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230 ◇お年玉のこと
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電車の中で、肩下げ鞄を引っかき回してお年玉のポチ袋を取り出した一太は、男子大学生がもらうにしては随分と可愛らしいその袋を手に、しばらくじっと動かなかった。
「いっちゃん?」
あまりに長い時間じっとしているので、心配になった晃が声を掛けてしまったほどだ。多分喜んでいるんだろうと思ったから、しばらくは静かにしておくつもりだったのに。
「……いいのかな」
「お年玉? くれるって言うんだからもらっておこうよ。子どもの特権だよ」
言ってから、しまった、と晃は思った。いっちゃんは、成人していたんだったな。けれど、父と母は、学生の間はお年玉をくれると言っていた。だから、学生の間は子どもってことでいいと思う。
「俺、子どもじゃないんだけど……」
「うーん。父さんと母さんから見たら子どもってことで」
「そんなのでお年玉を渡していたら、あっちにもこっちにも渡さなきゃならなくなっちゃう」
「はは。それは困る」
自分から見て歳若い、子どもに見える人にあちこちお年玉を渡していたら大変だ。だから、そうじゃない。誰にでも渡す訳じゃない。
では誰に? と晃は考えてみる。
自分の子どもに、と思ってから一太を見た。晃が実子を持つとしたら、その時隣に一太はいない。なら、渡す相手は自分の子どもじゃない。
そのうち、姉たちに子どもが生まれたらお年玉を渡そう。おじちゃん、なんて呼ばれて、お年玉ちょうだいと手を出されて……。一太は、喜んで準備しそうだな。ポチ袋とか二人で選びに行って、銀行で新札にも替えてもらわなくちゃならないな。
「俺、なんでお年玉、もらっていいの……?」
「あげたい人に、あげるものなんじゃないかな」
「あげたい人……?」
うーん、うーん、と考えた一太が、やっぱり首を傾げる。
「父さんと母さんの中で、いっちゃんはお年玉を渡したいくらい大事で大切ってこと」
「そう……」
「そう」
「そうかあ」
「そうだよ」
そのまままた黙ってしまった一太は、電車に乗っているあいだじゅう、手にポチ袋を持っていた。
晃は、今日渡されたお年玉が何だかいつもより尊い物のような気がして、一太と同じ柄のポチ袋をそっと撫でた。
「いっちゃん?」
あまりに長い時間じっとしているので、心配になった晃が声を掛けてしまったほどだ。多分喜んでいるんだろうと思ったから、しばらくは静かにしておくつもりだったのに。
「……いいのかな」
「お年玉? くれるって言うんだからもらっておこうよ。子どもの特権だよ」
言ってから、しまった、と晃は思った。いっちゃんは、成人していたんだったな。けれど、父と母は、学生の間はお年玉をくれると言っていた。だから、学生の間は子どもってことでいいと思う。
「俺、子どもじゃないんだけど……」
「うーん。父さんと母さんから見たら子どもってことで」
「そんなのでお年玉を渡していたら、あっちにもこっちにも渡さなきゃならなくなっちゃう」
「はは。それは困る」
自分から見て歳若い、子どもに見える人にあちこちお年玉を渡していたら大変だ。だから、そうじゃない。誰にでも渡す訳じゃない。
では誰に? と晃は考えてみる。
自分の子どもに、と思ってから一太を見た。晃が実子を持つとしたら、その時隣に一太はいない。なら、渡す相手は自分の子どもじゃない。
そのうち、姉たちに子どもが生まれたらお年玉を渡そう。おじちゃん、なんて呼ばれて、お年玉ちょうだいと手を出されて……。一太は、喜んで準備しそうだな。ポチ袋とか二人で選びに行って、銀行で新札にも替えてもらわなくちゃならないな。
「俺、なんでお年玉、もらっていいの……?」
「あげたい人に、あげるものなんじゃないかな」
「あげたい人……?」
うーん、うーん、と考えた一太が、やっぱり首を傾げる。
「父さんと母さんの中で、いっちゃんはお年玉を渡したいくらい大事で大切ってこと」
「そう……」
「そう」
「そうかあ」
「そうだよ」
そのまままた黙ってしまった一太は、電車に乗っているあいだじゅう、手にポチ袋を持っていた。
晃は、今日渡されたお年玉が何だかいつもより尊い物のような気がして、一太と同じ柄のポチ袋をそっと撫でた。
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※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
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