【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

149 許可を出したのは?  成人

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 今、物音に気付いたからといった様子で、じいやが扉を開ける。
 扉前にいた女の兵士二人が、白衣を着たお爺さんとそれより若い白衣の人を押さえて跪かせ、もっと若い白衣の人は自分で膝をついていた。三人の顔というか雰囲気が、何となく似ている。
 部屋の前でワゴンがひっくり返っていて、頬が赤くなった侍女さんと、侍女さんと同じ服装の女の人が二人、音も大して立てずに片付けていた。
 軍服の男の人が一人だけ様子を見に来ている。この区画に入る廊下に立っていた二人の兵士のうちの一人だ。けれど、手を出すつもりは無いようで、少し離れて立っていた。
 城の中で、この辺りは特に人が少ない。使用人とか護衛も見た目は少ない。立ち入りできる人が本当に限られているから、最小限の人員で静かに暮らせるんだそうだ。友達の乙羽おとわ力丸りきまるに、雫石しずく母さまの部屋の金魚を見せようと連れてきた後で、そのことを知った。
 二人は、俺がこちらに向かっている時から、ここ、本当に入っていいの?ってずっと言ってて、俺は何で駄目なのか分からずに首を傾げてた。母さまの侍女さんが迎えに来てくれたから、二人も黙って付いてきてくれたんだけど。
 でも、帰ってから、あそこは皇族の居住区域で、誰でも入っていいとこじゃ無いんだよって力丸りきまるが教えてくれた。許可をもらった人しか入れないんだって。
 俺は、初めてこの区域に来たときは、気が付いたら母さまの部屋で寝てた。起きた後で金魚から離れられずにいたら、いつでもおいでって言ってもらったから、廊下を進むときに立っている兵士達が敬礼して通してくれる。母さまに許可をもらったから。友達も連れていらっしゃいって母さまが言ったから、乙羽おとわ力丸りきまるも入れた。
 あれ?じゃあこの大国おおくにって人も、誰かに許可をもらってここに来てるってことじゃない?
 赤璃あかりさまは、聞いてないって言ってたから違う。それとも、治療をする医師は入れるのかな。病気の時とか、急いでるもんね。
 隣から、はあ、と赤璃あかりさまの溜め息が聞こえた。

「掃除なら自分でやってよね、朱実あけみ……」

 小さな声で呟いてから、強い目で扉の向こうを睨み付ける。俺たちはソファから動かない。

「何の騒ぎなの?」
「お休みの所、お騒がせしまして誠に申し訳ございません。大国おおくに医師がこちらまで来られたということは、殿下が緊急で手配されたのかと思い、様子を見ておりました。しかし、殿下の侍女に暴力をふるう所を見かねて、取り押さえましてございます」

 女兵士の一人が、淡々と言った。
 手配してたら、扉の前の兵士が知らない訳ない。

「私は、医師を呼んだ覚えはないわ」
「定期の検診を行うように、との指示を受けて、まかりこしましてございます」

 体を押さえられながらも、顔を上げて大国おおくにが言った。

「結構よ。妊娠は病気では無いのだから」

 にっこりと笑う赤璃あかりさまは、今日もとても綺麗で、全ての人の視線を集めて輝いていた。
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