【完結】人形と皇子

かずえ

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第一章 初めての幸せ

16 緋色 4

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 調停案がまとまり、とりあえずの宣言を出して、今回の任務は一応の終わりを迎える。
 正式なものは、また文官たちがやるのだろうが、広く戦争の終結を知らしめて、無駄な犠牲が増えないようにしなければならない。
 宣言するための舞台の周りには、ぞくぞくと人が集まっている。武器など持っていないことを確認させ、皇国の兵が銃を構えて見張りについているので、滅多なこともできまいが、あまりに集まってくると、緊張感が増していく。
 共に舞台に上がる帝国の陸軍大将は、二日前に突然やってきて、それまでの交渉役を退けた。ここまで、共に苦労して話を重ねてきていたので、突然の交代劇には苛つきしかなかったが、ここまでの交渉役がそれで良いのなら仕方ない。
 
 今朝は、特に調子の悪そうな成人なるひとが気にかかる。目を開けるのも辛そうに、くったりと布団に埋もれているのを見ると、そのまま消えてしまいそうだった。水を飲ませると、ひいろ、と呟いた。
 常陸丸ひたちまるが飴を握らせても、その腕は上がらない。
 仕方なくそのまま、舞台へと向かった。
 壇上に上がる。静まり返る人々。ほとんどが帝国人のはずだが、この反応は歓迎なのか、反対なのか。と、思ったときだった。
 群衆の中から、小さな人影があり得ない速さで迫ってくる。とんでもない跳躍力で跳び上がった時に、常陸丸ひたちまるの銃が撃ち抜いた。一人、落ちる。もう一人、撃ったところで、背後のビルの窓が割れる音。落ちてくる、成人。 
 成人なるひとの目が隣の帝国人に向いているのを見て、咄嗟に常陸丸ひたちまるを止める。

常陸丸ひたちまる、撃つな!」

 蹴りながら、帝国の陸軍大将の上に落ちる成人なるひと。鈍い音は、どちらかの骨が折れた音か。陸軍大将が、口から血を吐きながら叫ぶ。

「なぜ、なぜだ……。戦闘人形ドールが私を?」

 成人なるひとの鼻から、鼻血が垂れてくる。ぐ、と握りしめた右手で男を殴った途端、盛大に胃液を吐いた。様子が、おかしすぎる。
 強張った体を抱き上げる。

成人なるひと成人なるひと、しっかりしろ」
「……成人なるひと、こいつが、何かしてるんだな」

 頷くのを見て、常陸丸ひたちまるが帝国軍人をためらわず撃つ。成人なるひとからくたり、と体の力が抜けた。
 しん、としていた群衆のざわめき。消えた……。自由だ……。

成人なるひと……」 
「はい」

 腕の中で、成人なるひとは嬉しそうに笑った。右手から、砕けた飴がぱらぱらと落ちた。
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