ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ロストソードの使い手編

八十話 未知

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 林原さんは僕の要望を聞き届けた後、ワイワイとしているのに目もくれず調理の音を鳴らし続ける。二人をいなしつつ彼を待って、しばらくすると、懐かしく安心感のあるあのカレーの香りが漂ってきた。すると、熱くなっていたモモ先輩とコノも沈静化。僕はその隙に戦乱から逃れて席に座る。同じようにして僕を挟む位置にコノとモモ先輩が座ると、そこに林原さんがカレーを運んでくれた。
 米はみずみずしさのある白さがあり、ルーは見た目だけで濃厚さが伝わってきて、その中に入っている肉や野菜も、見慣れた色合いで、日本で食べるようなものと近い物が入っていた。ホクホクと湯気が上がっていて、それがより食欲をそそる。

「お、美味しそう」
「ソラくんのカレーって本当に美味しいのよね。クールで家庭的だなんて素敵」

 さっきまで僕への想いを語っていたけど、一変してモモ先輩は林原さんをうっとりした顔で饒舌に話し出す。その切り替えの早さに思わず苦笑してしまう。

「こ、これって……」

 そしてもう一人の子は、異文化に触れた事で驚愕に固まっていた。その様子は、少し前の僕のようで微笑まししく思ってしまう。

「カレーだよ」
「か、かれー? 何だか凄い色ですね」
「あはは、確かにあっちの食べ物とは大きく違うよね。僕も同じ事を思ったなぁ」
「そ、そうだったんですね。ユウワさんと同じ気持を共有出来て嬉しいです……けど……」

 無邪気な微笑みを僕に向けるも、下に視線を落とすと苦笑いに変わってカレーとにらめっこをし出す。

「それじゃ、あたしはお先に。いただきます」
 早速モモ先輩は銀のスプーンを持ち、米とルーを掬い上げて口に入れる。

「んー! 甘くてとても美味しいわソラくん!」
「そうか」

 過剰とも言えそうな美味による歓喜の声を上げる。まだキッチンに立っている林原さんは、さらっと無関心そうに返事。それにお構えなしにモモ先輩は次々に食べていく。

「僕も、いただきます」

 エルフの村で過ごした癖から、しっかりと手を合わせて目を瞑り、感謝をしてから食事を開始。

「随分と丁寧にやるのね」
「エルフの村ではこういう感じでしていて。ずっと真似していたから癖になったみたいです」
「ふふっ。でも、ユーぽんらしくていいと思うわ。イメージに合っていて素敵よ」
「あ、ありがとうございます」

 意外な方向から褒められてからカレーを食べると、感情が調味料になったのか、舌がとろけるような甘さとぎゅっと濃縮されたうま味が口内に広がる。さらに、家で出されるような安心感も味覚を刺激してきて、食べる度に多幸感が溢れてきた。

「す、凄く美味しい……!」
「……そんなに、ですか?」
「うん! 食べてみなよ。きっと大丈夫だから」
「は、はい。……いただきます」

 エルフの作法をして、未知のものと触れる慎重な手つきでスプーンにカレーを乗せる。そして顔の前に持ってきて、数秒それを見続けてから、目を瞑ってパクリと食す。もぐもぐと味わうと、強張っていた表情がどんどんほぐれていき、最後には笑みになっていた。

「おいひーです! 甘くて濃厚で、それだけじゃなく少しの辛さでバランスが取れてて……」

 感動のあまりかその勢いで食レポをしだす。そんなコノを眺めていると、誰目線なんだってツッコまれそうだけど、こっちの文化を受け入れてくれたようで嬉しかった。

「良かった」
「ユウワさんがとっても美味しそうなお顔を見せてくれたおかげです。あの、見ながら食べていいですか?」
「え、ええと……構わないけど……」

 正直断りたいけど、コノの笑顔を失いたくなくてついオーケーを出してしまった。

「あたしもやっていい? ユーぽんの飯の顔は空腹よりも良い調味料なの」
「何か、凄い複雑な気持をなんですけど」
「褒めてるのよ? ユーぽんには人を幸せにする力があるの」
「そ、そうなんですか? なら……嬉しいです」

 その褒め言葉には弱かった。乗せられてしまい、僕は調味料になる事を了承する。

「……」
「……最高よユーぽん」
「ユウワさん、美味しいです」

 何だか凄い羞恥プレイを受けているような気がするが、カレーの味によって周りはシャットアウトされ、夢中になってひたすら味わった。
 そうして気づいた時にはご飯粒一つもなくなって、充足感に満たされていて。二人も同様に綺麗に食べきっていた。

「「「ごちそうさまでした」」」
 食事を終えたモモ先輩やコノはとても満たされた良い顔をしていて、それの一助になれた事が少し嬉しかった。

「ユーぽんのおかげで十倍くらい美味しく食べれたわ」
「コノは百倍美味しく食べられました!」
「は? じゃあ千倍」
「なら一万倍です!」

 いきなり火がついて謎のマウントの取り合いが発生してしまう。それは際限なくオークションのように続いてしまった。

「と、とりあえず片付けを」

 僕は戦乱から逃れるべく二人の分のお皿を流しに持っていき、ゆっくり置いた。

「僕、洗いますよ」
「いや必要ない。それよりも話があるんだ」
「話……ですか」

 要件はなんとなく予想出来る。きっと未練についての話だろう。

「だから席にいてくれ」
「わかりました」

 洗い物の手伝いは、林原さんに制されて再び席につく。少し待っていると、僕ら三人に飲み物を出してくれて、その後に対面に座る。

「話……というのは?」
「俺の未練についてだ」

 そう切り出されて息を呑んだ。さっきまでのふわふわしていた脳が急速に張り詰める。

「愛理から聞いていると思うが俺は霊だ。半亡霊状態で、最近は暴走する事も増えてきた。正直、時間がない」

 危機的状況で、特に本人が何よりも恐ろしいはずなのに、表情筋はほとんど動かず、真っ直ぐ僕を見据えて淡々と説明していく。

「そして、それを解決するのは日景くんしかいない」
「それは……僕が林原さんの後任だから、ですか?」
「それもある……が。もう一つ君じゃないといけない重大な理由があってな」

 ここで少し林原さんの顔が微かに強張る。さらに次の言葉を繋ぐ間が一つ挟まり、僕は唾を飲み込んだ。

「俺は二人に未練を持っているんだ」
「ふ、二人に……!?」
「嘘でしょ……」
「そんな」

 今までとケースとは違うその状態に僕だけでなくモモ先輩も驚きの声を上げた。それにコノも当事者であったからから、少なからずショックを受けているようだ。

「その二人って」
「愛理と……葵だ」
「葵……」

 ミズアではなく、その名前で呼ばれ僕の心臓が強く跳ねた。何故葵なのか、はっきりとはわからなかったけど、彼の未練の輪郭は掴めたような気がして。同時にそれがとても大きく困難な問題であると直感して、息が詰まった。
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