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231 ◇どうしていつも少し遅いのか
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「いっちゃん?」
晃はロフトを見上げて呼びかけた。衣類を置きにロフトへ上がっていったきり、一太が降りてこない。
二人で暮らす部屋に着いて、持たされた荷物の片付けをした。食べ物の類は冷蔵庫に詰め込み、紅茶のパックやお菓子は棚の中のかごへ。日用品もこまごまとある。よくこんなに色々と気が付くものだ。
衣類も、片付けるだけだった。母は、昨夜出した洗濯物も全て綺麗に洗って乾かし終えている。二枚しかパンツと靴下を持っていなかった一太を引きずって洋服店の初売りに連れて行き購入した品も、あっという間にタグを外されて洗われていた。一太の服は最近、母が送ってきた晃のお古で間に合っていたが、流石にパンツと靴下は荷物に入っていなかったらしい。元々持っていた三つで回していたから、泊まりがけのお出かけと言われて、一つ持っていくのが精一杯だったのだ。母に気付いてもらえて良かった。
そういったことを見るたびに、母の凄さを知る。晃では気付けないことが、悔しいけれどたくさんある。一太自身が気付いていない色んな不都合を、なるべく早めに気付いてあげたいのだけれども。
そんな事を考えながらロフトに上がった晃は、お腹を押さえてうずくまる一太を見つけて血の気が引いた。
「え? いっちゃん? どうしたの? お腹痛い?」
また、我慢していたのだろうか。
そういえば、やけに一太の口数が少なかったかもしれない。電車の中では、ポチ袋を手に喜んでいるようだったから、晃から話しかけないようにしていた。けれど隣同士の席だったから、様子は見ていた。特に不調があるようには見えなかった。
電車を降りて歩いている時も、いつもの様子だったように思う。家に着いてからは? どうだったっけ?
一太が、台所の品を晃に預けて、自分の荷物を先にロフトへ置きに行ったのがおかしかったかもしれない。一太が自分の荷物を優先した事なんて無かった。
あれは、少し異変を感じていたから?
「う、う……うぇ」
一太は、晃の呼びかけに返事もできずに嘔吐いている。
口元に左手を置いて、出さないように必死に押しとどめようとしていた。右手は、下腹の辺りを強く掴んだまま離せずにいる。
「待ってて」
一太を運ぶのは無理だと判断して、晃はロフトから半分飛ぶようにして下りた。洗面器を持って戻ると、まだ必死に口を押さえていた一太の前に差し出す。
「う、うぅ」
「いっちゃん、出して。ここなら大丈夫。こういう時は、出した方が早く治るから」
晃は、昔聞いたことがある知識を引っ張り出して、一太の背中をさすった。吐きそうな時は吐いた方がいい。毒素も一緒に出るから、と病院の先生が言っていた。
洗面器を見て、一太が左手を口から離す。我慢していたものが口から吐き出された。晃が予想していたよりもたくさん出て、これで少しはすっきりしただろうか、と晃が様子を伺うと、一太の額から汗が滲んできている。
「う……うぇ……」
まだ出るのか? と晃は青くなった。というか、汗? 何日も留守にしていた後の冬の部屋は、暖房を入れてもすぐには暖まらない。まだ、晃でも少し寒く感じる室温だ。寒がりの一太には、まだ寒いはず。
おかしい。
おかしい。
お腹痛いとかで、いっちゃんがこんな……。
晃が話しかけても一太は何も言えずに嘔吐くばかり。晃は混乱しながらも、何とか救急車を呼んだ。
晃はロフトを見上げて呼びかけた。衣類を置きにロフトへ上がっていったきり、一太が降りてこない。
二人で暮らす部屋に着いて、持たされた荷物の片付けをした。食べ物の類は冷蔵庫に詰め込み、紅茶のパックやお菓子は棚の中のかごへ。日用品もこまごまとある。よくこんなに色々と気が付くものだ。
衣類も、片付けるだけだった。母は、昨夜出した洗濯物も全て綺麗に洗って乾かし終えている。二枚しかパンツと靴下を持っていなかった一太を引きずって洋服店の初売りに連れて行き購入した品も、あっという間にタグを外されて洗われていた。一太の服は最近、母が送ってきた晃のお古で間に合っていたが、流石にパンツと靴下は荷物に入っていなかったらしい。元々持っていた三つで回していたから、泊まりがけのお出かけと言われて、一つ持っていくのが精一杯だったのだ。母に気付いてもらえて良かった。
そういったことを見るたびに、母の凄さを知る。晃では気付けないことが、悔しいけれどたくさんある。一太自身が気付いていない色んな不都合を、なるべく早めに気付いてあげたいのだけれども。
そんな事を考えながらロフトに上がった晃は、お腹を押さえてうずくまる一太を見つけて血の気が引いた。
「え? いっちゃん? どうしたの? お腹痛い?」
また、我慢していたのだろうか。
そういえば、やけに一太の口数が少なかったかもしれない。電車の中では、ポチ袋を手に喜んでいるようだったから、晃から話しかけないようにしていた。けれど隣同士の席だったから、様子は見ていた。特に不調があるようには見えなかった。
電車を降りて歩いている時も、いつもの様子だったように思う。家に着いてからは? どうだったっけ?
一太が、台所の品を晃に預けて、自分の荷物を先にロフトへ置きに行ったのがおかしかったかもしれない。一太が自分の荷物を優先した事なんて無かった。
あれは、少し異変を感じていたから?
「う、う……うぇ」
一太は、晃の呼びかけに返事もできずに嘔吐いている。
口元に左手を置いて、出さないように必死に押しとどめようとしていた。右手は、下腹の辺りを強く掴んだまま離せずにいる。
「待ってて」
一太を運ぶのは無理だと判断して、晃はロフトから半分飛ぶようにして下りた。洗面器を持って戻ると、まだ必死に口を押さえていた一太の前に差し出す。
「う、うぅ」
「いっちゃん、出して。ここなら大丈夫。こういう時は、出した方が早く治るから」
晃は、昔聞いたことがある知識を引っ張り出して、一太の背中をさすった。吐きそうな時は吐いた方がいい。毒素も一緒に出るから、と病院の先生が言っていた。
洗面器を見て、一太が左手を口から離す。我慢していたものが口から吐き出された。晃が予想していたよりもたくさん出て、これで少しはすっきりしただろうか、と晃が様子を伺うと、一太の額から汗が滲んできている。
「う……うぇ……」
まだ出るのか? と晃は青くなった。というか、汗? 何日も留守にしていた後の冬の部屋は、暖房を入れてもすぐには暖まらない。まだ、晃でも少し寒く感じる室温だ。寒がりの一太には、まだ寒いはず。
おかしい。
おかしい。
お腹痛いとかで、いっちゃんがこんな……。
晃が話しかけても一太は何も言えずに嘔吐くばかり。晃は混乱しながらも、何とか救急車を呼んだ。
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