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最後の夜
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だいぶ慣れてきたのにな。
亜紀は冷水で食器を一枚一枚、確実にゆすぎながらそう思っていた。
ここにくるまでは、食器洗いなんてしたこともなかった。ここにやってきた最初の夜、子供たちが当番制で食事の後片付けをすることになっていると知らされたときは、何をしていいかわからずキョロキョロ周りを見るだけだった。そこから比べれば、我ながら大した進歩だ。
児童養護施設、麗産館には下は赤ちゃんから上は小学6年生まで、全部で100人近くの子供が生活している。使う食器の量も少なくない。それらすべてを3人ほどの子供だけで、洗い、ゆすぎ、同時にテーブルの掃除をするというのは決して簡単ではない。まして、できるだけ短時間に効率よく終わらせるにはコツがいるのだ。
明日からこれもないと思うと、ほっとすると同時に少しだけつまらない。
「亜紀ちゃん。食器ゆすぐの、あとどれくらいで終わりそう?」
後ろからそう声をかけてきたのは、乃愛だった。同じ小学5年生だが、乃愛は亜紀より頭ひとつ分背が低い。クリッとした目に、おさげ髪でなんとなく幼くみえるが、実際には亜紀より3年も先に入所した先輩で、施設のルールを教えてくれたのも乃愛だった。
「もうあとちょっとで終わる。そっちは?」
乃愛は使わなかった食器をダンボール箱につめていた。
「まあ、なんとかね。明日になったら、今亜紀ちゃんがゆすいでいる分もしまわなきゃいけないから、その分の空きをつくっておかないと」
亜紀は笑って聞いた。
「結ちゃんはどうしてるの?まだテーブル掃除?」
「そう。まだテーブル掃除」
乃愛はそういって、目をくるっとまわした。
結も亜紀や乃愛と同じ小学5年生だが、スラリと背が高く、色白で小さな顔をしているため、学校の男子生徒からはかなりの人気だった。
ただ何をするにしてもワンテンポ遅れてしまうのだ。
「亜紀ちゃん。悪いんだけど、コップを3つゆすいだら、すぐに乾かしておいてくれる?」
「いいけどなんで?」
「うーん……最後の晩餐的な?」
「そっか、わかった」
今夜をもって麗産館は閉鎖される。
終わるのは食器洗いだけじゃない。乃愛や結とも、明日からは離れ離れになるのだ。
亜紀は冷水で食器を一枚一枚、確実にゆすぎながらそう思っていた。
ここにくるまでは、食器洗いなんてしたこともなかった。ここにやってきた最初の夜、子供たちが当番制で食事の後片付けをすることになっていると知らされたときは、何をしていいかわからずキョロキョロ周りを見るだけだった。そこから比べれば、我ながら大した進歩だ。
児童養護施設、麗産館には下は赤ちゃんから上は小学6年生まで、全部で100人近くの子供が生活している。使う食器の量も少なくない。それらすべてを3人ほどの子供だけで、洗い、ゆすぎ、同時にテーブルの掃除をするというのは決して簡単ではない。まして、できるだけ短時間に効率よく終わらせるにはコツがいるのだ。
明日からこれもないと思うと、ほっとすると同時に少しだけつまらない。
「亜紀ちゃん。食器ゆすぐの、あとどれくらいで終わりそう?」
後ろからそう声をかけてきたのは、乃愛だった。同じ小学5年生だが、乃愛は亜紀より頭ひとつ分背が低い。クリッとした目に、おさげ髪でなんとなく幼くみえるが、実際には亜紀より3年も先に入所した先輩で、施設のルールを教えてくれたのも乃愛だった。
「もうあとちょっとで終わる。そっちは?」
乃愛は使わなかった食器をダンボール箱につめていた。
「まあ、なんとかね。明日になったら、今亜紀ちゃんがゆすいでいる分もしまわなきゃいけないから、その分の空きをつくっておかないと」
亜紀は笑って聞いた。
「結ちゃんはどうしてるの?まだテーブル掃除?」
「そう。まだテーブル掃除」
乃愛はそういって、目をくるっとまわした。
結も亜紀や乃愛と同じ小学5年生だが、スラリと背が高く、色白で小さな顔をしているため、学校の男子生徒からはかなりの人気だった。
ただ何をするにしてもワンテンポ遅れてしまうのだ。
「亜紀ちゃん。悪いんだけど、コップを3つゆすいだら、すぐに乾かしておいてくれる?」
「いいけどなんで?」
「うーん……最後の晩餐的な?」
「そっか、わかった」
今夜をもって麗産館は閉鎖される。
終わるのは食器洗いだけじゃない。乃愛や結とも、明日からは離れ離れになるのだ。
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