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1【妊娠】
1-26 出産(2)
しおりを挟むつかささんが手術室へ入って1時間―――
朝イチの会議を終え合流した父さんと共にランプの消えない手術中の赤い灯りをただじっと見つめるだけのもどかしい時間はそわそわ落ち着かず何度も父さんから注意を受けた。
「楓真くん、貧乏ゆすりやめなさい」
「……あー…緊張で吐きそ」
「もーさっきから、つかさくんの方が大変な思いをして頑張ってるんだから、キミがそんなこと言ってたら情けないよ」
「わかってるけどさぁ……」
顔を覆った手のひらの中ではぁー…と震える息を吐き出した、その時、それは突然だった。
閉ざされた扉の奥から微かにおぎゃーっという甲高い赤子の泣き声が聞こえてきた。
ばっと父さんと目を合わせ幻聴ではないことを確認する。
続けざまにもう一人の元気な泣き声も聞こえた時、これは確かに現実なんだと実感すればぶわっと込み上げる熱いものが一気に溢れ父さんの顔が歪んで見えた。
つかささん───!
「うんうん、つかさくん頑張ったね。後でたくさん労ってあげよう」
「……ん、ほんと強い人」
震える肩を抱かれながらつかささんや双子に会えるのを今か今かと楽しみに手術中のランプが消えるのを待った。
―――けれど、いくら待ってもランプが消えるどころか誰一人手術室から出てくる気配が見えず、なんだか様子がおかしいと思い始めた頃、そっと開く扉から血まみれの手術着のままマスクを外しながらドクターが出てきた。
その表情はどこか暗く、出産を終えたばかりの目目出度さとは180度違う雰囲気に嫌な予感が止まらない。
いち早く立ち上がり駆け寄った。
「な、にか…ありましたか……?」
「番の方ですね、お子さんは二人とも無事産まれました元気です」
初めに双子の無事を聞かされほっと一息着くも一番聞きたいのはつかささんの安否。
こんなにも怖いと思うことがこの世にあるなんて思わなかった。
覚悟を決めるようにスっと息を吸い、一瞬止めた呼吸を吐き出すのと同時に静かに問いかけた。
「……母体の…方は」
「出血量が多く、大変危険な状態です」
「っ、」
「縫合は済ませましたがあとは母体の気力しだい、としか……申し訳ありません」
まるでテレビ越しの映像を見ているかのように現実味がない。
無意識に数歩後ずさり、今すぐつかささんの元に駆け寄り顔を見たい……その一心で閉ざされた扉へ視線を向ければ、あんなにも待ちに待ったランプがパッと消えた。
息をのみじっと扉を見つめること数分後、酸素マスクと点滴に繋がれたつかささんがベッドに寝かされたまま運び出されてきた。
「つかささん……っ」
すぐさま駆け寄りその顔を覗き込めば、生気がまったく感じられない青ざめた顔色でぐったりと目を閉ざしている。
「っ、つかさ、さん……」
恐る恐る伸ばす手は自然と震え、ベッド脇に投げ出された手をそっと握る。持ち上げても、強く握っても、まったく反応がない真っ白な手。
「うそ、でしょ…?
ねぇ、つかささん、早く起きてくださいよ…」
「楓真くん…」
「双子、元気に産まれたって、早く一緒に名前…考えないと」
「楓真くん」
「俺、センスある名前付けれる自信ないですよだから、っ、一緒に……ねぇっつかささん!!」
「楓真くん!」
なかば悲鳴のようにつかささんを呼ぶ俺は壊れる寸前。父さんとドクターの二人がかりで無理やりベッドから引き離される。それがまるで俺からつかささんを奪っていくかのようで、「離して、離せっ」と、無我夢中で暴れていた。
「つかささんっ、ぅっ、つかささっ───」
つかささん、俺は、父さんみたく強くないから、あなた無しでは生きていけない
あなたがいないこの世に生きる意味なんてない
もし、その時は、一緒に───
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