聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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 三日後、夕方、和人が自宅で、ドッペルゲンガーに関係したホラー小説を読んでいた。
 ある男が、誰かにつけられているような感覚を覚える。その感覚は日増しに強くなっていくが、証拠は見つからない。ついに彼は、そのを誘い出すために、一人冬山に行く。そこで近づいてくる人影。最初は吹雪で見えないのだが、近くまで来てそれがもう一人の自分だと分かる。後日、投資した彼の死体が発見されて話は終わる。
 怖いといえば怖い気もする。
 ただそれは、ドッペルゲンガーの存在とは関係なく、冬山の描写がリアルだったからではないかと気づいたところで、幸子から連絡が入った。

「幸子さん、どうしました?」

「今、良子さんのお祖父さんから連絡があった。警察が確認したところ、ここ最近、伊藤が自分に似た人物を探していたということはないらしい。特に伊藤のほうで変わった動きも無かったとのことだ。それから、彼の戸籍も確認したが、生き別れの双子いるとか、養子にもらわれていった双子の片割れというのもいなかったらしい。彼の父親が死んだときにも、隠し子と名乗り出る人もいなかったそうだ。もっとも大した遺産があったとも思えないけどね」

「じゃあ、双子説はなしですか」

「それからもう一つ。これはまだニュースにはなっていないが、昨日T都で強盗事件があった。とある不動産会社会長の家に何者かが押し入り、金塊二億円相当を盗んでいったらしいのだが、監視カメラに映っていた犯人の顔が、伊藤一正のものだったそうだ」

「えぇ!? じゃあ、これであっさり逮捕っていうことですか? 別件で?」

「ちょっと待って。実はまだ話には続きがある。実は今、伊藤一正はアメリカに旅行に出ているの。だから完全なアリバイがあるのよ」

「な!? アメリカ?」

 いくら日本の空港のセキュリティが海外に比べて甘いといっても、さすがに正式な出国手続きを偽装するのは難しいだろう。
 となると……

「まさか本当にドッペルゲンガー?」

「と、結論するのはまだ早い」

 幸子が軽く息を吞む音がした。

「今から行って、現地の様子を見てこようと思う。できれば和人にも来てほしい」

 さらりといったようだったが、なぜか幸子の声が少し震えたような気がした。

「もちろん。すぐに行きます」

 和人は即答した。
 自分でも不思議なほど、声は冷静だった。
 何も考えずに答えたからかもしれない。
 でも、何か理屈を考えていたとしても、結局行くことにしただろうと、和人は思った。
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