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28 お世話をされるのが好きかもしれない

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 昼時ひるどきを過ぎた夏休みの学食は閑散としていた。十三時半だから、夏休み営業の食堂の終了時間まであと三十分である。
 食券の機械のボタンは所々売り切れのマークが付いていて、今残っているものは限られていた。夏休みのために始めから出していないメニューと、量を抑えて作っていたため売り切れたものがあるようだ。日替わり定食や唐揚げ定食が軒並み売り切れになっている。

「あ、うどんあるよ。良かった」

 外の暑さにくらくらしていた一太は、今度は食堂の冷房の効きの良さに震えそうになっていた。松島の言葉に、ほっとする。
 うどんがある。良かった。
 そう思ったときには、はい、とうどんのチケットを渡されていた。

「え?」
「うどん。あったかいのだよね」
「あ、うん……。あ、お金……」
「後でいいよ。他に食べたいものある?  唐揚げ、は無いか。あ、ポテトあるよ。プリンは?  プリン食べる?」
「うどん……食べる、から」
「そうかあ。うん、あ、ポテトサラダならいけるかな。うーん、定食は無いのか。ポテトとカレーにするか」

 ぶつぶつ言いながらチケットを買った松島は、離していた一太の手をもう一度繋いで、近くの席に連れていって座らせた。

「え?」
「僕が持ってくるから座って待ってて。荷物、見ててね」
「え?  え?」

 一太が戸惑っている間に手荷物を向かいの席に置いて、カウンターに向かってしまう。

「遅い昼食だね。食べる物が残ってて良かったね。揚げ物の残りも食べる?」
「託児室のボランティア帰りなんです。食堂が開いてて良かった。揚げ物の残りあるんですか? 少しだけもらおうかな」
「はいよ。食べてくれたら助かるよ」

 調理をする年配の女性と楽しく話している松島の声が聞こえてくる。すぐに、購入したカレーやうどんの他に、揚げ物のおかずが盛られたお皿を持って一太の座る机に帰ってきた。

「おまけをもらっちゃった」

 にこにこと笑う松島は、託児室でしょぼくれていたあきら先生と別人のようだ。
 もう落ち込んでないようで良かった。
 
「ありがとう、あきら先生」

 一太がそう言って笑うと、松島ははっと目を見開く。それからまた、にっと笑った。

「どういたしまして、一太先生」

 隣の席に座った松島と顔を見合わせて、くすくす笑った。

「僕、これから一太くんのこと名前で呼ぼうかな。僕のこともあきらって呼んで」
あきらくん?」
「そうそう。友達っぽくていい。託児室でも呼び間違えしなくなりそう」
「名字じゃないの、びっくりした」
「ね?  たまたま同じ名字の先生がいたから皆名前にしたとか?」
「子どもたちを名前で呼ぶから、先生も名前とか?」
「今度聞いてみよう」
「うん」

 笑い合いながらうどんを口に入れると、これが食べたかった、と身体中が訴えているかのように美味しかった。
 夢中でしばらく食べて、ほう、と息を吐く。

「美味しい?」
「うん」
「良かった」

 目の前に差し出されたポテトも反射的にぱくりと食べると、松島が嬉しそうに笑うのが見えた。

「野菜も食べないとね」

 あまりされた覚えがないので知らなかったが、お世話をされるのは好きかもしれない、と疲れた頭で一太は考えていた。
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