【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

127 じいって付く人  成人

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 雨音が聞こえている。外は冷たい雨が降っているけれど、体調に変化は無かった。家の中はどこも暖かくて、過ごしやすい。昨日は、気付いたら昼寝をしていて、それが早目の時間だったから夜もぐっすり眠れた。おやつの後に、絵本や図鑑を見て絵の描き方を調べることもできた。良い日だった!
 まあ、毎日良い日なんだけどさ。

「なる。もう少ししたら、お義母さんが来られる時間じゃない?」

 お茶を配って歩いた後のワゴンをガラガラと押していると、玄関の辺りですれ違った乙羽おとわが教えてくれた。

「え?ほんと?」

 今日は少し、のんびりと仕事をし過ぎたかな。急いで片付けないと。

「ありがと」

 教えてくれたことにお礼を言うと、うん、と笑ってくれる。そこへ、呼び鈴が鳴って、扉の向こうから、青葉あおばです、と聞こえた。
 え?俺、そんなに遅かった?

「はーい」

 と、返事をした乙羽おとわがすぐに玄関を開けるので、慌ててワゴンを押して行こうとすると、

「なるちゃん、急がなくていいよ」

 と、青葉あおばから声が掛かった。

「私が、早く着いちゃったんだ。急がなくていい。いつも通りでいいんだよ。誰かに送ってもらったり、乗り合いの車を頼まなくていいから、いつも通りの時間に出たら、早かったんだよ」

 そうかあ。良かった。

「昨日は、不動ふどうさんが助手席でうるさかったけど、今日はお義父さんが黙って見守ってくれてね。運転しやすかったよー」
 
 不動ふどうさん?
 お義父さん?

乙羽おとわちゃん、久しぶりだのう。今日も可愛いのう」
「きゃあ、お義祖父様じいさま。私はもう、抱き上げられて喜ぶような歳ではありません!」
「いつまでも、可愛い孫だよ。少し大きくなったなあ」

 乙羽おとわを片腕で軽々と抱っこした男の人が、にこにこと笑っている。

「こんにちは」

 挨拶をしてからよく見ると、しわが多いけど常陸丸ひたちまる力丸りきまるにそっくりな顔だった。髪の毛は白い。

「こんにちは。お邪魔するよ。こりゃまた可愛い子がおるのう」

 乙羽おとわを抱いてない方の腕が伸びてくる。乙羽おとわが、きゃあ、って言いながら全然嫌そうじゃないので、俺も持ち上げてくれる腕に体を預けた。乙羽おとわと顔が近付いて、思わず笑う。
 二人で抱っこだ!何か、楽しい。

「おお。いいもの拾った。可愛いから連れて帰ろうかのう」

 うーん。それは駄目。
 俺が首を横に振ると、男の人は楽しそうに笑った。

「駄目かあ」
「私たち、仕事中だしね」
「そりゃ、邪魔してすまんかったなあ」

 笑った顔のまま、そっと下におろされた。楽しかった。また、乙羽おとわと一緒に抱っこしてほしい。

「わしは、乙羽おとわちゃんと常陸丸ひたちまる力丸りきまるのじいちゃんだ。よろしく」
成人なるひとです」
「偉いのう」

 挨拶をすると褒めてくれる。この人も、好き。
 じいって付く人は皆、強くて優しくて力持ちなんだな!

「また、来る?」

 思わず聞いてみた。
 じいちゃんは、顔を全部笑いの形に変えてうんうんと頷いた。

青葉あおばさんの運転の付き添いは、これからずっと、わしがしよう」
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