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3【発情期】
3-12 怒り
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つかささんが、消えた。
代われることなら代わりたい辛い光景に最後まで寄り添い落ち着いた頃、まだ動くのは辛そうなつかささんを一人個室に残し、急いで同じフロアの給湯室で飲み物を買って戻った時には、そこにいたはずの人が忽然と姿を消していた。
一瞬、自分の脚でどこかへ移動したのかと思ったりもしたが、それにしては不自然すぎる。
念の為確認したスマホにはつかささんからの連絡は一切なく、すぐ戻ると言って出たあの状況で、黙ってどこかに行くとは考えられず、一気に襲う嫌な予感。
辛そうだったとはいえ、何故、一人にしてしまったのか……
「――っ」
手の中のスマホを八つ当たりのように強く握ってしまう。
すると、絶妙なタイミングでスマホが震えた。
つかささんからかと慌てて開くと、差出人はストーカー集団のボス。
一瞬落胆するも、朝の一報以来、都度状況報告を受け取っていた為その続きだと思いメッセージに目を通した。
『姫といま一緒ですか?』
その一文を見て、嫌な予感は確信へと変わる。
『15階の奥のトイレで一人休ませて戻った時には居なくなってました。何か情報はありますか』
すぐさま返事を送り、待つこと数十秒。
『椿姫一派に怪しい動き有り。引き続き情報入り次第連絡します』
「――っくそ!!」
衝動的に壁を殴り付けてしまう。
あの時、不穏な椿姫秘書の言葉に慌ててつかささんの元へと向かったが、暴走しようとした彼をそのまま野放しにせず誰かに任せその場に捕獲しておくべきだった……。
おそらく今つかささんは彼と共にいる。
自らに誘発剤を投与しようとした人だ。つかささんに何をするかわからない。
一刻も早く見つけだしたい――その一心で勢いよくその場から駆け出した。
その足でまっすぐ守衛室へと向かい、事情を軽く説明しながらもほぼ顔パスで全防犯カメラの映像を見せてもらう。このビルは15階建て。闇雲に全ての階を探している時間はない。
少しでもなにか手掛かりはないかと、必死に何百もの映像を映し出す大きなスクリーンに目を凝らしていた。
「楓真くん、状況は!?」
ここへ向かう途中、連絡しておいた父さんもすぐに駆けつけ、突然やってきた社長へ慌てて挨拶をする守衛達を手で制し、隣へとやってくる。
「おそらくつかささんは椿姫秘書に連れ去られた…」
「朝の件といい、いよいよ警察沙汰かなこれは」
準備しておいて、と守衛へ指示を出す父さんを後目にスクリーンから目を離さない。
その執念の末、一箇所不自然な映像を見つけることが出来た。
「……そこ、ループしてる」
「ループ?」
「13階のエレベーターホールと会議室前の映像、アップに出来ますか」
はい、と短く返事をした後、パソコンをカタカタ操作する守衛。すぐさまモニターに2つの映像が並んでアップで映し出された。
「一見何も変化のない廊下の映像に見えるけど、エレベーター前に置かれた観葉植物の動きが不自然だ。一瞬、まるでつぎあわせたかのように突然止まり再び揺れるというのが数十秒に一回起きてる」
その説明を聞いた全員が映像の中の観葉植物へと注目する。
さわさわと風で揺れていたそれが、一瞬、カクッと止まり再びさわさわと揺れ動く。
それを目にした全員が感嘆の声を上げた。
「楓真くん…よく見つけたね」
「あと会議室前の映像では扉の奥の人影に同じ現象が起きてる。このことから13階のこの会議室付近が怪しい」
「これは…どこの会議室前のカメラかな?」
「すぐにフロアマップを出します」
再びキーボードをカタカタ叩き、モニターに13階のフロアマップが映し出される。
該当の防犯カメラは……13階の一番奥の会議室。
「あっ、楓真くん!」
場所を把握した瞬間、一目散に守衛室を飛び出した。
何度も頭をよぎる最悪の状態にだけは、どうか……どうか……祈る気持ちで13階へと走り続けた。
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