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1【運命との出会い】

1-6 社内案内(2)

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 楓珠さんから社内案内として与えられた時間は贅沢にも午前中丸々いっぱい。親睦を深める目的があるのだろう楓珠さんの想いを有難く頂戴し、その後も2人で様々な話をした。
 主に楓真さんが質問を投げかけ僕が答えるという形だが、お互いのことを知ろうと会話は絶えずコンスタントにポンポン飛び交った。
 
 だけど時たま、話が盛り上がる度にぐいっと上半身を乗り出す楓真さんの綺麗な顔がすぐ目の前まで近付いてくる。その突然距離を詰めてくる彼のパーソナルスペースには未だ慣れず、適切な距離感をと適当な理由をつけて目の前の顔を押しやれば、きょとんという音が聞こえてきそうなくらい整ったお顔が不思議そうに瞬きを繰り返す。かと思えば、僕が言いたいことを理解した途端、花が咲いたような笑顔を見せ「すみませんつい楽しくて」とさらっと言ってくるから心臓に悪い。
 
 楓真さんといるだけで血圧が上がりそうだった。
 
 
 
「つかささんはおいくつですか?」
「えっと……今年28になる歳です」
「なるほど、俺が今21なので……7歳差」
 
 
 7歳……
 
 年下であることは察していたが、実際の年齢差を言われてしまうと、うっと刺さるものがある。
 自分が楓珠さんに拾われた時、この子はまだランドセルを背負っていた歳で、その頃には既に親元を離れて海外で暮らしていたなんて……。それに、つい最近成人を迎えたばかりとは思えないくらい落ち着いた雰囲気が彼の実年齢を忘れさせた。
 
 机の下に収まらない長い脚を組んで斜めに座る姿を改めてじっと眺める。
 
 
「楓真さんは、身長何センチありますか?」
「身長ですか、うーんそうだな…最後に測った時に191でした」
「わ……羨ましい…」
「はは、確かに高い所の物を取るのには便利かな。つかささんは何センチですか?」
「……一応僕も平均身長はあるんですよ」
「はい」
 
 
 190越えの男にわざわざ言わなきゃダメなのか、と言い淀む僕をニコニコ笑って見つめてくる。これは言わなきゃダメなやつだと早々に諦め、ボソッと吐き出した。
 
 
「……172です」
「丁度ペットボトル1本分くらいですね、身長差」
「そうですねっ」
 
 
 この人は僕が歳上だということをちゃんとわかっているのだろうか……。これは決して自惚れではなく、一緒に社内を周っていた時から終始優しい眼差しを向けられ続け、特別な感情を抱いてくださっている事をヒシヒシと感じていた。
 

 もう、この際直接聞いてしまおうか――。
 
 一度決めた決心が揺らぐ前に、勢いのまま、あのっと口を開く。
 
 
「僕が、あなたの運命――というのは」
「運命です。つかささんが、俺の運命の番」
「っ、」
 
 
 ここまではっきり言いきられてしまうと何も言い返せない。一度閉じた口は、それでも何かの間違いでは無いのかと、再度口を開く。
 
 
「でも、僕は」
「俺は俺の直感を信じています」
 
 
 僕は何も感じない――そう言いたかった言葉は、楓真さんの真っ直ぐな眼差しと強い意志に圧倒され最後まで続けることは出来なかった。
 
 なんと言えばいいのかわからず視線をさ迷わせながらほぼ飲み終わったコーヒーを意味もなく両手で包み込む。すると、コーヒーごと余裕で覆ってしまう大きな手がそっと重なり、真正面から視線が捕らわれた。
 触れた瞬間、ビクッと強く反応してしまった僕に一瞬躊躇いを見せた楓真さんだがその両の手は迷いを振り切るかのようにさらに強い力が込められる。
 
 ドクドクドク――心臓の音が、狂ってしまった。
 
 触れ合ったそこから広がる、今まで感じたことの無いざわめき。だけど、不安とはまた違う、上手く表現できないこれは、なんなんだろうか……。
 
 
「つかささん、いままであなたのそばにいたのは父さんだったかもしれない……だけど、これからは俺がいます。俺に、あなたのそばにいる権利をください」
「権利、なんてそんなもの……」
「楽しいも、嬉しいも、悲しいも、つかささんの感情全てを共有したいです」
 
 
 自分でも知らなかったんですけど、俺、結構重い男みたいです。なんて、こんなイケメンに言われて嫌な気持ちになる人類は果たしてこの世に居るのだろうか……少なくとも僕は今、嬉しい、と思ってしまった。
 
 
「えっと…とりあえず、連絡先の交換からでも……」
「ぜひ!!」
 
 
 中高生でももっとマシな回答をするだろうに、こんな状況に慣れてない僕の精一杯の返しは、驚くほど楓真さんを喜ばせた。
 早く、気が変わらないうちに!早く!と急かされ、スマホを取り出す。普段あまり連絡を取り合う人もなく、慣れないSNSの操作を甲斐甲斐しく教えて貰いながら、なんとかQRコードを読み取り合った。
 自分のスマホに表示された『御門楓真』の名前をじっと見つめる。
 
 
「つかささんちょっと貸してください」
「?はい、どうぞ」
 
 
 手を差し出され、何も疑問に思わずスマホを渡せば、楽しそうに操作する楓真さん。続いて逆の手で自分の物も操作し、両手に持つスマホの画面を見て満足したのか満面の笑みを浮かべて返してもらったスマホの画面に映っていたのは、先程交換して新しく登録された連絡先のページ。
 
 だが、その名前が――
 
 
『楓真♡』
『つかささん♡』


 見た瞬間、目を疑った。

 
「絶対変えちゃダメですからね」
「……ダメですか」
「ダメです」


 こんな名前の付け合いをするのはどこのバカップルだと恥ずかしい気持ちになりつつ、楓真さんがあまりにも嬉しそうに声を弾ませるものだから、まぁいいか、と彼が送ってくるかわいいスタンプにクスッと笑いをこぼしていた。
 
 


 
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