【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

156 ちゃんと話す  成人

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「まあ、いいや。正一郎、ご飯食べた?」
「ご飯……ですか?」
「うん。ご飯」
「……はい。頂きました」
「ん、よし。お茶飲んだ?」
「あ、ええっと、お茶、も、はい。あの、食事についとりましたので」
「そっか」

 じゃ、大丈夫そうだね。これで夜にちゃんと寝られていたら問題ない。
 むー。でも、その服で寝られたのかな? 流石に羽織りだけは脱いで寝て、起きてから羽織ったのかな?
 一日くらい寝なくても大丈夫だろうけど、この先何日もそれじゃ、しんどいよね。

「服、着替えないの?」
「あ、服、ですか……その……」

 差し入れの服は、ここの使用人用の着物で、ここにいる人たちが着ている着物よりはだいぶ動きやすそうだ。とりあえず、城に置いてあった下っ端の使用人用の服を持ってきたんだろう。ここにいる人たちは全員、身分と権利を剥奪するって壱鷹いちたかが言っていたから、身分に合わせた服となると、その辺だったのかな。真中まなか家はこの国のあるじじゃなくなったし、その家臣たちも身分を剥奪されたのだから平民だ。壱鷹いちたかは、名字のことは言っていなかったから、名字は残ってる? 名字が無いのは元真中だけかな? だとしたら、やっぱりこの中でも元真中の身分が一番低い。もー。元真中、全然、身分の約束事を守ってくれないから、罰を下しても意味ない。
 
「あれは、私らが着る服、なので?」
「うん」

 そうだよ。他に人、いないじゃん。

「使用人が今から来るんではなく?」
「使用人? 雇うの?」
「え?」
「え?」

 お金あるなら雇えばいいけど。
 前にも誰かとそんな話したな。あ、あれだ。あの、橙々だいだいの護衛だーって言ってた弱い人。あの人が、うちで下働きをしていて体調を崩した時に、侍女を一人貸してほしいとかって言っていた。うちには侍女なんていなかったし、手の空いてる使用人もいなかったから貸せなかった。

「雇う……。雇う? 私が?」
「うんそう」
「この城の……その、使用人たちは……」
竹光たけみつの持ち物になったから、正一郎のためには動かせない。……だよね?」

 正一郎にびっくりされたから、思わず力丸りきまるに確認してしまった。

「おう。各務かがみ家の所有だ。昨日の騒ぎの中でも、しっかりと仕事をして帰り、本日も朝に変わらず登城してきてくれた使用人たちとは、新たに各務家が契約を結び直している。各務家の使用人だと分かりやすいように、お仕着せの真中の家紋の上に布張りしてもらっているらしいぞ? 各務家の家紋入りの着物を新たに作る時間が無いからな。とりあえず、ぱっと見て見分けやすくていいだろ?」
「おお」

 賢い。後で、すれ違う使用人の着物をよく見てみよう。家紋の部分が布張りの人は各務家の使用人。分かりやすい。今までの品を使えたら、手間とお金がかからなくて済むし、考えた人、賢いなあ。

「ほな、私は、これから、どう……」
「泥棒が」

 ぼそって言ったのは元真中だ。

「お前、懲りないね?」
「なんで泥棒?」
「痛っ。いててててっ」

 力丸が呆れたように言って元真中の腕をひねりあげたけど、気になったから聞いてしまった。

「聞くの?」
「うん」

 元真中と話すの、もう最後かもしれないし、ちゃんとお話聞いといてみようかな。
 いつも不敬過ぎて、ちゃんと最後まで話をできていないから、こうやって駄々をこねているのかもしれないしさ。
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