【完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

62 ご挨拶  弐角

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「え?あ……」

 ちょうど、緋色ひいろ殿下のいらっしゃる部屋に入るという時に成人なるひとさまに言われて、ぴたりと動きを止めてしまう。
 成人なるひとさまも一緒に止まって、一つだけの大きな目がこちらをじいっと見た。

「守れない人は、護衛じゃない」
「それ……は、椿つばきのことを?」
 
 うん。
 声は出とらんけど、こっくりと可愛らしく頷かれて、驚いてしまう。
 俺の知るこの方は、小さくて体が弱くて可愛らしくて、いつも機嫌良う殿下の腕の中におる方やった。周りをよう見ておられるな、とは分かっとったけど、殺伐とした話には関わらへんのでは、と勝手に思っとったから。
 もちろん、元は敵の少年兵士やったという情報は持っとる。戦で怪我をして左肘から先が無くて、左目も閉じて、左目の上には薄っすらと傷があるんやけどそれでも。
 この方のほわりと柔らかい、可愛らしい雰囲気がそれをかき消して、俺を惑わせる。

「はい、分かりました。ご指摘、ありがとうございます。もうすぐ次期当主の妻になるんやから、ちゃんとした護衛を付けるよう手配します」
「え……?」
「兄さま?何で?」

 後ろで話の聞こえていた椿つばきが驚いて目を見開き、橙々だいだいも抗議の声を上げる。
 成人なるひとさまは、俺の返事を聞くと頷いて、開いた戸から部屋へ入っていった。

緋色ひいろ。お客さま連れてきた」
「おう」

 緋色ひいろ殿下にお知らせした後、こちらを振り返った成人なるひとさまの笑顔の可愛らしいこと。少年兵士やったのではなく、戦争で爆発に巻き込まれたんやと言われた方が腑に落ちるような……。
 俺はとりあえず、橙々だいだいの腕を掴んで横に並ばせた。その上で、跪いて包拳礼を取る。このお方は、畏れ多くも俺の友人やけど、俺の上に立つお方やと、橙々だいだいとその従者に知らしめなあかん。
 後ろでも、同じように跪く気配がした。

緋色ひいろ殿下に、九鬼くきの次期当主弐角にかくがご挨拶申し上げます。こちらは、婚約者であり従妹いとこにも当たります九鬼くき橙々だいだいにございます。後ろは、橙々だいだいの護衛と侍女にございます。同席をお許しください」

 返事はない。
 
緋色ひいろ殿下に九鬼くき橙々だいだいがご挨拶申し上げます。お目通りの栄誉を賜り、至極光栄にございます」
「許す」

 いつもと変わらぬ声に安堵して顔を上げれば、成人なるひとさまを膝の上に乗せた緋色ひいろ殿下が、興味津々で橙々だいだいを眺めていた。
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