上 下
20 / 24
番外編

貴方に捧げるアネモネの花(サラ&スタンカート)

しおりを挟む

「おれは、おまえと"けっこん"してやる!」

「??」

「なんとかいえよ!"ぷろぽーず"してるんだぞ」

「ありがとうございます‥?」

「おう!おれをしんじてついてこいよ!」


暖かい記憶がサラの胸に刻まれている。


(子供の頃の話を今も信じていると言ったら、きっと笑われてしまうでしょうね)





サラは本をパタリと閉じた。
物語が大好きなサラにとって、本は無くてはならないものだ。

蒼の蝶、ヴェーラー家
そこの長女として生まれたサラは、同じ歳に生まれた第一王子のスタンカートと親しくしていた。
父親が宰相をやっていた事もあり、よく一緒に城へ行ったのだ。

鈍色の髪はくるくるとパーマが掛かっていて、可愛いらしい天使のようだと思った。
性格はサラとは真逆‥スタンカートは活発で、いつも忙しなく動いていた。
世話係を困らせるなんて日常茶飯事だった。

サラは家から持ち込んだ本を椅子に腰掛けて読んでいた。
スタンカートは横から話しかけてはサラの読書の邪魔をする。
だからサラはスタンカートがあまり好きではなかった。


「ほら、本ばかり見てないで、こっちにこいよ!」


無理やり手を引かれて、いつも何処かへ連れてかれた。
池だったり、板金鎧が並んでいる部屋だったり、城の中だったり‥。
スタンカートはとても楽しそうにしていた。
そんなスタンカートを見ているとサラも不思議と嫌な気分では無くなっていった。

初めは面倒だと思っていたスタンカートの相手も、次第に慣れてきて楽しくなってきた頃だった。


『おれは、おまえと"けっこん"してやる!』


物語に出てくる王子様とは違い、少し乱暴だけど、本物の王子様にプロポーズされたのだ。
サラは平然を装っていたが、本当はとてもとても嬉しかった。

けれど、その後すぐにスタンカートの弟で第二王子であるランダルトとの婚約者候補に選ばれたのだと報告があった。

貴族に生まれた以上、抵抗する事は出来ない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、サラはランダルトと過ごしていた。

物腰柔らかで、優しく微笑みながらサラの相手をしてくれるランダルト‥けれど、いつもチラつくのはスタンカートの笑顔だった。

結局、ランダルトと会う時はいつもスタンカートを思い出してしまう。




そして、スタンカートと会う事はなくなった。




波のように襲う寂しさにサラは押しつぶされそうだった。

自分がスタンカートが大好きなんだと、その時初めて気が付いたのだ。

しかし、近頃聞くのはスタンカートの悪い噂ばかりだった。
女遊びが激しい、城下に降りては遊び回っている。

それでもサラは本当のスタンカートを知っていた。
本当のスタンカートはそんな人ではない‥サラはスタンカートを信じていた。




ある時、ヒューレッド家のローズレイと婚約したのだと聞かされた時、一瞬時が止まったように感じた。

悲しいし悔しかった。

けれど女神の生まれ変わりと称されるローズレイには叶わない。
ヒューレッド家に出入りするスタンカートは、ローズレイのおかげなのか元のスタンカートに戻っていった。
仲睦まじい様子の2人の噂はサラの元にも届いた。

サラの心はボロボロになった。

サラは結婚に乗り気ではなく、申し込まれる縁談も断り続けていた。
そのうち、訳あり令嬢として腫れ物扱いされていた。
それでも誰とも婚約せずに待ち続けたのは、もう意地だったのかもしれない。

このまま教会へ入れればいいと思っていた。
両親には申し訳ないけれど、サラはスタンカート以外に興味はない。





儚い蝶のように飛んで‥誰も知らない所で散っていきたい。





そんなサラの願いは、まさかの形で叶うことになる。
ローズレイとスタンカートの婚約が解消される事になったのだ。

理由としては、ローズレイが王家に嫁ぐと国が滅びるのだという。
夢で女神から告げられたらしい。

サラは心の底から喜んだ。
スタンカートが自分の元に戻ってきてくれる保証も無いのに‥。










それから暫く経った後‥

サラはいつもの様に庭で本を読んでいた。


「‥‥サラ」



誰かに呼ばれた気がして、顔を上げた。

目の前には暫く姿を見ていなかったスタンカートが居た。
サラと同じくらいだった背は高くなって、知らない人みたいだった。


「スタン、カート様‥?」

「‥久しぶり」


本が膝からバサリと落ちた。
サラは目を見開いて立ち上がった。

暫くの沈黙が続く。

スタンカートが何度も口を開いて閉じてと、サラに何かを伝えようとしていた。
サラはスタンカートの言葉を静かに待ち続けた。


「‥‥お座りになりますか?」

「‥あぁ、すまない」

「‥‥」

「‥‥」


サラは目を閉じた。
狭くなったベンチ‥サラもスタンカートも大きくなったのだ。


「お、お前に‥伝えたい事があってだな‥」

「‥‥はい」

「その‥‥サラは」


ギュッと膝の上で拳を握りしめるスタンカート。
何を伝えたいのかは分からないが、スタンカートと会えるのは、これで最後になってしまうかもしれない。

スタンカートに寄りかかる様に身を寄せた。
今だけは誰のものでもないスタンカート。


(‥‥温かい)


サラはとても心地よい温もりに身を任せた。


「‥‥ッ!!?」

「‥‥」

「サラ‥俺は」

「‥‥はい」

「ずっと昔から、お前が好きだったんだ」


サラはその言葉に驚いて顔を上げた。
スタンカートは顔を真っ赤にしてサラの手を取る。


「俺は‥‥お前と結婚したい」

「‥!?」

「遅くなってすまない‥けど、俺はお前との約束は忘れた事ないからな‥!」

「‥‥」

「こっ、これはプロポーズだからな!!何とか言えよ‥サラ」

「‥‥」

「サラ‥」

「あなたはいつも遠回りね‥遅すぎるのよ」

「うっ‥」

「今までの分まで、ずっと一緒に居てくれるんでしょう?」

「‥!!」

「私は、ずっと貴方が迎えに来てくれるのを待ってました」

「ありがとう、サラ‥‥俺を信じてくれて‥」

「‥‥貴方を信じて良かった」
















END

幼馴染の切ない愛でした
しおりを挟む
感想 185

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。