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3【招待という名の呼び出し】

3-2もう一度イチから(2)

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「美樹とは?あれから連絡取れてる?」
「送ってはいますが…返事はありません」
「そ。とりあえずこっちの様子を送って、まだ切られてないことを美樹にアピールしな」
「――!ありがとうございます」
「ん」
 
「……」
 

 エレベーターに乗り込んですぐ、階ボタンを押す操作盤の前にひとり陣取った僕の後ろで楓真くんと湖西くんがぽつりぽつりと会話を交わすもすぐ終わり、それっきり15階という高さへ到達するまでの間エレベーターが稼動する機械音のみが響く狭い箱の中で全員が無言で階表示を見つめるだけの時間が続いていた。

 
 
 
「それじゃあつかささん、今日も無理せずいつでも俺のところへ休憩来てくださいね」
「行きません」
「秘書モードのつかささん、つれない…」
 
 
 15階のフロアへ降り立つと先に現れる秘書課の部屋の前でこれまたお決まりとなりつつある楓真くんの言葉をバッサリ切るまでがここ数日の一連の流れ。
 シュンとする楓真くんを視界の端に押しやり湖西くんへと向き直る。
 
 
「湖西くん、また後でね」
「はい」
 
 
 緊張気味な面持ちでこくりと頷く湖西くんをじとっと睨む楓真くんに「こら」と注意すれば不満そうな顔を隠しもせず「行くよ」と先を一人歩いていく。慌ててあとを追いかける湖西くんに小さく手を振り二人の背中を見送った。
 
 
 
 *****
 
 
 
「おはようございます」
「せんぱぁいっおはようございます!」
 
 
 入室すると同時に席から元気に挨拶を返してくれるのは毎度おなじみ秘書課の元気印花野井くんだった。
 大抵いつもニコニコ笑顔で、見てるこっちまでつられて笑顔にさせる力を持つ花野井くんに「おはよう」と返事を返すとそのすぐ隣、丁度何か話していたのか花野井くんの席の横に立つ松野さんを見つけた途端、不自然に動きが止まってしまった。
 
 頭をよぎるのは昨夜の楓真くんとの会話。
 
『多分ですけど……松野さん、花ちゃん狙いかなって俺は予想してます』
 
 こんな話を聞いてしまってからいざ、ろくに心の準備も整っていない状況で本人を目の前にしてしまうと花野井くんはまだしも松野さんはもうそうなのだと頭で先入観が働いていた。
 
 
「?橘さん?」
「先輩?」
「っ、あ、えと…松野さんも、おはようございます」
「??おはようございます…」
 
 
 突然パタリと動きを止め自分たちの方をじっと見つめてくる先輩という図を不思議そうに受け止める二人に完全しどろもどろになりながら「なんでもないよごめんね、話し続けて」とその場を無理やりやり過ごし倍速で足を動かした。頭上にはてなマークを浮かべながらも話を再開し出す二人を背中で感じながらすぐたどり着く自分の席は一旦スルーし、目指すはその先に位置する水嶋さんのデスク。
 昨日の今日で楓真くんや楓珠さんから湖西くんの件はどのように話が行っているのか僕自身把握できていない為その確認も兼ねて、秘書課の長には報告しておくべき案件だろう。
 
 
「水嶋さん、おはようございます。いま少しお話よろしいですか?」
「おー、はよ橘。ん、丁度キリもいいし、いいぞ」
 
 
 声をかければ、すぐに眺めていたパソコンから目を離し、まるで今から僕がどんな話をするか、わかっているような目でこちらを見返してくる水嶋さん。
 そんな彼に昨日あった出来事とそれに対して楓真くんの考え動きを簡単に掻い摘んで説明した。
 
 
 
 
 
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