2 / 5
杯にはメロンソーダ
しおりを挟む
いつもは子供たちでいっぱいの長テーブルも、今は3人しかいないせいか、やけに広く感じられる。
3人のコップにはメロンソーダが入っている。乃愛がこっそりとっておいたものだ。
全員しんみりとしてしまい、何だか気まずい。
「ねえ、亜紀ちゃん。覚えてる? 一年前にみんなで行った遠足のこと」
唐突に乃愛が聞いてきた。
麗産館では年に一度、10人単位で各地に旅行に行く取り決めがあるということは亜紀も知っている。
だが亜紀は首をかしげた。一年前といえば、亜紀が麗産館に来て少し経った頃だが、実のところその頃の記憶は薄い。両親を亡くしたこと、慣れない環境、そして誰ももう自分を迎えに来ることはないという事実を受け止めきれず、いつも頭がぼーっとしているような状態だった。夜中に無意識に歩きだしたりすることもあったほどだ。
「ごめん。覚えてない」
「あの時さ、もう少しで目的の川にたどりつこうとしてたのに、結ちゃんが急にめまいがするっていいだしたでしょ? そのせいでみんな引き返すことになったの。あ、別に結ちゃんを責めてるわけじゃないからね。ただここを出て、それぞれ里親のところに行ったら、またみんなであの川に連れていってもらいたいなって。すごいキレイな眺めなんだって」
「ふーん」
亜紀はちらりと結をみた。そんなことあったんだ。少し意外だった。結は決して身体が弱いほうではない。
「結ちゃんはどこか行きたいところある? 今度引き取ってくれるアメリカ帰りの叔父さん、お金持ちなんでしょ?」
結は答えなかった。
かわりに乃愛のほうをちらりとみた。それから口を開いた。
「……あの時、見えちゃったの。川辺に3人の親子連れがいるのを。子供はちょうど私たちと同じくらいの年だったわ」
乃愛は少し考えこんでからいった。
「別に珍しいことじゃないわ。いちいち気にしてちゃ、どこにも行けない。でしょ?」
「……」
結は何も答えない。じっと手元のメロンソーダを見ている。ただ一瞬亜紀のほうへチラリと視線をやった。
亜紀はハッとした。
「ひょっとして私のためってこと? 親を亡くしたばかりの私を気づかってくれたの? 私が、自分と同じような構成で幸せそうな家族をみたら、パニックを起こすんじゃないかって?」
結はコクリとうなづいた。
亜紀は何といっていいかわからなかった。乃愛も黙ったままだ。
やっと出てきた言葉は、自分でもびっくりするほど震えていた。
「ありがとう。結ちゃん」
「うん」
結が嬉しそうに答えた。
3人のコップにはメロンソーダが入っている。乃愛がこっそりとっておいたものだ。
全員しんみりとしてしまい、何だか気まずい。
「ねえ、亜紀ちゃん。覚えてる? 一年前にみんなで行った遠足のこと」
唐突に乃愛が聞いてきた。
麗産館では年に一度、10人単位で各地に旅行に行く取り決めがあるということは亜紀も知っている。
だが亜紀は首をかしげた。一年前といえば、亜紀が麗産館に来て少し経った頃だが、実のところその頃の記憶は薄い。両親を亡くしたこと、慣れない環境、そして誰ももう自分を迎えに来ることはないという事実を受け止めきれず、いつも頭がぼーっとしているような状態だった。夜中に無意識に歩きだしたりすることもあったほどだ。
「ごめん。覚えてない」
「あの時さ、もう少しで目的の川にたどりつこうとしてたのに、結ちゃんが急にめまいがするっていいだしたでしょ? そのせいでみんな引き返すことになったの。あ、別に結ちゃんを責めてるわけじゃないからね。ただここを出て、それぞれ里親のところに行ったら、またみんなであの川に連れていってもらいたいなって。すごいキレイな眺めなんだって」
「ふーん」
亜紀はちらりと結をみた。そんなことあったんだ。少し意外だった。結は決して身体が弱いほうではない。
「結ちゃんはどこか行きたいところある? 今度引き取ってくれるアメリカ帰りの叔父さん、お金持ちなんでしょ?」
結は答えなかった。
かわりに乃愛のほうをちらりとみた。それから口を開いた。
