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7.透明化の指輪①

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 ツェローシュクのダンジョン、第六階層。
 この階層を縄張りとしているのは、アンデッド系の魔物である、ゾンビやゴーストだ。

 生物特有の気配のようなものがないため、不意をつかれやすい。
 更に、物理攻撃も通りにくいため、非常に厄介な相手である。
 
 だが、その分弱点も明確であり、火属性と光属性の攻撃にめっぽう弱い。
 初歩的なものしか使えないシンの魔法ですら、簡単に倒せるほどだ。

 精霊魔法が得意なエリーゼの攻撃であれば、多数の殲滅も可能である。

 魔力管理には気を使うが、そこにだけ気をつければ、比較的簡単に探索できる階層だった。

「おっ、宝箱だ!」

 通路の先、行き止まりになっているところに、宝箱が置かれていた。

 ダンジョンで探索する目的の一つが、この宝箱だ。
 中からは武器や魔道具など、冒険者の役に立つものが見つかることが多い。

 蓋を開けてみると、中には一つの指輪が入っていた。

「指輪型の魔道具か?」

 シンは早速指輪をはめると、魔力を流し込んだ。

「シン!
 体が……!」

 エリーゼの驚く声につられて、自分の手をみる。
 だが、とくに変わったところはみられない。

「俺の体がどうかしたか?」

「シンの体が見えないの。
 透明になってる……」

 改めて自身の手をみるが、やはり変わった様子はない。

「エリーゼも使ってみてくれ」

 シンは指にはめた指輪を外すと、エリーゼに手渡す。
 エリーゼは指輪をはめると、静かに魔力を流した。
 すると、エリーゼの姿が掻き消え、そこには宙に浮く装備や服があるだけに見える。

「本当に透明になってる……」

「でも、私にはとくに変化が感じられないわ。
 自分の体が普通に見えているもの」

 指輪を装備しているためか、どうやら主観的に消えることはないらしい。

「透明化の指輪か」

 いかにもアンデッドの階層らしいアイテムだ。

 戦闘時における透明化のメリットは、計り知れない。
 不意打ちはもちろん、撤退にも役立つ。

「ん……?」

 エリーゼをみていたシンは、おかしな点に気がついた。

「なあ、エリーゼ。
 お前からみて、俺の装備や服は見えていたか?」

「……見えていたわね」

 ……なんということだ。

 着ているものが見えていては、透明化の効果は半減どころの話ではない。

「それにその指輪、魔力の消費が結構多いな。
 俺の魔力量だとそんなに長時間使えないぞ」

 とてもではないが、探索中にずっと透明化するといったような使い方はできなさそうだ。

「体が消えるだけでも十分戦闘は有利になるだろうが、なんというか……、ハズレだな」

 体だけ透明化するメリットと、魔力の消費量を天秤にかけると、やはり魔力の方が大切だろう。
 とくに、この第六階層のような、魔法攻撃が必須に近い階層なら尚更である。

「……それ、いらないんなら私が預かってもいいかしら?」

 透明化を解除したエリーゼがいった。

「ん?
 別にいいが。
 まあ、確かに、エリーゼの方が魔力量も多いし、使い勝手がいいかもしれないな」

「ありがとう!」

 エリーゼは満面の笑みを浮かべた。
 シンとしてはハズレアイテムだったが、エリーゼの役に立つのならいい拾い物だったかもしれない。



 ダンジョンで見つけた透明化の指輪。
 シンはこの指輪はハズレアイテムだといったが、本当にそうだろうか。

 透明化しても着ているものが見えてしまうのなら、全て脱いでしまえばいいのでは?
 完全に不可視の状態からの、魔法による奇襲。
 よほど察知能力に秀でた相手でもなければ、回避は不可能だろう。

 その考えが脳裏を過った瞬間、エリーゼの女が疼くのを感じた。

 今日は休日の予定であり、すっかり日が昇った今でも、シンは気持ち良さそうに寝ている。
 エリーゼは布団から出ると、指にはめたままの透明化の指輪を見つめた。

(これはこの指輪の効果を確かめるためよ……)

 これから行うことを思うと、思わず喉がなる。

 指輪に魔力を流すが、とくに変化は感じられない。

 部屋に姿見はないので、本当に透明になったのかを確認することはできないが、昨日の感覚からすれば、間違いなく消えているはずだ。

 シンとともに眠ったため、既にエリーゼは何も纏っていなかった。
 つまり、客観的には、エリーゼは完全な透明になったはずである。

 エリーゼはベッドから立ち上がると、部屋のドアの前に立った。

 このドアを開ければ、そこはプライベートな空間ではなくなる。
 もしかしたら、隣の部屋から出てきた客にみられてしまうかもしれない。

 じっとりと、さらけ出された裸体に汗がにじむ。

(指輪の効果を確かめるためだもの……)

 意を決したエリーゼは、ゆっくりとドアを開けた。

 廊下は静寂に包まれていた。
 既に宿泊客の多くは外出している時間だろう。

 周囲をうかがい、誰もいないことを確認してから、エリーゼは部屋から出た。

 体は隠さない。
 いつ、誰が通るかもわからない場所で、あられもない姿を晒している。
 ドクンと胸が鳴った。

 無意識に足音を殺しながら、二階の部屋から一階へと階段を下りていく。
 宿の一階は食事スペースになっている。
 食事の時間は賑やかな場所だが、今は、それらしい声は聞こえてこない。

 エリーゼは階段の角から顔だけを覗かせて、食堂の様子をうかがった。

 閑散とした室内では、ちょうど宿屋の主人が掃除をしているところだった。

 指輪にはしっかり魔力を流している。
 ちゃんと透明になっているはずだ。

 エリーゼは震える体で、食堂に足を踏み入れた。
 足音を殺しているせいか、食堂に入っても主人がエリーゼに気がつく気配はない。
 一歩、また一歩と主人へと近づいていく。

 そして、テーブルを拭く主人の目の前に立った。

 顔をあわせれば、気さくに挨拶をしてくれる主人。
 そんな人の前で、エリーゼは産まれたままの姿を晒していた。
 豊かな胸も、薄い黄金色の陰毛も、その下の割れ目も全て。

 テーブルを挟んだすぐそこで裸体を晒していても、気がつかれることはない。

 もしここで、指輪に魔力を流すのを止めたら……。
 想像しただけで痺れるような、甘美な思考が巡る。

「ふぅっ……、ふぅっ……」

 ばれてしまうかもしれないとわかっていても、熱い息が漏れるのを止められない。
 ムンとした雌の香りが、あたりを漂う。

「うん?」

 そのとき、机を拭いていた主人が顔をあげた。

「っ!」

(まさか、バレた!?)

 冷や汗が頬を伝う。
 だが、よくみると、こちらを向く主人の視線は、エリーゼを捉えていなかった。
 なにかを探すようにキョロキョロしているが、エリーゼと目が合うことはない。

「……気のせいか」

 それだけ呟くと、主人は掃除へ戻ってしまった。

 ばれずにすんだ安堵から、膝の力が抜けそうになるのを、どうにかこらえる。

 上気した顔で、局部をさらけ出しているエリーゼ。
 主人にばれてしまったかもしれないと思った瞬間、鋭い快感が体を突き抜けた。
 まだ一切の刺激を与えていないというのに、胸の頂きはすっかり尖り、秘唇から溢れ出た蜜液は、太ももを伝っていた。

(もう少し、指輪の効果を確認した方がいいわよね……)

 ゴクンと唾を飲み込んだエリーゼは、宿の入り口へと、羞恥で震える足を進めた。
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