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第六章 家族と暮らす
72 皇命 緋色
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「…………話し相手には、なってやってほしい」
手を離したのはあちらだろう?
ただ黙してじろりと目を合わせれば、父はがりがりと頭をかいて視線を外す。
「もうお前しか、いないじゃないか。遠慮なく話せるのも、相談に乗ってやったり愚痴を聞いてやれるのも」
皇族として、仕事を手伝うつもりはあった。そういうように、育てられている。子どもの頃から言い聞かせられていたことだ。朱実を支えて生きていくのだと、分かっている。分かっていた。
「赤虎が、やるだろ」
五条の家へ養子に入った直後はずいぶんと荒れていたようだが、寧子と結婚して落ち着いた、との報告くらいは受けている。
赤虎も俺も、互いに相手のことに興味が無いし、子どもの頃から話すこともほとんど無かったから、あいつの報告はどうでもいい。だが、寧子は成人の友人の一人だ。そちらの動向を気にしていれば、嫌でも情報は入ってくる。
もうすぐあの家にも、跡取りの娘か息子が生まれるだろう。五条当主夫妻は、どんなに喜ぶだろうか。成人も含めて、大はしゃぎすることは間違いない。寧子も少しは、感情を昂らせたりするのだろうか。周りの高揚に釣られるのか、いつも通りの顔で、皆様、落ち着かれませ、と言うのか。答えが見たいから、俺も共に行こう。五条の赤ん坊が生まれたら、赤虎のいないときに成人と共に訪ねるのは、楽しみかもしれない。
赤虎は、成人がはっきり嫌い、と言うほぼ唯一の人間だ。わざわざ家に居るときに訪ねるようなことはしない。たった一人への嫌いは、いっそ無関心より存在を気にしているように思えて気に入らない。
ふと、何かに気付いた気がした。
ああ、そうか、と得心がいくような。
「朱実と赤虎は相性が悪いだろう。小さな頃から、まともに話しているところをあまり見たことがない」
「赤虎は、朱実の言うことには全部反対という姿勢で話すから、会話が成立するわけがない」
「そうか……。そういえば、赤虎とお前が話している様子は思い出せないな……。朱実とお前は、楽しそうに話していた」
「楽しそう、ですか。気にしたことは無かったな。俺と朱実は年が離れているから、気を使う必要が無かったのでは?俺は、臣下として朱実殿下を支えて生きていくのですよ、と言われていたので、失礼のないよう気を付けていましたし」
赤虎はどうやら違ったようだが。
「そうか……。そうか?こうして思い返してみても……。あ、いや……」
普段家族で揃うことは、食事の時、この部屋でだけだ。それ以外の場面で出会うことなど年を重ねるにつれ減っていったし、特に会う必要も感じなかった。そういえば、朱実とはよく会っていた気はする。呼び出されるのもそうだが、たまたま出会うのも朱実ばかりだった。
「できれば、これからも皇太子を支えてやってほしい」
熱い茶をすすったらしい父が、ほう、と息を吐いてから皇帝の声音で言った。
「ご命令とあれば」
俺は平坦な口調で答える。
他に、言うべき言葉は知らなかった。
手を離したのはあちらだろう?
ただ黙してじろりと目を合わせれば、父はがりがりと頭をかいて視線を外す。
「もうお前しか、いないじゃないか。遠慮なく話せるのも、相談に乗ってやったり愚痴を聞いてやれるのも」
皇族として、仕事を手伝うつもりはあった。そういうように、育てられている。子どもの頃から言い聞かせられていたことだ。朱実を支えて生きていくのだと、分かっている。分かっていた。
「赤虎が、やるだろ」
五条の家へ養子に入った直後はずいぶんと荒れていたようだが、寧子と結婚して落ち着いた、との報告くらいは受けている。
赤虎も俺も、互いに相手のことに興味が無いし、子どもの頃から話すこともほとんど無かったから、あいつの報告はどうでもいい。だが、寧子は成人の友人の一人だ。そちらの動向を気にしていれば、嫌でも情報は入ってくる。
もうすぐあの家にも、跡取りの娘か息子が生まれるだろう。五条当主夫妻は、どんなに喜ぶだろうか。成人も含めて、大はしゃぎすることは間違いない。寧子も少しは、感情を昂らせたりするのだろうか。周りの高揚に釣られるのか、いつも通りの顔で、皆様、落ち着かれませ、と言うのか。答えが見たいから、俺も共に行こう。五条の赤ん坊が生まれたら、赤虎のいないときに成人と共に訪ねるのは、楽しみかもしれない。
赤虎は、成人がはっきり嫌い、と言うほぼ唯一の人間だ。わざわざ家に居るときに訪ねるようなことはしない。たった一人への嫌いは、いっそ無関心より存在を気にしているように思えて気に入らない。
ふと、何かに気付いた気がした。
ああ、そうか、と得心がいくような。
「朱実と赤虎は相性が悪いだろう。小さな頃から、まともに話しているところをあまり見たことがない」
「赤虎は、朱実の言うことには全部反対という姿勢で話すから、会話が成立するわけがない」
「そうか……。そういえば、赤虎とお前が話している様子は思い出せないな……。朱実とお前は、楽しそうに話していた」
「楽しそう、ですか。気にしたことは無かったな。俺と朱実は年が離れているから、気を使う必要が無かったのでは?俺は、臣下として朱実殿下を支えて生きていくのですよ、と言われていたので、失礼のないよう気を付けていましたし」
赤虎はどうやら違ったようだが。
「そうか……。そうか?こうして思い返してみても……。あ、いや……」
普段家族で揃うことは、食事の時、この部屋でだけだ。それ以外の場面で出会うことなど年を重ねるにつれ減っていったし、特に会う必要も感じなかった。そういえば、朱実とはよく会っていた気はする。呼び出されるのもそうだが、たまたま出会うのも朱実ばかりだった。
「できれば、これからも皇太子を支えてやってほしい」
熱い茶をすすったらしい父が、ほう、と息を吐いてから皇帝の声音で言った。
「ご命令とあれば」
俺は平坦な口調で答える。
他に、言うべき言葉は知らなかった。
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