【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

155 まだ早い  成人

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 閉めてあった戸を開けると、昨日のままの格好をした人たちが一斉に顔を向けた。それぞれ離れて、座ったり布団にくるまって寝転がったり、書類を読んだりしていた。机の前で何か書いている人もいた。

「な、成人なるひと、殿下?」

 言ったのは正一郎しょういちろうだ。座って、書類を手にしていた。書類読んでたんだ? 偉いね。他にも二人くらいの人が、正一郎と一緒に書類を読んでいた。二人、書き物をしていて、後の十人くらいは何にもしていなかった。元真中も。
 包拳礼をしたのは、書類を持ってた三人だけ。

「着替えてないの?」

 とりあえず、気になったことを聞いてみる。夜寝る時とか、もう少し過ごしやすい服に着替えたりしなかったのかな? きっと、この城にあった寝間着とか部屋着が届けられているはずなんだけど。
 きょろきょろと広い部屋を見渡してみると、壁際に服が積んであって、あ、やっぱり届いてるって思った。

「あ、ええっと、その……」

 正一郎が、包拳礼のままもごもご言う。

「あ。礼は受けました。ええっと、三人は喋ってもいいよ。他の人は動いちゃ駄目。俺と亀吉に礼をしてないから」
「あ、はっ、その、はい。失礼致します。ち、父上、礼をなさってください。皆も」

 礼を解いた正一郎が、元真中を見ながら言ったけど、元真中は、ふんっと息を大きく吐いた。

「黙れ、正一郎。そこのお方が動くな言わはったさかいな。よう動けんわ」
「口を動かしたな」

 力丸が、あっという間に元真中の横に移動して首元に短剣を押し当てる。

「ひぃっ」
「お前さ、いい加減学習しろよ。切る髪の毛はもうとっくに無いんだから、後は首切るしかないんだよ」
「こ、こ、このぶ、」

 つーっと、一本の赤い横線が元真中の首に入った。

「と、と、殿っ。くびっ、くびが」
「は?」

 周りの人の声に、首元に手をやった元真中がまた、ひぃぃって声を上げる。
 本当に、うるさいね?

「ち。いたいいたい」
「あ。亀吉かめきちさま、すみません。お見苦しいものを」

 力丸りきまるが、ひょいと元真中を俺たちから見えにくい場所に移動させた。重そうなのに、よく簡単に動かせるなあ。

亀吉かめきち、痛くないよ、あのくらい。薄皮一枚なら痛みを感じさせずに切れる。はぐと痛いけど。血を流させないように切る事もできるんだよ、あのね、」
成人なるひと殿下」
成人なるひと

 香月かづき力丸りきまるが同時に俺を呼んだ。
 ん? なになに?
 あれ? 香月かづき亀吉かめきちの耳をふさいでいる。

「まだ、亀吉かめきちさまにその知識は早いかと」
「そう?」

 そうか。そうかも。人の記憶がはっきり残り始めるのは三歳頃からの事が多いようですって、睦峯むつみねが言っていた。今教えても、忘れちゃうかもね。

「違う。早いとかじゃなくて、その知識は亀吉かめきちさまにいらない」
「え?」

 大事なことだと思うよ?
 だってほら、元真中も静かになったし?
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