【完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

72 大人になったら  成人

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 全員が席に着いたと合図がきて、壱鷹いちたかがご挨拶をした。さっきまで緋色ひいろと話していた時と違って、堂々としていて格好良かった。この間の俺たちの結婚式でも、父さまが挨拶をしてくれて格好良かったな。お話の内容もちょっと似ていた。
 乾杯、と小さな杯を掲げる。女中たちがお酒を注いで回った杯。口を付けるふりをするだけでいい、と緋色ひいろは言ったけれど、ぺろりと舐めてみた。口の中がじん、と痺れるような気がして、思わず、うえと言ってしまった。

「馬鹿。飲むな」
「舐めただけ」
「寄越せ」

 舐めるくらいしか入っていない杯を、緋色ひいろが俺の手から持っていく。俺はお酒は元々、匂いが苦手だったんだけど、味もあんまり好きじゃないことが分かってしまった。もっと大人になったら、美味しい、おかわりってなるのかな?お酒は大人の飲み物だし。
 
「いい酒だな」

 自分のと俺のを、きゅっと飲み干した緋色ひいろが言ったから、多分、大人になったら美味しく感じるんだ。匂いだけで胸がむかむかして避けたくなるようなことはなくなったから、俺も大人になってきたってこと。そのうちお酒を舐めて、いい酒だなって言える日がくるのかもしれない。え?なにそれ、格好良い!誕生日がきて大きくなる度に、舐めてみようかな。
 そうだ、コーヒーも。コーヒーも匂いがあまり好きじゃないけど、いい匂いだと言って飲む人が多い。あれも、大人になったら分かるのかもしれない。
 お酒は大人になってからだから、今は料理を食べよう、とお膳を眺める。上等な料理の時によくある、お刺身や煮物、和え物がお膳の上に置いてある。お酒のお供にじいじがよく食べるものが多い。ご飯はやっぱりまだ無いなあ。茶碗蒸しも。俺は、おかずとご飯とお汁が一緒に出てくるのがいいんだけど、順番にたくさん出てくる料理の時って、ご飯が最後に出てくるの何でなんだろ?お腹いっぱいで、大好きな炊き込みご飯が入らなくなる時が多いから、なるべく早く欲しい。お汁も、冷ますのに時間がかかるから早く欲しい。
 今日も、ここの料理は、お刺身の脇に添えてある野菜とか、煮物の野菜の一つ一つとか、たくさんの野菜たちが綺麗なお花の形をしていて、見ていて楽しいものだった。綺麗な形なのに食べやすいの、すごいな。広末ひろすえ村次むらつぐ、厨房に手伝いに行ってるって言ってたから、帰ったら、うちのご飯の野菜たちもきれいなお花の形になっちゃうかも。楽しみ!灯可とうか見可みかに見せてあげたいな。びっくりして、あんまり好きじゃない野菜も食べちゃうかもしれない。
 乙羽おとわも喜ぶかな。いつもよりたくさん食べるかもな。

「あ!玉子焼きの真ん中に何か入ってる!」

 すごい。
 また美味しい玉子焼きを見つけてしまった!
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