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3【招待という名の呼び出し】
3-1もう一度イチから(1)
しおりを挟む怒涛の美樹彦さん襲撃事件があった次の日。
例え前日に大変な事があろうとも通常通り人間みな平等に朝はやってきて、平日である今日もグズることなく朝から元気な子供たちの通園準備をする傍ら、自分も出勤準備を整えていた。
「つかささん、変わります」
「ごめん楓真くんお願い」
「「ぱぁぁぱぁぁっ」」
「はーいパパだよ~」
先に準備が整った楓真くんがリビングへ顔を出し、子供たちの支度をバトンタッチしてくれると急ピッチでネクタイを結び髪を整えに洗面所へと駆け込んだ。
*****
「それじゃあふぅくん、つぅくん、今日も先生の言う事をよく聞いて、お友達と仲良くね」
「元気よく楽しんでおいで」
「「あーい」」
僕と楓真くんのほぼ決まり文句のような言葉にいいお返事で返す子供たちの頭をそれぞれ撫で手を振ると、先生に「お願いします」と挨拶をして保育園を後にする。
見える限りいつまでも手を振り続ける双子に後ろ髪引かれる思いで車へ乗り込み出発するとそのまま会社へ向かった。
*****
特に渋滞等に巻き込まれることも無く、楓真くんの運転する車が会社の敷地を跨ぎそのまま社長専用駐車場へとスムーズに入り停止したのを確認すると、「運転お疲れ様」とお礼を言いシートベルトをはずそうとする僕を「つかささん」と呼ぶ声が引き止める。
ん?とそちらに顔を向けたその一瞬に、ちゅっと掠める柔らかい感触。
あまりにも一瞬のことに目をぱちくり瞬いていると、にっと少年のように笑う楓真くんの無邪気な笑顔が僕を見つめていた。
「エネルギーチャージいただきました」
「……お粗末さまでした」
車から一歩外へ出れば僕たちの関係は秘書と社長。
この瞬間、最後のエネルギーチャージを満足そうに満たした楓真くんは切り替え早くさっさと一人車から降りていくかと思えば、わざわざ助手席側へと回りドアを開けてくれる。
衝突を防ぐ為、頭上の車枠へ手を添えることも忘れずエスコートしてくれる姿は楓珠さんしかり御門の男の嗜みなのかもしれない。
「足元気を付けてくださいね」
「ありがとう」
楓真くんの助けを受けスムーズに車から降りると、そのまま半歩後ろへ控え歩いてすぐの会社入口へ向かおうとした、その時、僕たちを待ち構える人物がいた。
その人影にいち早く気付いたのは楓真くんだった。
「はぁ…社長室に、って言ったのに…」
「え?」
ボソリと呟く楓真くんの呟きを拾うよりも先に、カツンと靴音を静かに響かせ僕たちの前へ現れたのは昨日の今日で決意を決めたのか、顔つきが若干違って見える湖西くんだった。
「おはようございます、社長、橘先輩」
「おはよ、わざわざ待ってなくても…律儀だな」
「社長へ挨拶するより先に秘書課へ行くのが気まずくて…」
「まぁ、確かに」
昨日は楓真くんの判断で湖西くんを秘書課へ戻すことなくそのまま帰宅させた事もあり、僕が楓真くんと共に秘書課へ戻った時には心配の声はかけられたもののその場に居ない湖西くんに対して皆触れてもいいのか微妙な雰囲気が漂っていたのは確かなこと。僕も楓真くんも特に何も触れないことから誰もその名前を出すことなくその日は退勤となった。
当の本人もどういう顔をして行けばいいのか悩んでいたらしい。
美樹彦さんとの関係が顕になってから見せた大人びた態度で忘れかけていたが元々僕が見ていた湖西くんは後輩色の強い元気な性格をしていた。どちらが彼の本心かはわからないが、気まずそうな顔をする湖西くんを見て社会人に成り立ての10以上も年下の男の子なのだと実感していた。
「とりあえず一旦このまま社長室行こうか。つかささんは途中まで一緒に行って先に出勤してください、湖西と話してからそっち行かせます」
「承知致しました」
湖西くんもこくりと頷いたのを確認すると楓真くんを先頭に社内へと向かう。
エントランスで受付に挨拶をされながら社員証を機械へかざしスルーすると、まだ出勤者も疎らなエレベーターホールでは呼べばすぐに降りてきたエレベーター。
他社員と乗り合いになる事もなく三人だけで乗り込み、進んで操作盤の前に立つと目的階である15のボタンを押した。
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