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第八章 郷に入っては郷に従え
71 壱鷹の色んな顔 成人
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よく見えないような奥の方まで人がずらりと座って、それぞれの人の前に、お膳が大急ぎで並べられていった。思わず、
「すごーい」
って言ったら、俺と緋色の横に座っている壱鷹が、ありがとうございますって言う。何でお礼を言われるのか分からずに首を傾げてしまった。
「よく揃えたな」
「元は弟の屋敷に仕えていた者たちが、頑張ってくれております。私には手持ちがありませんでしたので、弟や弐角には大変な苦労をかけてしまいましたが、こうして、なんとか、この日を迎えることができ……」
壱鷹は、途中から上手く話せなくなって口を閉じた。小さく、すみませんと言ってから小さな手拭いを袂から取り出し、そっと目元に当てる。嬉しいの涙かな。今日はおめでたい日だから、多分そう。壱鷹は今日、泣いちゃうくらい嬉しいんだ。そうか、うん。良かった。
それから俺は、自分の着物を見下ろした。袂、いいよね、袂。俺も、袂に小さな手拭いを入れてもらっている。赤い金魚の刺繍が入った、きれいな手拭いなんだ。緋色に見せたくてたまらないんだけど、取り出す理由がなくてまだ見せれていない。次に壱鷹が泣いたら、さっと取り出して貸してあげよう、そうしよう。袂は、何でも入りそうでわくわくしている。お品書きが出たら、入れて帰ろう。お土産だ。ああでも、今日は広末も村次も一緒に来ているから、いらないんだっけ?ええと、そうだ。壱臣だ。壱臣のお土産にしよう。
「訳の分からないことを言うな、壱鷹。弟も弐角も、お前の手持ちだろう?お前のために動くのは当然のことだ」
「…………」
緋色は、ぽかんと口を開けた壱鷹に、にやって笑う。
「ここはお前の国だ。お前の手持ちでないものなど何もない、そうだろう?」
「……は。はは。ははは」
あ、壱鷹が今度は笑っている。うーん。これじゃ手拭いを取り出せないなあ。でもまあ、笑ってる方がいいよね。嬉しいの涙でも、泣いているとなんとなく、胸がぎゅってするから。
「連れて帰りたい者がいるんだが、交渉は可能か?」
「殿下?これ以上、手持ちを減らしたくはないんですが?」
きり、とした顔に戻った壱鷹が、緋色に答える。
「ああー、いや、悪い。これに関して、人員的な交渉はできそうにない。引き換えは金か品物になるな」
「流石にその交渉は、殿下に分が悪いんでは?」
「壱臣が、師匠にまだ習っていない手業があるから習いたいそうだ」
壱鷹の細い目が、大きく見開かれた。そんなに開いたんだね。そっくりな壱臣の目がそんなに大きく開いたところ、見たことないなあ。
「まったく……」
あれ?壱鷹はまた、目元を押さえる。手拭いの出番?
「殿下には、一生頭が上がりそうにありません」
いつもお助け頂き、ありがとうございます、という声は、本当に小さく呟かれた。
手持ちが減るのに、お礼を言ってる。そういうもんなの?壱鷹のお礼は分かりにくい。
あ、そうだ。今、一ノ瀬が何人か配膳のお手伝いしてるから、それは助かってることの一つだといいな。
「すごーい」
って言ったら、俺と緋色の横に座っている壱鷹が、ありがとうございますって言う。何でお礼を言われるのか分からずに首を傾げてしまった。
「よく揃えたな」
「元は弟の屋敷に仕えていた者たちが、頑張ってくれております。私には手持ちがありませんでしたので、弟や弐角には大変な苦労をかけてしまいましたが、こうして、なんとか、この日を迎えることができ……」
壱鷹は、途中から上手く話せなくなって口を閉じた。小さく、すみませんと言ってから小さな手拭いを袂から取り出し、そっと目元に当てる。嬉しいの涙かな。今日はおめでたい日だから、多分そう。壱鷹は今日、泣いちゃうくらい嬉しいんだ。そうか、うん。良かった。
それから俺は、自分の着物を見下ろした。袂、いいよね、袂。俺も、袂に小さな手拭いを入れてもらっている。赤い金魚の刺繍が入った、きれいな手拭いなんだ。緋色に見せたくてたまらないんだけど、取り出す理由がなくてまだ見せれていない。次に壱鷹が泣いたら、さっと取り出して貸してあげよう、そうしよう。袂は、何でも入りそうでわくわくしている。お品書きが出たら、入れて帰ろう。お土産だ。ああでも、今日は広末も村次も一緒に来ているから、いらないんだっけ?ええと、そうだ。壱臣だ。壱臣のお土産にしよう。
「訳の分からないことを言うな、壱鷹。弟も弐角も、お前の手持ちだろう?お前のために動くのは当然のことだ」
「…………」
緋色は、ぽかんと口を開けた壱鷹に、にやって笑う。
「ここはお前の国だ。お前の手持ちでないものなど何もない、そうだろう?」
「……は。はは。ははは」
あ、壱鷹が今度は笑っている。うーん。これじゃ手拭いを取り出せないなあ。でもまあ、笑ってる方がいいよね。嬉しいの涙でも、泣いているとなんとなく、胸がぎゅってするから。
「連れて帰りたい者がいるんだが、交渉は可能か?」
「殿下?これ以上、手持ちを減らしたくはないんですが?」
きり、とした顔に戻った壱鷹が、緋色に答える。
「ああー、いや、悪い。これに関して、人員的な交渉はできそうにない。引き換えは金か品物になるな」
「流石にその交渉は、殿下に分が悪いんでは?」
「壱臣が、師匠にまだ習っていない手業があるから習いたいそうだ」
壱鷹の細い目が、大きく見開かれた。そんなに開いたんだね。そっくりな壱臣の目がそんなに大きく開いたところ、見たことないなあ。
「まったく……」
あれ?壱鷹はまた、目元を押さえる。手拭いの出番?
「殿下には、一生頭が上がりそうにありません」
いつもお助け頂き、ありがとうございます、という声は、本当に小さく呟かれた。
手持ちが減るのに、お礼を言ってる。そういうもんなの?壱鷹のお礼は分かりにくい。
あ、そうだ。今、一ノ瀬が何人か配膳のお手伝いしてるから、それは助かってることの一つだといいな。
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