れば母の剣術の腕が半端ない事位わかる。
 そして緻密な魔術構成とその威力。
 剣術も魔術もライトニングなど足元にも及ばない。

 ゆえにライトニングは毎日ルーシュに手合わせを申し込んでいるのである。

 レミゼルは天界でほったらかしにされた、と拗ねることも無く、マロンに料理などを習っている。
 マロンの料理に惚れ込んだらしい。
 で、今は空いた時間なのであろう。

 ソレイユは天界に来てから書物を漁っていた。
 地上ではもうない書物がゴロゴロ書庫には転がっていた。
 入る許可は全能神から貰ってある。
 本好きのソレイユには正しく天国である。

 だが最近の悩み。

 3日後にカマラが天界に帰ってきたパーティーを天界全土で行うらしい。
 そうカマラは天界の住人だ。

「カマラさん…これからは天界で過ごすんだよね…………」

「ソレイユ…………」

 日に日にソレイユの元気がなくなる。
 恋を自覚した数日後にもう別れなくてはならない。
 それも別の国どころか次元を超えた世界に帰ってしまうのだ。
 気軽に会えないどころの騒ぎでない。
 もう、2度と会えないかも知れない。

 力を取り戻し、女神として覚醒したカマラは当然天界で暮らすべきだ。
 ソレを理解して言えるから、ソレイユは何も言えない。
 カマラの帰還パーティーの日取りが近づくごとに、ソレイユの気持ちは沈んでいくのだった。
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