【完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

71 よそでの食事  緋色

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「アイス食べる」
「いや、お腹いっぱいだろ。後にしろ」
「入る」
「デザートは一つだ。果物食べただろ」
「入る」

 もともと出された食事が多かった。時間をかけて、それなりに食べたから、本人も周りも満足だろうとひと息吐いたところで、果物が後から出てきた。苺は成人なるひとの好物だ。ぺろりと平らげてはいたが、腹はもう限界なのは間違いない。
 成人なるひとが食べられるものを選り分けたり量を調節するのに忙しく、俺と話したそうにしていた父の相手をせずにすんだ。ちょうどいいからこのまま退出してしまおう、と立ち上がりかけたら、

成人なるひと、アイスクリームも食べるか?」

 なんて言いやがった。

「アイス食べる」

 即答すんな。無理だろ。
 配膳の準備を始める使用人たちを睨み付けたが、みかどの命令が優先された。手が震えてるなら止めろ。成人なるひとがこれで腹を壊したら、もう二度とここには来ねえぞ。

「ああ。えーと、ほんの少しな。少しだけ」

 俺の本気の睨みが効いたのか、父が気弱に侍従に告げた。

緋色ひいろは……」
「いらん!」
「ああ、そうか。うん、分かった」

 分かってねえだろ。俺が腹がいっぱいだと思ってやがるだろ。

赤石あかしさん。緋色ひいろさんは甘いものは……」

 母がそっと告げると、父は、ああ、ああ、と頷いた。この人は本当に、しゃべると威厳とか色々吹っ飛んでいくな。
 外ではしっかりしてるんだが、気が抜けるとこれだ。

「ああ、ええと、ではコーヒーは?」

 アイスを取り分ける侍従の手元に夢中だった成人なるひとが、うっと鼻を押さえる。コーヒーの匂いが苦手なんだよな。知ってる、知ってる。

成人なるひとがコーヒーの匂いが苦手だから、出すならもう帰る」
「ああ、そうなのか。いや、分かった。熱い茶を出すから、成人なるひとにアイスクリームをあげなさい。な?」

 ようやく俺の分の正解を引いた。
 けどな、アイスクリームは……。ああ、でも珍しく成人なるひとが引かねえな。気温が低い間は冷たい食べ物を禁止してたから、久しぶりか。滅多にない我が儘なら聞いてやりたいが、どのくらい食べたのかがいつもより分かりにくいから心配だ。
 成人なるひとの一つだけの目が真剣にこっちを見ている。

「ちょっとだけだぞ。腹に入らないと思ったらやめろよ」
「うん!」

 良い返事だな……。
 ほっとしたらしい父が、すっかりぬるくなった茶をすすってから、本題とばかりに話し始めた。

朱実あけみを殴ったそうだな」
「ああ、はい。申し訳ありませんでした」
「いや。安堵している」
「は?」
「喧嘩できるなら、まだ大丈夫なのかと思ってな」

 意味が分からない。
 別に喧嘩などしていないが。

「お前が、朱実あけみに直接怒りもせずに旅行に出かけたと聞いたから」
「そうだな。最初に、朱実あけみが届けを受理しなかったから成人なるひとと入籍できていない、と聞いたときは腹が立ったが、新婚旅行の権利ができたことに気付いたらどうでもよくなった」
「そ、そうか……」
「旅行は楽しめたし、入籍できたし、特に朱実あけみに言うことはない」
「では何故、殴ったんだ?」
成人なるひとの悪口を聞いた条件反射」
「そ、そうなのか。成人なるひと朱実あけみが申し訳なかったね」
「ん?」

 小さく盛られたアイスクリームをもらって、うっとりと眺めていた成人なるひとは、父と俺の話を聞いていなかったらしい。

成人なるひとは悪口だと認識していないから、それはもういい。今後は手が出ないように気を付けますよ。朱実あけみと話す用事も大して無いし」

 はあ、と父は溜め息を吐いた。
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