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1【運命との出会い】

1-7 社内案内(3)

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 昼休憩、普段あまり近寄らない社内併設のカフェに一歩足を踏み入れた途端、ざわめきが瞬く間に大騒ぎへと進化していく。
 
 その原因は間違いなく、涼しい顔で隣に立つ楓真さんだった。
 
 
 
 遡ること少し前。
 すっかり楓真さんとの会話に夢中になり気付けば昼休憩まであと少しというところで、せっかくだからと誘われランチまで共にすることになった。
 
 
 この際、社内施設を利用してみようとエレベーターでくだりカフェへ行くことにしてみたのだが……。
 普段社長に随行している時は社長オススメのお店だったり気になるお店だったりと昼を外で食べることが多く、フリーの時は仕事の片手間コンビニで買ってきたもので軽く済ませている為、社内にある施設とはいえ利用する機会がなく、その混み具合が予想できなかった。
 その為、少し早めに向かったにも関わらず、注文を終えトレイを受け取る頃には百人程度は収容できるワンフロア丸々カフェの店内は満席に近いくらい人で溢れていた。
 
 埋まりつつある席を探していると、先に探しに出た楓真さんが少し離れた場所から「つかささん」と僕を呼ぶ。
 彼は気づいているのだろうか、彼の動きに合わせて追いかける視線の多さに。
 
 
「こっち。ソファの方使ってください」

 
 だけど、そんなものは一切気にならない、というように彼の視界には僕だけが映し出されている。と思うのは自惚れだろうか―――
 
 
「つかささん?」
「あ、」
「大丈夫ですか?やっぱり人が多くて不便ですかね…」

 
 一旦自分のトレイを席に置いてきた彼は、周りを避けるよう身軽に近寄ってくると、自然と僕のものを引き受け心配そうに顔色を伺ってくる。
 その間も多くの視線が寄せられているのを四方八方からヒシヒシと感じていて―――注目されるのは楓珠さんと共にする事で嫌という程経験してきた。
 
 気にするな、怖気付くな、と震えそうになる手をギュッと握り小さく息を吐き出したそんな時、身体を包むふわりと優しい何かを感じた。
 
 
「え――…これ、」
「あ、もしかしてわかりました?俺のフェロモン。
 少しでも楽になればいいなと思ってつかささんだけに流してみたんですけど……」

 
 不快じゃないですか?と、僕を心から心配して気遣ってくれるこの人は―――
 
 本当に僕の運命なのかもしれない……。
 
 
 この体質になって以来、フェロモンの匂いはもちろん気配ですら一切感じた事がなかった。なのに今、残念ながら匂いはわからないものの、目に見えない優しい何かが僕を包み込み息がしやすくなっているのを感じる。
 
 
 ポンコツだと思っていたこの身体が、楓真さんのフェロモンに、反応してる――?
 
 なぜだか今、無性に泣いてしまいそうだった。
 
 
「つかささん?」
「――楓真、さん…」
 
 
 いまこの場所が人が大勢いるカフェの店内ではなかったら、今にもその胸に抱かれたい、抱きしめて欲しい……そんな衝動を抑えている自分がいることに驚きを隠せなかった。
 こんな感情は初めてで、あぁ、自分もれっきとしたオメガだったんだな、と滲みそうになる視界をなんとか瞬きで誤魔化した。
 
 
「……ありがとう、ございます。あの、よろしればもう少しこのまま――」
「もちろん、いくらでも」
 
 
 行きましょうと微笑む楓真さんの優しいなにかに包まれながらエスコートを受け、視線から守られるように席まで向かった。
 
 
 
 
 
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