【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
478 / 1,321
第五章 それは日々の話

128 青葉の宝物入れ  成人

しおりを挟む
 じいちゃんとは玄関でお別れして、急いで仕事の片付けをした。慌てなくていいと言われても、ちょっと焦る。
 大きな紙袋を下げた青葉あおばが、なるちゃん、焦らない焦らない、と声を掛けながら付いてきてくれる。

「時間見てごらん。私がうっかり早かっただけで、なるちゃんはいつも通りだよ」

 うん。分かった。
 時計を見たら、少しほっとした。自分で、時間をしっかりと区切って行動していないから、こうなるんだな。そろそろ昼だよ、とかおやつの時間だよ、と誰や彼やが声を掛けてくれるものだから、時計も見ずに動くことが多い。
 そうだ。自分でもう少し時計を気にしてみよう。
 よし、と思いながら、青葉あおばとそれぞれのお茶を持って階段を上がる。勉強の時に飲めるように淹れておいたんだ。水分をしっかり摂りなさいって、生松いくまつがいつも言ってるからね。

「よろしくお願いします」
「はい。お願いします」

 挨拶をして絨毯に座ると、座卓を挟んで青葉あおばも座った。

「ふふふ。持ってきたよー。子ども達の絵」

 青葉あおばが楽しそうに、手に下げていた大きな紙袋から、箱を取り出す。何か色々書いてあって、何かが入っていた空き箱だなって感じの箱だ。でも、大切そう。
 あ、あれかな?
 宝物入れ。
 皆、大事なものを入れる箱とか持ってるって力丸りきまるが言ってたもんね。それで、俺の箱を探す手伝いをしてくれた。その時に、買い物のことも教えてもらったなあ。力丸りきまるは本当に色々教えてくれるから、大好きだ。
 蓋を開けると、何枚もの紙が入っていた。母の絵は、そんなにたくさん描くのか。青葉あおばの子どもが二人だからって二枚じゃないんだな。

「小さい頃のを見ようか」

 下の方から出てきたのは、俺がいつも使ってる白い紙より大きな紙に描かれた笑ってる人の顔。大きな紙いっぱいに元気に描いてあって、髪の毛が描ききれずにはみ出している。きっと机に描いちゃってるな、これは。ひたちまるって右下に名前が書いてある。常陸丸ひたちまるが描いたんだな。うん、上手!目や鼻や口が全部大きいけど、青葉あおばが笑ってる顔だな、って分かる。

青葉あおばだ」
「あら、分かる?」
「うん。上手」

 青葉あおばは、嬉しそうににこにこと笑った。
 次に出てきたのは、すっごく上手に描けている、やっぱり青葉あおばの顔。これって。

緋色ひいろの!上手!」
「ねえ。殿下は子どもの時から本当に絵が上手だったんだよ」
青葉あおばだ」
「私だね。誰がどう見ても」

 母の絵。緋色ひいろは、青葉あおばを描いたのか。だから、母さまは自分じゃなかったって言ってたのか。
 次に出てきてのは、常陸丸ひたちまるの絵と似てて、でもはみ出さないように気を付けて描いてある青葉あおばの顔だった。

力丸りきまるは、殿下みたいに綺麗に描きたいとよく言ってたから、丁寧に頑張ってるね」

 うんうん。
 皆、色々で面白い。
 でも、全部青葉あおばだ。青葉あおばの顔って分かる!
 最後に出てきたのは。

「んー?」

 俺が昨日描いてた絵と似てる。歪んだ丸で、何とか顔にしようとした絵。まだ、青葉あおばかも分からない。

乙羽おとわちゃんの絵も、なるちゃんと似てるねえ」

 ほんとだ。
 俺の描いた、母さまっぽい絵とよく似てる。
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...