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番外編
貴方に捧げるアネモネの花(サラ&スタンカート)
しおりを挟む「おれは、おまえと"けっこん"してやる!」
「??」
「なんとかいえよ!"ぷろぽーず"してるんだぞ」
「ありがとうございます‥?」
「おう!おれをしんじてついてこいよ!」
暖かい記憶がサラの胸に刻まれている。
(子供の頃の話を今も信じていると言ったら、きっと笑われてしまうでしょうね)
サラは本をパタリと閉じた。
物語が大好きなサラにとって、本は無くてはならないものだ。
蒼の蝶、ヴェーラー家
そこの長女として生まれたサラは、同じ歳に生まれた第一王子のスタンカートと親しくしていた。
父親が宰相をやっていた事もあり、よく一緒に城へ行ったのだ。
鈍色の髪はくるくるとパーマが掛かっていて、可愛いらしい天使のようだと思った。
性格はサラとは真逆‥スタンカートは活発で、いつも忙しなく動いていた。
世話係を困らせるなんて日常茶飯事だった。
サラは家から持ち込んだ本を椅子に腰掛けて読んでいた。
スタンカートは横から話しかけてはサラの読書の邪魔をする。
だからサラはスタンカートがあまり好きではなかった。
「ほら、本ばかり見てないで、こっちにこいよ!」
無理やり手を引かれて、いつも何処かへ連れてかれた。
池だったり、板金鎧が並んでいる部屋だったり、城の中だったり‥。
スタンカートはとても楽しそうにしていた。
そんなスタンカートを見ているとサラも不思議と嫌な気分では無くなっていった。
初めは面倒だと思っていたスタンカートの相手も、次第に慣れてきて楽しくなってきた頃だった。
『おれは、おまえと"けっこん"してやる!』
物語に出てくる王子様とは違い、少し乱暴だけど、本物の王子様にプロポーズされたのだ。
サラは平然を装っていたが、本当はとてもとても嬉しかった。
けれど、その後すぐにスタンカートの弟で第二王子であるランダルトとの婚約者候補に選ばれたのだと報告があった。
貴族に生まれた以上、抵抗する事は出来ない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、サラはランダルトと過ごしていた。
物腰柔らかで、優しく微笑みながらサラの相手をしてくれるランダルト‥けれど、いつもチラつくのはスタンカートの笑顔だった。
結局、ランダルトと会う時はいつもスタンカートを思い出してしまう。
そして、スタンカートと会う事はなくなった。
波のように襲う寂しさにサラは押しつぶされそうだった。
自分がスタンカートが大好きなんだと、その時初めて気が付いたのだ。
しかし、近頃聞くのはスタンカートの悪い噂ばかりだった。
女遊びが激しい、城下に降りては遊び回っている。
それでもサラは本当のスタンカートを知っていた。
本当のスタンカートはそんな人ではない‥サラはスタンカートを信じていた。
ある時、ヒューレッド家のローズレイと婚約したのだと聞かされた時、一瞬時が止まったように感じた。
悲しいし悔しかった。
けれど女神の生まれ変わりと称されるローズレイには叶わない。
ヒューレッド家に出入りするスタンカートは、ローズレイのおかげなのか元のスタンカートに戻っていった。
仲睦まじい様子の2人の噂はサラの元にも届いた。
サラの心はボロボロになった。
サラは結婚に乗り気ではなく、申し込まれる縁談も断り続けていた。
そのうち、訳あり令嬢として腫れ物扱いされていた。
それでも誰とも婚約せずに待ち続けたのは、もう意地だったのかもしれない。
このまま教会へ入れればいいと思っていた。
両親には申し訳ないけれど、サラはスタンカート以外に興味はない。
儚い蝶のように飛んで‥誰も知らない所で散っていきたい。
そんなサラの願いは、まさかの形で叶うことになる。
ローズレイとスタンカートの婚約が解消される事になったのだ。
理由としては、ローズレイが王家に嫁ぐと国が滅びるのだという。
夢で女神から告げられたらしい。
サラは心の底から喜んだ。
スタンカートが自分の元に戻ってきてくれる保証も無いのに‥。
それから暫く経った後‥
サラはいつもの様に庭で本を読んでいた。
「‥‥サラ」
誰かに呼ばれた気がして、顔を上げた。
目の前には暫く姿を見ていなかったスタンカートが居た。
サラと同じくらいだった背は高くなって、知らない人みたいだった。
「スタン、カート様‥?」
「‥久しぶり」
本が膝からバサリと落ちた。
サラは目を見開いて立ち上がった。
暫くの沈黙が続く。
スタンカートが何度も口を開いて閉じてと、サラに何かを伝えようとしていた。
サラはスタンカートの言葉を静かに待ち続けた。
「‥‥お座りになりますか?」
「‥あぁ、すまない」
「‥‥」
「‥‥」
サラは目を閉じた。
狭くなったベンチ‥サラもスタンカートも大きくなったのだ。
「お、お前に‥伝えたい事があってだな‥」
「‥‥はい」
「その‥‥サラは」
ギュッと膝の上で拳を握りしめるスタンカート。
何を伝えたいのかは分からないが、スタンカートと会えるのは、これで最後になってしまうかもしれない。
スタンカートに寄りかかる様に身を寄せた。
今だけは誰のものでもないスタンカート。
(‥‥温かい)
サラはとても心地よい温もりに身を任せた。
「‥‥ッ!!?」
「‥‥」
「サラ‥俺は」
「‥‥はい」
「ずっと昔から、お前が好きだったんだ」
サラはその言葉に驚いて顔を上げた。
スタンカートは顔を真っ赤にしてサラの手を取る。
「俺は‥‥お前と結婚したい」
「‥!?」
「遅くなってすまない‥けど、俺はお前との約束は忘れた事ないからな‥!」
「‥‥」
「こっ、これはプロポーズだからな!!何とか言えよ‥サラ」
「‥‥」
「サラ‥」
「あなたはいつも遠回りね‥遅すぎるのよ」
「うっ‥」
「今までの分まで、ずっと一緒に居てくれるんでしょう?」
「‥!!」
「私は、ずっと貴方が迎えに来てくれるのを待ってました」
「ありがとう、サラ‥‥俺を信じてくれて‥」
「‥‥貴方を信じて良かった」
END
幼馴染の切ない愛でした
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