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事件のはじまり
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時々他所から来た人に勘違いされるが、島津家の前に広がっている田んぼは、島津家のものではない。
戦前までは大きな農家だったが、戦後の農地改革の際に土地を売り、市内の不動産事業に投資して財を成したのだった。
孝之の一人息子、守は東京の大学に進学すると、そのまま結婚。娘の良子が生まれてからも、実家に帰ることはなかったので、孝之は妻の香菜とともに二人で暮らしていくことになった。
だが、日本中で生じている少子高齢化の問題は、ここF県I市M村にも訪れていた。
そもそもM村は、江戸時代中期までは山から金が採れることで知られており、村もそれなりに栄えていたという。
だが江戸時代の後期になって砂金が採れなくなると、人は徐々に減り始めた。それは明治、大正、昭和になっても変わらなかった。
そして近年、村の人口はさらに加速度をつけて減ってきており、島津家の近辺にも無人の家が増えてきていた。村の若者達は、孝之の息子、守のように村を離れていくため、村には子供が生まれず、老人だけが残されていった。さらに日本中で、治安の悪化や強盗のニュースが騒がれるようになってきた。
守は治安の悪化と利便性から、両親に自分たちとの同居を勧めたが、孝之としては先祖代々受け継いできた土地、家屋を簡単に手放す気にはなれなかった。
だが一方で不動産業が外資や国内の大手に押され、家や庭の整備にも手が回らない状況だった。このままでは、遅かれ早かれここを出ていかざるをえないかもしれない。
孝之としては、もどかしさだけが募っていった。
そんなある日、孝之は夜中、突然人の気配に目を覚ます。
部屋の中では誰かが、じっと自分を見下ろしていた。
孝之は最初、それが妻の香菜かと思った。
だが隣の布団では、香菜が寝息を立てている。
「だ、誰だ!?」
孝之の声は自分でも情けなくなるほど、震えていた。
暗闇に目が慣れてくると、相手の顔が見えた。
それは孝之もよく知っている人物だった。
「お前は伊藤一正!? 人の家で何をしてる?」
だが名前を呼ばれても、相手の男は微動だにしなかった。
突然、男は孝之めがけて突進すると、持っていたナイフを、孝之の頭のすぐ横めがけて何度も振り下ろした。枕に何度もナイフを突き刺したのだ。
呆然としながらも、相手をはねのけようとする孝之だったが、恐怖と混乱で力が入らない。
突然、部屋の明かりがついた。
いつの間にか目を覚ました香菜が、毅然とした顔で、電灯のスイッチの脇に立っている。
男と香菜はしばし睨みあっていた。
孝之は妻のその態度に感動すら覚えた。
数秒後、男は部屋から出ていき、二人はすぐに警察に通報したのだが……
戦前までは大きな農家だったが、戦後の農地改革の際に土地を売り、市内の不動産事業に投資して財を成したのだった。
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