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第82話 おともだちになる幼女と魔女
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「えっ?おともだち……?」
なんとアルテミシアの要求は、私が彼女の事を「あだ名」で呼ぶことであった。
思いもよらぬ提案に一同を取り巻く空気が固まる。
深刻な状態に危険を感じているというわけではなく、完全に虚を突かれたという状況であった。
彼女からの予想外の注文を、この場にいる誰もが想像などできなかったのである。
「……だめ?」
少し不安げに甘えるような声を出すアルテミシア。
その声には母親の愛情を求める子供のような期待が混じっているように思えた。
だが、もしかしたら、私が彼女のことを「アーシャ」と呼ぶことでなんらかの「スイッチ」が入るのかもしれない。
つまり、アルテミシアが私の身体を乗っ取るための条件に「あだな呼び」が入っているのではないかというわけである。
「いや、別にそれはいいんだけど……」
アルテミシアと親しくなれることは、私サイドとしても願ってもないことなのだ。
とはいえ、私が「力を求める」ことの対価が「おともだち」になることでいいのかという疑問が残る。
私は彼女の問いかけに対していまいちスッキリとしない反応を見せながら、周囲で見守るロキ達の方へと視線を送った。
そして、ありがたいことに私の様子を見ていたラティスが助け船を出す。
「おともだちって言っても、それはいったいどういうつもりなんだい?」
ニコニコとほほ笑みながらも、目は真剣なラティスがアルテミシアへと詰問するのであった。
-----
それからしばらく、ラティスと私、アルテミシアの3者による会話が続く。
その間、周囲で見守るロキ達武人は、時折アルテミシアが見せる魔力の暴走に慌てふためいていた。
「だって、だって、メルちゃんてばすっごい可愛いんだもん!」
しかし、私の身体から溢れ出る強烈な魔力渦は、決して攻撃的な理由から出ているのではなかった。
ただ単純に、アルテミシアが興奮気味に私について喋っているだけで溢れてくるのである。
なので、ラティスが言うには「特に今のこの状態に危険はない」ということであった。
とはいえ、私は想像もしていなかった彼女の普段の調子に驚きを隠せない。
「まあ、そういうことなら全然問題ないと思うよ、アルテミシア」
無限に「魔王妃メルヴィナの愛くるしさ」について語るアルテミシアが一呼吸置いたタイミングで、ラティスが会話に一区切りつける。
このままずっと喋り続けるのかと緊張していた一同であったが、漸く話が終わりそうで少し安心するのであった。
結局、アルテミシアとの会話内容を端的にまとめると「メルヴィナの力になりたい」ということらしい。
なんだかんだ、千年単位で意識を保っているアルテミシアも元々人間であるわけで、やはり「寂しい」という気持ちがあるのだという。
「確かに、ずっと一人で封印されてるっていうのは辛いわよね……」
そう考えるとなんだか気の毒な話である。
私が王国にいた頃に聞いた話では、古代を生きたアルテミシアは魔女として「処刑」されているはずである。
現代に生きる人間的にはほとんど「御伽噺」の世界であるが、確実にアルテミシアは当時を生きていた。
その死後にどうやったのかは分からないが、母体中の赤子に憑りつくことでその命を繋いだという話のはずである。
まあ、詳しい話はよく分からないし、そもそも「アルテミシア」に関する情報なんて人間の間では超マイナー雑学程度のもので、都市伝説レベルの認識だった。
だから、彼女が今話していることも本当かどうかは分からない。
「でも大丈夫よ、アーシャ」
軽く目を閉じて、柔らかくほほ笑みながら私は問いかける。
そう告げたのち、私は肩の力を抜きリラックスした状態で一度深呼吸した。
瞼の裏側に見えるアルテミシアの美しい顔は、彼女の透き通る水色の瞳が良く見えるほどに目が開いている。
肩口まで伸びる青みがかった深海のような黒色の髪と、陶磁器のような白く滑らかな肌をもつアルテミシア。
私も成長が止まることなく大きくなっていたならば、彼女によく似た容姿になっていたかもしれない。
そう思えるほどに、私たちの外見的特徴には共通するものが多かった。
「私は魔王だけじゃなくて、あなたも一人になんてさせないわ」
目を閉じたまま、アルテミシアの方へと意識を向けて私は声を出す。
そして、その言葉に応えるかのように、安らかな顔をしたアルテミシアの顔に一筋の涙が伝うのだった。
