【完結】人形と皇子

こぼれ話

気持ちいいこと 緋色 *

　いつもと違うことをして、楽しい気分でいつもと違う風呂場にいる。成人なるひとは軽く興奮状態にあるのだろう。

「気持ちいいこと、したい。」

　お風呂に入った途端のおねだりは、しがみついてのキス付きという本気モードだった。可愛い陰茎はすでに緩く立ち上がっている。
　成人なるひとはこの行為を、気持ちいいこと、と名付けた。いいセンスをしている。
　たぶん無意識下で成人なるひとの最も嫌な思い出と直結しているこの行為を、俺から誘うことはない。成人なるひとの気分待ち、誘われても体調が悪そうなら負担にならないように抜いてやって誤魔化す。
　自分で触っても気持ちよくなるのだということを成人なるひとは知らないから、定期的にお誘いがくるのはとても嬉しい。
　最後までしてしまうと、気持ち的には大満足らしいが、体には負担がかかって翌日は布団でごろごろしていることが多い。とんでもなくご機嫌で布団に転がっている姿は、なかなかの破壊力である。
　せっかく温泉旅行に来たが、動物園に行けなくなっては本末転倒だと、考えないようにしていたのに。だが、そういえば。

「新婚旅行だったな。」

　そう思った途端に、ものすごくしたくなった。返事代わりに深い深いキスを返す。口を離すと、はあ…と色っぽい吐息を溢した。
　このままでは俺の頭が逆上のぼせあがってしまう、と慌てて風呂から出る。軽く体を拭いてやって布団へ運ぶ。その間もちゅ、ちゅとキスを落としてくるので、こちらの興奮も高まるばかりだ。
　布団の横には、香油と避妊具、タオルが置いてある。荘重むらしげだな。成人なるひとの様子に気付いたのだろう。ありがたく使わせてもらうことにする。
　成人なるひとの可愛らしいものをそっと握りこむと、は、は、と浅く息を吐いて、あっという間にほんの少しの白濁を出した。

「あ…きもちい…。」

　くたり、とした体を抱えて、後ろの孔をそっと撫でる。香油をたくさん使って、やわらかく解して。
　成人なるひとの中にそっと入る。

「ひいろ、すき…。」

　溜め息と共に掠れた声が呟いた。

「ん。俺も…。辛くないか？」
「しあわせ…。」

　体のすべてを預けてくれるので、深く深く繋がっていける。
　ああ、気持ちいいなあ。
　全部預けあって、ゆっくりとひとつになって。
　はあ、と甘い吐息。
　少しずつ揺さぶっていくうちに、明日のかばのことは頭からすっぽり飛んだ。