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そして全能神は愉快犯となった

【115話】

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 その日サイヒが王宮に連れて来たのはサイヒの外套を羽織ったボロボロの少女であった。
 主にボロボロなのは着ている物だ。
 いたる箇所が破けて服としての機能をはたしていない。
 サイヒの外套のお陰で肌を見せずにいれるだけだ。

「まぁ、お兄様、その方ボロボロではありませんか!すぐに湯浴みの準備をします」

「頼む。あぁ湯浴みの準備は女官させてくれ。お前は食べるモノを用意してやってくれないか?」

「承知いたしました」

 マロンが女官に指示を出す。
 すっかり使用人たちの筆頭ポジションだ。
 サイヒが妹として可愛がっている存在だ。
 絶対神の身内に反感するものは居ない。
 それにマロン自身の能力と気質も併せて、マロンは使用人から評価が高い。
 好感を抱く者も多い。
 既に婚約者がセコムしているので行動に移すものは居ないが。

 そして女性使用人からも羨望の眼差しにで見られている。

 愛らしい姿に素晴らしい知識と能力。
 優しい性格。
 そして唯一サイヒが伴侶以外に自分に触れるのを許している者。
 サイヒ命の女使用人たちに憧れられるのも無理はない。

「お食事、嫌いなモノはありますか?」

「い、いえ何でも食べれます」

「そうですか。ですが弱っているようですね、消化の良いものをお作り致しますね」

 ニッコリとマロンが笑う。
 サイヒが連れて来た少女ーカノンはその笑顔に思わず涙ぐんでしまう。
 こんなに優しくされたのは何時以来であろうか。
 年下の少女だが、その母性に胸に縋りついて泣きたい気分にカノンはなった。

「カノン、これからはこのマロンがお前の師の1人だ礼を尽くすのだぞ」

「はい、承知しました神様」

 そうしてサイヒはカノンをマロンに任せると去っていった。
 サイヒとて忙しいのだ。
 絶対神のやることは多い。
 主に地上と天界の管理だ。
 1人の人間に構っている暇はそう無いのだ。

「マロン様、これから宜しくお願い致します」

「こちらこそよろしくお願いしますカノンさん」

「さん付けだ何てとんでもないです!マロン様は神様の妹なのですよね?そのような身分の高い方にそんな呼び方はさせられません!」

「お兄様は血は繫がっていませんわ。私が慕ってそう呼ばせて頂いているだけです。それにお兄様と呼んでいますが、実際のところお兄様は女性ですし」

「は?え?女性…何故女性の神様をお兄様と……?」

「私も最初は男の方だ思い込んでいたのですよ。お兄様男装されていましたし。男装は今もしてますが、女性の恰好だと、目にすれば声も出なくなる位美しいのですよ」

 フフフ、とマロンは笑った。

 優し気で良さそうな人だけど少し変わっているのかも知れないとカノンは思った。
 そして女性であるにもかかわらず男の格好をして、お兄様呼びさせる神様はもっと変わった方だとカノンは思うのだった。
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