【完結】人形と皇子

かずえ

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第九章 礼儀を知る人知らない人

102 対人最強  成人

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 あれ、いいなあ。玉鶴たまつるの。向かってくる相手の力を上手く利用して、自分は大して力も込めずに、すぱんと相手をひっくり返す。あんな綺麗な着物のままでもできちゃうくらい、自分の動きは少ない。見事な見極めと無駄のない体の動き。
 いい。
 すごくいい。
 亀吉かめきちの言うとおりだ。玉鶴たまつる、格好良い!
 手の動き。体の位置。力のいなしかた。
 ふんふん。
 ああ、こうだ。こうして、こう……。

緋色ひいろ
「下ろさんぞ」
「ちょっとだけ」
「あの動きは悪くない。疲れない程度に修練していい。だが、今は駄目だ」
「むう」

 すごくいい練習相手が、たくさんいるってのに。

「しっかり習ってからにしろ」
「見たのに」
「見ただけだろう?」
「できる」

 気がする。

「駄目だ」

 駄目かあ。……残念。
 玉鶴たまつるは、向かってくる兵を片っ端からひっくり返していった。竹光たけみつ鶴丸つるまるが、ひっくり返った兵たちを踏みつけてから、縄で縛っていく。
 じいじと力丸りきまるが最初に飛ばした兵が動かなくなってしまったのを見て、臨戦態勢だった皆が、簡単に手を出せなくなってしまったから。手加減、難しいみたい。それで、皆、手を出すのはやめて、出てきた兵たちを玉鶴たまつるの方へと誘導し始めたんだ。玉鶴たまつるにひっくり返してもらったら、動けないように縄で拘束しちゃえばいいからね。

「やっぱり、対人最強は義母上やな」
「素敵や。憧れます」

 松吉まつきち橙々だいだいが話している。分かる。あれ、格好良い。
 ん? 対人? 
 ああ、そうか。あの動き、獣にはできない。熊は倒せない。鶴丸つるまると一緒に熊も倒したい松吉まつきちは、だからあの技を選ばなかったのかも? あ、でも、もしかして、亀吉かめきちを抱いていなければ、少しはできるんだろうか。着物の時は便利だもんね。

「これ、やめえ、馬鹿ども! やめんかい!」

 声が聞こえたのは、ほとんどの兵が拘束された後だった。兵たちは、じいじが壁を壊そうとして立てた物音に飛び出してきたはいいけれど、何をしたらいいのか分かってない様子だった。だから、拘束は簡単だったんだ。やめろって言うなら、飛び出してすぐに言わなくちゃいけなかった。遅いよ、偉そうな声の人……。

「あー! 真中まなかだった人!」

 また、つやつやした髪の毛を頭にくっ付けている。上等な着物を着て、前に会った時より横に大きくなったみたいだ。

「あ、いや、ええっと……」
「なんでお城にいるの?」

 もう真中まなかじゃないのに、お城に入れるの? 名字なくても入れるの?
 皇族じゃない名字無しは、お城でお仕事することはできないって誰か言ってなかったっけ? それは皇国だけの話? 西国はいいのかな? それとも何か決まり事が変わっちゃった?
 身分とか名字とか、やっぱり俺には難しい。まだまだたくさん、お勉強しなきゃいけないんだなあ。
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