なんとアルテミシアの要求は、私が彼女の事を「あだ名」で呼ぶことであった。
思いもよらぬ提案に一同を取り巻く空気が固まる。
深刻な状態に危険を感じているというわけではなく、完全に虚を突かれたという状況であった。
彼女からの予想外の注文を、この場にいる誰もが想像などできなかったのである。
「……だめ?」
少し不安げに甘えるような声を出すアルテミシア。
その声には母親の愛情を求める子供のような期待が混じっているように思えた。
だが、もしかしたら、私が彼女のことを「アーシャ」と呼ぶことでなんらかの「スイッチ」が入るのかもしれない。
つまり、アルテミシアが私の身体を乗っ取るための条件に「あだな呼び」が入っているのではないかというわけである。
「いや、別にそれはいいんだけど……」
アルテミシアと親しくなれることは、私サイドとしても願ってもないことなのだ。
とはいえ、私が「力を求める」ことの対価が「おともだち」になることでいいのかという疑問が残る。
私は彼女の問いかけに対していまいちスッキリとしない反応を見せながら、周囲で見守るロキ達の方へと視線を送った。
そして、ありがたいことに私の様子を見ていたラティスが助け船を出す。
「おともだちって言っても、それはいったいどういうつもりなんだい?」
ニコニコとほほ笑みながらも、目は真剣なラティスがアルテミシアへと詰問するのであった。
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それからしばらく、ラティスと私、アルテミシアの3者による会話が続く。
その間、周囲で見守るロキ達武人は、時折アルテミシアが見せる魔力の暴走に慌てふためいていた。
「だって、だって、メルちゃんてばすっごい可愛いんだもん!」
しかし、私の身体から溢れ出る強烈な魔力渦は、決して攻撃的な理由から出ているのではなかった。
ただ単純に、アルテミシアが興奮気味に私について喋っているだけで溢れてくるのである。
なので、ラティスが言うには「特に今のこの状態に危険はない」ということであった。
とはいえ、私は想像もしていなかった彼女の普段の調子に驚きを隠せない。
「まあ、そういうことなら全然問題ないと思うよ、アルテミシア」
無限に「魔王妃メルヴィナの愛くるしさ」について語るアルテミシアが一呼吸置いたタイミングで、ラティスが会話に一区切りつける。
このままずっと喋り続けるのかと緊張していた一同であったが、漸く話が終わりそうで少し安心するのであった。
結局、アルテミシアとの会話内容を端的にまとめると「メルヴィナの力になりたい」ということらしい。
なんだかんだ、千年単位で意識を保っているアルテミシアも元々人間であるわけで、やはり「寂しい」という気持ちがあるのだという。
「確かに、ずっと一人で封印されてるっていうのは辛いわよね……」
そう考えるとなんだか気の毒な話である。
私が王国にいた頃に聞いた話では、古代を生きたアルテミシアは魔女として「処刑」されているはずである。
現代に生きる人間的にはほとんど「御伽噺」の世界であるが、確実にアルテミシアは当時を生きていた。
その死後にどうやったのかは分からないが、母体中の赤子に憑りつくことでその命を繋いだという話のはずである。
まあ、詳しい話はよく分からないし、そもそも「アルテミシア」に関する情報なんて人間の間では超マイナー雑学程度のもので、都市伝説レベルの認識だった。
だから、彼女が今話していることも本当かどうかは分からない。
「でも大丈夫よ、アーシャ」
軽く目を閉じて、柔らかくほほ笑みながら私は問いかける。
そう告げたのち、私は肩の力を抜きリラックスした状態で一度深呼吸した。
瞼の裏側に見えるアルテミシアの美しい顔は、彼女の透き通る水色の瞳が良く見えるほどに目が開いている。
肩口まで伸びる青みがかった深海のような黒色の髪と、陶磁器のような白く滑らかな肌をもつアルテミシア。
私も成長が止まることなく大きくなっていたならば、彼女によく似た容姿になっていたかもしれない。
そう思えるほどに、私たちの外見的特徴には共通するものが多かった。
「私は魔王だけじゃなくて、あなたも一人になんてさせないわ」
目を閉じたまま、アルテミシアの方へと意識を向けて私は声を出す。
そして、その言葉に応えるかのように、安らかな顔をしたアルテミシアの顔に一筋の涙が伝うのだった。
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