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そして全能神は愉快犯となった

【114話】

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 サイヒが全能神となって十数年の時が経った。
 仕事は順調。
 世界は平和。
 大人としての落ち着きも出て…来なかった。
 相変わらず何か楽しいものはないかと、色んな藪を突いている。

「ふむ、地上の検索をするのは日課になったが…虫唾が走る奴と言うのは何処にでも居るのだな」

 不機嫌そうに鏡を見ていたサイヒが呟いた。
 どうやら鏡を媒介として地上の様子を見ていたらしい。

「あらお兄様、また誰か気に入った子でも見つけましたの?」

 サイヒの私室で、寝着のサイヒの髪をマロンが櫛で梳いていた。
 漆黒の夜を溶かし込んだような見事な黒髪が更々と揺れる。
 手触りはまるで絹糸の様だ。
 サイヒは髪の先から爪先迄なにもかも美しい。
 マロンはそう思った。

 そしてその身に触れる資格を自分にある事が嬉しく思う。

 サイヒの身に触れれる者などマロンを抜いたらルークだけだ。
 あまり人に触られるのが好きではないサイヒだが、マロンにはこうして触れる事を厭わないでいてくれる。
 おかげで最近ではすっかりサイヒ付のメイドである。

 一刻の皇太子妃をしていたのにメイドの真似事を嬉々として行う。

 マロンにとっては皇太子妃の資格より、サイヒに触れられる資格の方が上なのだ。
 ゆえにサイヒの発言を良く聞く立場にもなる。

 サイヒが見ていた鏡はマロンにはただの鏡台にしか見えない。
 移っているのはマロンがこの世で1番美しいと信じているサイヒの姿だ。
 鏡自体には何の術式付与はされていない。
 サイヒが己の神眼を使って地上の様子を見ているのである。

「それで今回は何をなさるのですか?」

「最高級の戦闘能力を持った優秀な執事を仕立てる」

「まぁ、執事ですか?お兄様が直に指導しますの?」

「私は手を差し伸べるだけだ。指導はマロンとクオンに一任する」

「まぁ私とクオン様ですか!?」

「薬学と料理と礼儀作法をマロンに、戦闘をクオンに指導して貰いたい。出来るか?」

「お兄様の命でしたら喜んで」

「その者に魔力はあるのですか?」

 サイヒとマロン以外の声が下から聞こえる。
 視線を下げるとサイヒの膝に抱かれている黒猫が発言したらしい。
 こう見えてこの黒猫、悪魔である。
 名前はクロタン。
 ルークの部下でサイヒのお気に入りだ。
 寝室には流石に入れないが私室には喜んで迎えるほどにお気に入りだ。
 サイヒは無類の猫好きなのである。

「魔力もある。クロタンに指導を頼んでよいか?」

「サイヒ様の御望みでしたらこのクロタン、命を懸けてでも立派な術師に育ててみせましょう!」

「あぁ、宜しく頼むぞクロタン」

 サイヒに喉を撫でられて喉をゴロゴロと鳴らしている。
 クロタンにとって至福の時間である。
 ちなみに主のルークには陰で恨みを買っている。
 主のルークの恨みを科ってででもこの役はお釣りがくるほど美味しい。
 クロタンもすっかりサイヒの虜である。

 ソレを見てマロンがぷぅ、と頬を膨らませる。

 自分の方が先輩なのに、と。
 勿論クロタンもそれを分かっているので昼間はマロンの仕事を手伝い、礼を尽くしている。
 なのでマロンも強く出れないのだ。

「さて、明日にでも拾いに行こう。世話は任せたぞ」

「「承知いたしました」」

 1人と1匹の声がハモった。
 
 どうやら絶対神になってもサイヒの好奇心は満たせないらしい。
 一体何者が連れて来られるのか?
 その人物がライバルにならない事を願うマロンとクロタンであった。
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