【完結】人形と皇子

かずえ

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こぼれ話

見ているものは  緋色

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 成人なるひとが、気持ちいいこと、と名付けた行為に夢中になって、余韻に浸りながら微睡まどろむ。

「ひいろ、すき…。」

 可愛い囁きに目を開けてキスを落とすと、ふにゃりと幸せそうに笑う顔が見えた。
 成人なるひとも、とろとろと半分夢の中だ。早めに布団に入ったが、すっかり夜は更けている。
 裸で抱き合ったまま、まあいいか、と心地好さに負けてそのまま眠りについた。

「殿下。起きてます?」

 常陸丸ひたちまるの声が襖の向こうから聞こえる。なるべく声は絞っているようだが、どことなく焦っている。

「ああ。」
「すみません、入ります。」

 まだ寝ぼけた頭で返事をしたら、浴衣姿の常陸丸ひたちまるが静かに布団の側に寄ってきて座った。
 俺の寝起きが良くないことは、とっくに知られている。

「すみません、殿下。俺、抑えがきかなくて、乙羽おとわ、午前中動けそうにないです。」

 そこまで言ってから、全く起きる気のない俺に気付いたらしい。

「あー、もしかして成人なるひとも?」
「まあ、動けそうにないな……。」
「……午後から動物園に行って帰りますか?」
「かばは、午後には昼寝しているのでは?」

 荘重むらしげが音もなく常陸丸ひたちまるの横に座る。
 その言葉に、目が覚めた。不味い……。かばを見ずには帰れない。

荘重むらしげ。もう一泊、できるか聞いてきてくれ。この部屋で無くても構わん。」
「かしこまりました。」
「今日は最悪、動物園はあきらめよう。」
「いえ、午後はほんの少しでも出た方がいいです。初めての旅行で、ちょっとでも落ち込む気持ちを残したくないし。もう、させてくれなくなったら困るし……。」

 荘重むらしげが返事と共に動いて見えなくなった後、俺の言葉に常陸丸ひたちまるが答えた。最後の方は、声が小さくなっている。

「あー。半日でも行くか。きりんは午後に餌やりができるから、乙羽おとわがしたいことはできるな。」
成人なるひとは……。」
「かばは明日だ。大丈夫だ。ぞうの前に置いておけば機嫌はいい。まだ、奥のらくだまでたどり着いてもいないしな。」
「俺らもらくだまで行けてないです。」

 そう、ほっとしたように言ってからくっくっくっ、と常陸丸ひたちまるが笑った。

「なんだ?」
「小学校の遠足で、あっという間に回ったのが嘘みたいだと思って。」
「お前、何にも見てなかっただろ。」
「それどころでは無かったので。まあ、でも。」

 何かを思い出すように、言葉を切る。

「結局、動物はどうでもいいんですよね。動物を見て喜んでいる乙羽おとわが見れたら、俺はそれでいいんです。」

 くくっと俺も笑ってしまった。

「俺もだ。」

 腕の中で、くうくうと寝ている成人なるひとの背中を撫でる。

「もう一泊、この部屋で大丈夫だそうです。常陸丸ひたちまるの部屋も。」
 
 荘重むらしげの声。
 俺たちは、ほっとして顔を見合わせた。
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