婚約破棄されて闇に落ちた令嬢と入れ替わって新しい人生始めてます。

●やきいもほくほく●

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番外編

小鳥の囀り(ユーア&ゼフ)

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真っ暗闇の中

夜に聞こえる歌だけが、心を癒してくれた。





「~~♪~♪~」




毎夜聞こえる少女の歌声、地下牢に響く透明な歌。
歌詞も分からないし、聞いた事もない歌だった。


けれど、ゼフの荒んだ心を癒してくれた。


もう、ここに来て何度こうしているだろう。
纏わり付く重たい鎖がチャリ‥と小さく音を立てた。


簡素で何もない牢の中、自分より小さな黒髪の奴隷達が後ろで身を寄せて眠っていた。
ゼフ自身も明日の重労働の為に眠れなければならないのに、隣の牢にいる少女が歌う唄を聴きたくて今日も起きている。

焼印を入れられた時にも涙を流さなかったゼフは、初めて少女の唄を聞いた時に涙を流したのを、今でも良く覚えていた。









次の日、夜になっても少女の歌が聞こえなかった。






ゼフはその少女の事が気になって眠る事が出来なかった。


「‥‥おい」


声を掛けても反応しなかった。
ゼフはその瞬間、焦りを感じて、居てもたってもいられなくなった。

牢屋は頑丈で開かないが、牢屋同士の壁は比較的脆かった。
力を入れて石を崩せば、何とか隣の部屋と繋がる穴ができた。
そこから覗くと、藍色の髪の少女が横たわっていた。


「おい、お前‥起きろ!」


ゼフよりずっと小さな少女の肩がピクリと動く。
むくっと、ゆっくり起き上がった少女は大きな瞳でゼフを見つめていた。


「今日は何故、歌わないんだ」

「‥‥?」


少女は首をコテンと傾けた。
どうやらゼフの言葉が通じていないようだった。

ゼフが少女が歌っていた唄を口遊むと、少女は楽しそうに笑いながら声を出して歌った。

その日、久しぶりに笑顔になれた‥。








それから暫く経った後、鍵番が眠りこけていて、落ちた鍵がゼフのすぐ近くまで転がってきた。
このチャンスを逃したら一生このままかもしれない。

同じ牢屋に入れられている仲間を起こして、鍵を引き寄せる。
手枷を外して牢屋のドアが開けた。

仲間達は我先にと急いで抜け出していく。



ゼフも先を急ごうとした時だった‥

隣の牢屋の少女と目があった。
ただ、真っ直ぐにゼフを見ていた。


「‥‥一緒に、行くか?」


無意識だった。

連れて行けば足手まといになるだろう‥確実に。
それでも、気付けば鍵を開けて、少女の手を繋いで牢屋から逃げ出していた。


外に出ると冷たい雨が降っていた。


今からやる事は山程ある。
住む場所を整えて、食料も確保しなければならない。
また奴隷商人に捕まらないように逃げ回らなければならない。

それでも、ゼフはこの少女と共にいる事を選んだ。






















「~♪~♪」

「ユーア、あの時の歌‥覚えてるの?」

「‥勿論よ」

「あの歌がなかったら、俺は此処にはいないな‥」

「あら奇遇ね、私もゼフが居なかったら此処には居ないわ」


ユーアはクスクスと笑う。


「今日お嬢様がね、ゼフとは恋人じゃないの?って聞いたのよ」

「へぇ‥お嬢様もそんな歳か」

「えぇ」

「‥‥何て答えたの?」

「大切な人って答えたわ」


ゼフがユーアに手を伸ばす。
藍色の髪がサラリと流れた。



「‥残念だな」

「どうして‥?」

「君の恋人になれなくて」


ゼフは悪戯した子供のように笑った。
昔から頭が良くて、力もあって‥ずっとユーアを守り続けてくれた人

逃げ出して走れない時も、ずっとユーアを背負って歩いてくれた。
お腹が空いて倒れそうな時は、自分の分まで食べ物を与えてくれた。
涙で前が見えなかった時は、優しく拭ってくれた。
怖くて眠れない時は、ずっと抱きしめてくれた。


「意地悪ね‥」

「‥‥何が?」

「もう‥!」


ゼフの手を取り、頬へと引き寄せる。
大きな手のひらから伝わる体温が心地よい。


「ゼフ‥」

「‥‥」

「愛してるわ、私の神様‥‥もう貴方なしでは生きられないの」

「‥ずるいなぁ」


ゼフはそっとユーアを抱きしめた。
細い腰を抱き込むように向き合うと、今度はユーアがゼフに言う。


「‥‥ゼフは?」

「言わなきゃダメ‥?」

「ずるい人ね」


ゼフの背に手を回す。
ローズレイのお陰で消えた焼印。
本当の意味で、ゼフが解放された瞬間だった。

ユーアは嬉しくて堪らなかった。



「私が死ぬまで側に居てね‥」

「ユーアが死ぬまで側にいる‥約束だからね」

「ありがとう」

「愛してるよ、ユーア」

「うん」

「君のためなら何でもできそうだ‥」

「ふふ、じゃあ新しい指輪が欲しいわ」

「おねだり?」

「そう、薬指が寂しいのよ」

「そうだね、旦那様に相談してから決めるよ」

「私も奥様に相談しなくちゃ」



 












END

 
お互いが絶対な二人の出会いから今の関係まで。
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