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《131話》

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 月水金とセブンは王宮に往診に行く。
 勿論サラとナナを伴って。
 ナナの快楽の麻酔は痛みを伴う体にとても相性が良い。
 免疫を低下させることが無いからだ。
 法術では免疫の低下を招くのでセブンやサラには真似できない御業である。

 では法術師のサラは仕事がないか?
 いやある。
 こちらもサラにしか出来ない仕事だ。

 国王の部屋を滅菌状態にする。
 法術を最高位まで極めているサラだからこそ出来る事である。

 何せ白血病。

 病状が良くなっていると言っても感染症は恐ろしい。
 部屋に菌がいないに越したことはない。

 ただ最近セブンはこの往診に1つ不満がある。

「まだ終わらないのか町医者」

 アコロ王子の存在である。
 処置にまで付いてくるのだ。
 勿論目当てはサラである。
 捨てた癖に美味しく育ったら自分の所持品だと言わんばかりに接近してきた。
 父親の病状も安定していないのにこの女狂いぶり。
 セブンは殴りたい衝動を必死に我慢している。

 サラはセブンの大切な従業員であるし、国王は幼い頃面倒を見てくれた腹違いの兄だ。
 どちらもセブンにとってはかけがえのない存在。
 ソレを高慢な顔で横から搔っ攫おうとするアコロ王子の所業は許せるものではない。

「サラの出番は終わっているのだろうもう?なら連れ出しても問題ないな」

「今は勤務中なので無理ですね。今だって給金が発生しています。雇用者としては離れられると困ります」

「あ~そうだな。町医者じゃ金に困っているな。なら私がサラの分の給金をお前に払ってやるからサラを寄こせ」

「そう言う問題では無いんですがね」

 セブンの瞳が冷たくなる。
 アコロ王子はそれに動じない。
 所詮は町医者だと舐めているのだ。

「サラ、お前も草臥れたおっさんより私の方が良いだろう?」

 ニヤニヤと勝利を確信した笑みを浮かべてアコロ王子はさらに問う。
 拒否されるなど想像も付かないようである。

「仕事中、ちゃんとしたい、です」

「仕事がしたいのか?なら私がお前を再び聖女に据えてやろうか?」

「私は、セブンさんと仕事、したい、です」

「聖女の方が権力が付いてくるぞ?私の婚約者になったら豪華な暮らしもさせてやる。そんな町医者より私を取る方がどれだけ幸せなことが何故理解できないんだ?
それにたっぷり気持ちイイ思いもさせてやる。まだ未開通なんだろお前は?」

 アコロ王子がサラ視線で嘗め回す。
 服を着ていても素肌を見られているように感じるほどの色の籠った視線だ。
 病気の父の病床で良くぞここまで発情できるものである。

「皮カムリ」

 ぼそっ、とナナは呟いた。
 
 ピシリッ!

 アコロ王子の笑みが固まる。

「仮性〇茎、極細極小」

 ビクビク!

 アコロ王子が挙動不審に揺れる。

「早〇」

 ピシャ―――――ッン!!!

 アコロ王子の身体に電流が走る。
 ナナは精神的に落雷の魔術が使えるようである。
 男限定。

「わ、わわわわわわ私の何が小さいと!?」

「ナニが(笑)」

「う……………うわぁぁぁぁあっぁああぁあぁあっ!!!」

 アコロ王子が逃げていった。
 ちょっと半泣きであった。

「ナナさん、何の魔術、使った、ですか?」

「ん~サラちゃんは知らなくていい魔法よ♡ソレにドクターはそっちの方の心配ないから安心してね♡」

「何を言ってるんだエロナース!!」

 クックックッ………

 セブンでない誰かがセブンによく似た笑い方をした。

「………国王様、何を笑っておられるのですか?」

 国王を見るセブンの目はジト目である。

「いや、ついつい楽しくてな」

「私は楽しくないのですが?」

「皆の仲が良さそうで良かった。かなり遅いが青春もしているようだしな」

「誰の事を言ってるんでしょうねー?」

「さぁ、誰の事を言ってるのだろうな?」

 クックックッ

 国王が笑う。
 セブンが頬を膨らます。
 ガキか。
 だが2人の間に漂う雰囲気はとても優しい。

「国王様、セブンさんに、笑い方似てる、です」

「おや、そうなのかいサラちゃん?」

「はい、です」

「そうかそうか、ソレは嬉しいかな?」

「セブンさんと似てる、嬉しい、ですか?」

「素晴らしい技術を持った医師と似てると言われたのだ、嫌な気はしないだろう?」

「はい、セブンさんは、素晴らしいお医者さん、です!」

 サラがキラキラと瞳を輝かして国王と会話をする。
 何故か胸がむず痒くなるセブンである。
 きっとそれは彼女を連れて来た男が親代わりの兄に彼女と仲良くしていて居心地が悪い、何処か羞恥心を覚えるような、そんな奇妙な感覚なのであろう。

「サラちゃん、医師殿をよろしく頼むぞ」

「よろしくして貰っているのは私の方、です!何時も美味しい、ご飯、食べさせて貰って、います」

「ほう、医師殿は料理が上手なのか?」

「世界で1番、です!」

 そこからサラのセブンの作る料理の美味しさのプレゼンが国王に開催された。
 普通なら不敬罪ものである。
 だが国王は弟の話を聞きたいのだ。
 何せ色々拗らせた年の離れた弟だ。
 可愛くて仕方ないのに反抗期がまだ続いているのか自分の事はあまり話したがらない。
 なのでどうも弟が執着しているらしいサラに話を振る事にした。

「まーぼーどうふか。食べてみたいモノだな」

「神様のお墨付きの美味しさ、です!」

「そうかそうか、神様のお墨付きか」

 国王は神にも献上できるくらい美味しいと言いたいのだろうと意味合いを汲んだが、実際に最高神のお墨付きの料理の腕である。

「医師殿、私も是非食べてみたいモノだのだが?」

「~~~体調が良くなったら振舞います!」

 セブンの顔は真っ赤である。
 恋情を寄せている少女と、敬愛する兄がひたすらセブンの事を褒めちぎるのだ。
 それを「あたりまえだ」と捨てておけるほどセブンも拗れてはいない。
 ただただ恥ずかしい。
 人間褒められすぎても恥ずかしいものなのである。

「では私が食べれるようになったら一緒に食べようなサラちゃん」

「はい、です、国王様!」

 満面のサラの笑顔を見て、ソレも悪くは無いな、とセブンは少しだけ思ったのだった。
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