上 下
231 / 398

231 ◇どうしていつも少し遅いのか

しおりを挟む
「いっちゃん?」

 晃はロフトを見上げて呼びかけた。衣類を置きにロフトへ上がっていったきり、一太が降りてこない。
 二人で暮らす部屋に着いて、持たされた荷物の片付けをした。食べ物の類は冷蔵庫に詰め込み、紅茶のパックやお菓子は棚の中のかごへ。日用品もこまごまとある。よくこんなに色々と気が付くものだ。
 衣類も、片付けるだけだった。母は、昨夜出した洗濯物も全て綺麗に洗って乾かし終えている。二枚しかパンツと靴下を持っていなかった一太を引きずって洋服店の初売りに連れて行き購入した品も、あっという間にタグを外されて洗われていた。一太の服は最近、母が送ってきた晃のお古で間に合っていたが、流石にパンツと靴下は荷物に入っていなかったらしい。元々持っていた三つで回していたから、泊まりがけのお出かけと言われて、一つ持っていくのが精一杯だったのだ。母に気付いてもらえて良かった。
 そういったことを見るたびに、母の凄さを知る。晃では気付けないことが、悔しいけれどたくさんある。一太自身が気付いていない色んな不都合を、なるべく早めに気付いてあげたいのだけれども。
 そんな事を考えながらロフトに上がった晃は、お腹を押さえてうずくまる一太を見つけて血の気が引いた。

「え? いっちゃん? どうしたの? お腹痛い?」

 また、我慢していたのだろうか。
 そういえば、やけに一太の口数が少なかったかもしれない。電車の中では、ポチ袋を手に喜んでいるようだったから、晃から話しかけないようにしていた。けれど隣同士の席だったから、様子は見ていた。特に不調があるようには見えなかった。
 電車を降りて歩いている時も、いつもの様子だったように思う。家に着いてからは? どうだったっけ?
 一太が、台所の品を晃に預けて、自分の荷物を先にロフトへ置きに行ったのがおかしかったかもしれない。一太が自分の荷物を優先した事なんて無かった。
 あれは、少し異変を感じていたから?

「う、う……うぇ」

 一太は、晃の呼びかけに返事もできずに嘔吐えずいている。
 口元に左手を置いて、出さないように必死に押しとどめようとしていた。右手は、下腹の辺りを強く掴んだまま離せずにいる。

「待ってて」

 一太を運ぶのは無理だと判断して、晃はロフトから半分飛ぶようにして下りた。洗面器を持って戻ると、まだ必死に口を押さえていた一太の前に差し出す。

「う、うぅ」
「いっちゃん、出して。ここなら大丈夫。こういう時は、出した方が早く治るから」

 晃は、昔聞いたことがある知識を引っ張り出して、一太の背中をさすった。吐きそうな時は吐いた方がいい。毒素も一緒に出るから、と病院の先生が言っていた。
 洗面器を見て、一太が左手を口から離す。我慢していたものが口から吐き出された。晃が予想していたよりもたくさん出て、これで少しはすっきりしただろうか、と晃が様子を伺うと、一太の額から汗が滲んできている。

「う……うぇ……」

 まだ出るのか? と晃は青くなった。というか、汗? 何日も留守にしていた後の冬の部屋は、暖房を入れてもすぐには暖まらない。まだ、晃でも少し寒く感じる室温だ。寒がりの一太には、まだ寒いはず。
 おかしい。
 おかしい。
 お腹痛いとかで、いっちゃんがこんな……。
 晃が話しかけても一太は何も言えずに嘔吐くばかり。晃は混乱しながらも、何とか救急車を呼んだ。
しおりを挟む
感想 655

あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! 時間有る時にでも読んでください

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...