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事件のはじまり
4.
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こうして、幸子と和人は良子の実家へと来ることになった。良子の両親は仕事があるとのことで、良子一人が来ていた。
「和人くん、ありがとう。来てくれて。それから秦野幸子さん、本当にありがとうございます。こんな田舎まではるばると」
良子の実家の居間へと招き入れられた幸子と和人は、あらためて良子からお礼を述べられた。良子はタータンチェックのミニスカートに白のトレーナーという組み合わせだったが、誰が見ても似合っているのは間違いなかった。
居間は畳敷ながら、中央の大きなテーブルをソファが囲んでいるという和洋折衷のインテリアだった。居間の横には、庭に沿って長い廊下があり、いずれも大きな窓が並んでいたが、どれも一目でガタがきていることが分かった。台風の日は大丈夫なのか、和人は他人事ながら心配になった。それは、いかにも日本の庶民的な田舎の家の風景だった。
ソファには幸子と和人が並んで座り、その向かいには良子と年取った男女が一組座っていた。
「えーと…… うちの祖父母です。おじいちゃん、おばあちゃん、こちらが同級生の遠山和人くんと……」
良子は少しだけ言い淀んだ。
「名探偵の秦野幸子さん。今回起きた事件について、一緒に考えてくれるって」
「祖父の島津孝之です」
「妻の香菜です」
孝之は細い体格に分厚い眼鏡をかけており、神経質そうな雰囲気を醸し出していた。幸子の美しさに少したじろいだ様子をみせたが、それも一瞬だった。そこからも自分を律する厳しさが伝わってきた。
逆に香菜はぽっちゃりとした体格に、きれいにかけられたパーマが穏やかな感じを周囲に与えていた。
良子の言った名探偵という言葉に、両老人はピクリとも笑わなかった。
「はじめまして。秦野幸子と申します。このたびは不躾にも、このようにして押しかけさせていただき申し訳ありません。助手の和人とともに、精一杯ご協力させていただきます」
幸子はそう言うと、丁寧に頭を下げた。
和人はその様子を二度、見直した。
深々とした礼。
おしとやかで、礼儀正しい言葉遣い。
しかも、相手はいくら良子の祖父母とはいっても、幸子よりは年下。
全てがあまりにも意外だった。
だが考えてみれば、和人は普段自分たち家族以外と幸子が会話している場面に、これまでほとんど遭遇したことがなかった。
礼儀作法は得意と言っていたのは、あながち嘘ではなさそうだ。
帰ったら、家族に教えてやろう。和人はそう決心した。
助手というフレーズが少し引っかかったが。
「はるばるとありがとうございます。幸子さん。本当はこういうくだらない雑事に部外者を招きたくはなかったのですが……」
「ここでの会話、不必要に他言することはございませんのでご安心ください。確かにこれまで、いくつか人様のお悩みを解決する手助けをしてきましたが、あくまでボランティアのようなものです。もちろんお代も結構でございます」
そう言って幸子が慎ましげな笑みをみせると、はじめて孝之はほっとした顔になった。
秘密は守れらるからなのか、代金が無料だからなのかは和人にも分からなかった。
幸子が出された冷茶に形のいい唇をつけると、それが合図かのように孝之の話がはじまった。
「事件が起きたのは、今から二ヶ月ほど前のことです……」
「和人くん、ありがとう。来てくれて。それから秦野幸子さん、本当にありがとうございます。こんな田舎まではるばると」
良子の実家の居間へと招き入れられた幸子と和人は、あらためて良子からお礼を述べられた。良子はタータンチェックのミニスカートに白のトレーナーという組み合わせだったが、誰が見ても似合っているのは間違いなかった。
居間は畳敷ながら、中央の大きなテーブルをソファが囲んでいるという和洋折衷のインテリアだった。居間の横には、庭に沿って長い廊下があり、いずれも大きな窓が並んでいたが、どれも一目でガタがきていることが分かった。台風の日は大丈夫なのか、和人は他人事ながら心配になった。それは、いかにも日本の庶民的な田舎の家の風景だった。
ソファには幸子と和人が並んで座り、その向かいには良子と年取った男女が一組座っていた。
「えーと…… うちの祖父母です。おじいちゃん、おばあちゃん、こちらが同級生の遠山和人くんと……」
良子は少しだけ言い淀んだ。
「名探偵の秦野幸子さん。今回起きた事件について、一緒に考えてくれるって」
「祖父の島津孝之です」
「妻の香菜です」
孝之は細い体格に分厚い眼鏡をかけており、神経質そうな雰囲気を醸し出していた。幸子の美しさに少したじろいだ様子をみせたが、それも一瞬だった。そこからも自分を律する厳しさが伝わってきた。
逆に香菜はぽっちゃりとした体格に、きれいにかけられたパーマが穏やかな感じを周囲に与えていた。
良子の言った名探偵という言葉に、両老人はピクリとも笑わなかった。
「はじめまして。秦野幸子と申します。このたびは不躾にも、このようにして押しかけさせていただき申し訳ありません。助手の和人とともに、精一杯ご協力させていただきます」
幸子はそう言うと、丁寧に頭を下げた。
和人はその様子を二度、見直した。
深々とした礼。
おしとやかで、礼儀正しい言葉遣い。
しかも、相手はいくら良子の祖父母とはいっても、幸子よりは年下。
全てがあまりにも意外だった。
だが考えてみれば、和人は普段自分たち家族以外と幸子が会話している場面に、これまでほとんど遭遇したことがなかった。
礼儀作法は得意と言っていたのは、あながち嘘ではなさそうだ。
帰ったら、家族に教えてやろう。和人はそう決心した。
助手というフレーズが少し引っかかったが。
「はるばるとありがとうございます。幸子さん。本当はこういうくだらない雑事に部外者を招きたくはなかったのですが……」
「ここでの会話、不必要に他言することはございませんのでご安心ください。確かにこれまで、いくつか人様のお悩みを解決する手助けをしてきましたが、あくまでボランティアのようなものです。もちろんお代も結構でございます」
そう言って幸子が慎ましげな笑みをみせると、はじめて孝之はほっとした顔になった。
秘密は守れらるからなのか、代金が無料だからなのかは和人にも分からなかった。
幸子が出された冷茶に形のいい唇をつけると、それが合図かのように孝之の話がはじまった。
「事件が起きたのは、今から二ヶ月ほど前のことです……」
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