「……あの時、見えちゃったの。川辺に3人の親子連れがいるのを。子供はちょうど私たちと同じくらいの年だったわ」
乃愛は少し考えこんでからいった。
「別に珍しいことじゃないわ。いちいち気にしてちゃ、どこにも行けない。でしょ?」
「……」
結は何も答えない。じっと手元のメロンソーダを見ている。ただ一瞬亜紀のほうへチラリと視線をやった。
亜紀はハッとした。
「ひょっとして私のためってこと? 親を亡くしたばかりの私を気づかってくれたの? 私が、自分と同じような構成で幸せそうな家族をみたら、パニックを起こすんじゃないかって?」
結はコクリとうなづいた。
亜紀は何といっていいかわからなかった。乃愛も黙ったままだ。
やっと出てきた言葉は、自分でもびっくりするほど震えていた。
「ありがとう。結ちゃん」
「うん」
結が嬉しそうに答えた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
あさはんのゆげ
深水千世
児童書・童話
【映画化】私を笑顔にするのも泣かせるのも『あさはん』と彼でした。
7月2日公開オムニバス映画『全員、片想い』の中の一遍『あさはんのゆげ』原案作品。
千葉雄大さん・清水富美加さんW主演、監督・脚本は山岸聖太さん。
彼は夏時雨の日にやって来た。
猫と画材と糠床を抱え、かつて暮らした群馬県の祖母の家に。
食べることがないとわかっていても朝食を用意する彼。
彼が救いたかったものは。この家に戻ってきた理由は。少女の心の行方は。
彼と過ごしたひと夏の日々が輝きだす。
FMヨコハマ『アナタの恋、映画化します。』受賞作品。
エブリスタにて公開していた作品です。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
月からの招待状
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
児童書・童話
小学生の宙(そら)とルナのほっこりとしたお話。
🔴YouTubeや音声アプリなどに投稿する際には、次の点を守ってください。
●ルナの正体が分かるような画像や説明はNG
●オチが分かってしまうような画像や説明はNG
●リスナーにも上記2点がNGだということを載せてください。
声劇用台本も別にございます。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐︎登録して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
あいうえおぼえうた
なるし温泉卿
児童書・童話
五十音(ごじゅうおん)を たのしく おぼえよう。
あいうえ「お」のおほしさま ころんと
そらに とんでいる。
さてさて、どこへいくのかな?
五十音表と共に、キラキラ星の音程で歌いながら「ひらがな」をたのしく覚えちゃおう。
歌う際は「 」の部分を強調してみてね。
*もともとは「ひらがな」にあまり興味のなかった自分の子にと作った歌がはじまりのお話です。
楽しく自然に覚える、興味を持つ事を第一にしています。
1話目は「おぼえうた」2話目は、寝かしつけ童話となっています。
2話目の◯◯ちゃんの部分には、ぜひお子様のお名前を入れてあげてください。
よろしければ、おこさんが「ひらがな」を覚える際などにご利用ください。
ずっと、ずっと、いつまでも
JEDI_tkms1984
児童書・童話
レン
ゴールデンレトリバーの男の子
ママとパパといっしょにくらしている
ある日、ママが言った
「もうすぐレンに妹ができるのよ」
レンはとてもよろこんだ
だけど……
友梨奈さまの言う通り
西羽咲 花月
児童書・童話
「友梨奈さまの言う通り」
この学校にはどんな病でも治してしまう神様のような生徒がいるらしい
だけど力はそれだけじゃなかった
その生徒は治した病気を再び本人に戻す力も持っていた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる