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第五章 それは日々の話
129 母の顔 成人
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「これはね、乙羽ちゃんが、私の顔だよって言ったから、私がもらったの」
うん。
「この絵の前は、人の顔がずっと描けなくって、丸を描いては黒く塗りつぶしていたそうだよ」
「黒く?」
「お母様の絵を描きましょうって先生に言われて、顔が分からなくて困ってしまったらしい」
ふーん?
「なるちゃんは、皇妃殿下のお顔を思い浮かべながら絵を描いてたんだろう?」
皇妃殿下?あ、雫石母さまか。
「うん」
「会ったばかりだから、描けたかな?」
「うん。でも難しかった。緋色ならいっぱい描ける」
そうだね、と青葉は笑った。
「いつも一緒にいる大好きな人の顔なら、すぐに描けるよね?母ってのはそういう存在だと、皆思ってる。だからね、学校では簡単に言うんだ。お母様の絵を描いて、プレゼントしましょうって」
「でも俺、母なんて知らない」
「そう。母がいない子もいる。だから、母がいない子にはね、大好きな、いつもお世話をしてくれてる人の顔を描こうねって言うんだけれど」
青葉は、一度言葉を切って、乙羽の描いた絵をじっと見た。
「母がいる乙羽ちゃんは、母を描かなければいけないと頑張った。頑張って描こうとして、分からない、描けない、と思い悩み……。誰の顔も描けなくなった」
「うん」
母と呼ぶ人がいて、母を描きましょうって言われたら母を描かなきゃならないよね。
「二年ほど、塗りつぶして……。うちに保護した後だね。母の絵を描く時に、殿下が私を描いてることに気付いた」
緋色は上手だから、誰の顔かなんて見たらすぐに分かる。
「なんだって思ったんだって。私も青葉描こうって」
緋色が、母じゃない人を描いてるならいいのか。でも、緋色も、母がいるのに?
「あ」
「うん、そう」
緋色が描いた母さまの絵は、母さまが破いてしまった。自分の顔と違うと言って。
「緋色殿下が物心ついた頃には、皇妃殿下のご病気はあまり良くなかった。お二人は、ほとんど顔を合わせたことが無かったらしいよ。緋色殿下は、分からないなりに頑張ったん……だろうね」
頑張った。
よく知らない母の顔を、思い出しながら描いた。
それを、違うと破られた。
「次の年には、私にくれたよ。とても、上手だった。母の絵を破られた話は、一緒に皇城に行った常陸丸から聞いてたから、私は、笑って受け取ったのさ。嬉しい気持ちをそのままに受け取った。皇妃殿下から使いがきて、持ち帰られてしまった年もあったけれど……」
それも、自分では無かったことに腹を立てて破ったと、母さまは言っていた。
「何枚かは守ったよ。これは、私の宝物なんだから」
うん。
「この絵の前は、人の顔がずっと描けなくって、丸を描いては黒く塗りつぶしていたそうだよ」
「黒く?」
「お母様の絵を描きましょうって先生に言われて、顔が分からなくて困ってしまったらしい」
ふーん?
「なるちゃんは、皇妃殿下のお顔を思い浮かべながら絵を描いてたんだろう?」
皇妃殿下?あ、雫石母さまか。
「うん」
「会ったばかりだから、描けたかな?」
「うん。でも難しかった。緋色ならいっぱい描ける」
そうだね、と青葉は笑った。
「いつも一緒にいる大好きな人の顔なら、すぐに描けるよね?母ってのはそういう存在だと、皆思ってる。だからね、学校では簡単に言うんだ。お母様の絵を描いて、プレゼントしましょうって」
「でも俺、母なんて知らない」
「そう。母がいない子もいる。だから、母がいない子にはね、大好きな、いつもお世話をしてくれてる人の顔を描こうねって言うんだけれど」
青葉は、一度言葉を切って、乙羽の描いた絵をじっと見た。
「母がいる乙羽ちゃんは、母を描かなければいけないと頑張った。頑張って描こうとして、分からない、描けない、と思い悩み……。誰の顔も描けなくなった」
「うん」
母と呼ぶ人がいて、母を描きましょうって言われたら母を描かなきゃならないよね。
「二年ほど、塗りつぶして……。うちに保護した後だね。母の絵を描く時に、殿下が私を描いてることに気付いた」
緋色は上手だから、誰の顔かなんて見たらすぐに分かる。
「なんだって思ったんだって。私も青葉描こうって」
緋色が、母じゃない人を描いてるならいいのか。でも、緋色も、母がいるのに?
「あ」
「うん、そう」
緋色が描いた母さまの絵は、母さまが破いてしまった。自分の顔と違うと言って。
「緋色殿下が物心ついた頃には、皇妃殿下のご病気はあまり良くなかった。お二人は、ほとんど顔を合わせたことが無かったらしいよ。緋色殿下は、分からないなりに頑張ったん……だろうね」
頑張った。
よく知らない母の顔を、思い出しながら描いた。
それを、違うと破られた。
「次の年には、私にくれたよ。とても、上手だった。母の絵を破られた話は、一緒に皇城に行った常陸丸から聞いてたから、私は、笑って受け取ったのさ。嬉しい気持ちをそのままに受け取った。皇妃殿下から使いがきて、持ち帰られてしまった年もあったけれど……」
それも、自分では無かったことに腹を立てて破ったと、母さまは言っていた。
「何枚かは守ったよ。これは、私の宝物なんだから」
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