774 / 1,321
第七章 冠婚葬祭
63 侍女と俺の災難 弐角
しおりを挟む
包拳礼を解き、勧められるままに座卓を挟んで殿下たちの向かいの座布団に腰を下ろす。俺らが座ったのを確認して、殿下の斜め後ろに静かに立っていた常陸丸も、殿下の隣に腰を下ろした。一ノ瀬のじい様も珍しく、殿下を挟んで常陸丸と反対側の座布団に座る。
臣と半助が厨房から、茶を持って戻ってきた。隣で橙々が、はっと息を飲むのが聞こえたが、膝を軽く叩いて合図をすれば賢く口を閉じた。
「お手伝い致します」
橙々の侍女の縞が慌てて立ち上がり、臣へ申し出る。
「ええよ、ええよ。座っとき」
臣の言葉に縞は、はたとその顔を確認し、あ、と口を開いて固まった。
今日は縞は、色々と災難なことやで。後でよう労ってやろ、と思いながら口を開く。
「臣、ありがとう。縞、ええから座っとき」
「は、はは」
縞は小さくなって、机から離れた後ろに控えた。
その近くで、おろおろしていた椿も臣を見て驚き、口を開きかけた所を才蔵に押さえられて腰を下ろす。半助が小さな座卓を運んできて、三人の前に置いた。
「半助さま、ありがとうございます」
才蔵が静かに頭を下げている間に、俺らの前に茶が並ぶ。
「いちおみ、さま」
「はい。よろしく」
橙々の呟きに、にこにことした臣が返事をした。
「ほんまに、そっくり……」
橙々がぽつりとこぼす頃には臣は、後ろの座卓にも茶を出している。恐縮する三人を気にした様子もなく、全員に茶を出してから、俺の隣に座った。もちろんその横に半助。当たり前の顔で、静かに腰を下ろす。俺と臣より、半助と臣の方が近いな、とふと思う。俺と橙々よりも近い。羨ましいことや。……臣が、幸せそうで良かった。
「遅かったな」
緋色殿下が、成人さまに話しかけとる。面白がっている口調やから、大体のことは把握しとるんやろう。成人さまと話したいだけならええけど、あれは、俺をからかって遊ぼうと思うとる顔や。
「うーん?橙々は、弐角があいびきしてたから、怒ってたんだって」
「ぶはっ。逢い引き」
やっぱりや。やっぱり面白がっとる。そんなことやと思たんや。
「誤解やってちゃんと……」
「あいびきって何?」
説明しようとする俺の耳に、成人さまの言葉が聞こえてきて、盛大にずっこけそうになった。
知らんかったんかい!
臣と半助が厨房から、茶を持って戻ってきた。隣で橙々が、はっと息を飲むのが聞こえたが、膝を軽く叩いて合図をすれば賢く口を閉じた。
「お手伝い致します」
橙々の侍女の縞が慌てて立ち上がり、臣へ申し出る。
「ええよ、ええよ。座っとき」
臣の言葉に縞は、はたとその顔を確認し、あ、と口を開いて固まった。
今日は縞は、色々と災難なことやで。後でよう労ってやろ、と思いながら口を開く。
「臣、ありがとう。縞、ええから座っとき」
「は、はは」
縞は小さくなって、机から離れた後ろに控えた。
その近くで、おろおろしていた椿も臣を見て驚き、口を開きかけた所を才蔵に押さえられて腰を下ろす。半助が小さな座卓を運んできて、三人の前に置いた。
「半助さま、ありがとうございます」
才蔵が静かに頭を下げている間に、俺らの前に茶が並ぶ。
「いちおみ、さま」
「はい。よろしく」
橙々の呟きに、にこにことした臣が返事をした。
「ほんまに、そっくり……」
橙々がぽつりとこぼす頃には臣は、後ろの座卓にも茶を出している。恐縮する三人を気にした様子もなく、全員に茶を出してから、俺の隣に座った。もちろんその横に半助。当たり前の顔で、静かに腰を下ろす。俺と臣より、半助と臣の方が近いな、とふと思う。俺と橙々よりも近い。羨ましいことや。……臣が、幸せそうで良かった。
「遅かったな」
緋色殿下が、成人さまに話しかけとる。面白がっている口調やから、大体のことは把握しとるんやろう。成人さまと話したいだけならええけど、あれは、俺をからかって遊ぼうと思うとる顔や。
「うーん?橙々は、弐角があいびきしてたから、怒ってたんだって」
「ぶはっ。逢い引き」
やっぱりや。やっぱり面白がっとる。そんなことやと思たんや。
「誤解やってちゃんと……」
「あいびきって何?」
説明しようとする俺の耳に、成人さまの言葉が聞こえてきて、盛大にずっこけそうになった。
知らんかったんかい!
536
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる